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ベーシックインカムでチャレンジャーが増えるとワクワクする件

ベーシックインカムについて少し話題になっているのでこれまでに考えてきたことを書いてみたいと思います。今話題になっているのは竹中平蔵氏が全国民に毎月7万円を給付するというベーシックインカムを提唱したことが発端になっているようですね。竹中氏は既得権で儲ける金持ちの代表のように思われているのでリベラル左翼な人たちからの反発が大きくSNSでは「#竹中平蔵は月7万円で暮らしてみろ」というハッシュタグで盛り上がっているようです。

前にも書きましたが僕も暮らしの不安を取り除くためにベーシックインカムは良い制度だと思っています。この考え方に興味を持ったのは東日本大震災がきっかけです。原発の事故で生活基盤を失った人が大勢いました。これは政府の責任で賠償するのが筋でしょう。ただどのような範囲でどれだけ保証するのかといったことを確定するには時間がかかります。そこで、全国民を対象にしたベーシックインカムを導入すれば直接被害を受けた人も、間接的に被害を受けて生活が苦しくなった人も、震災とは関係なく元々生活が苦しかった人も、今は苦しくなくても先々が不安な人もみんながホッとできるのではないかと思ったのです。

ベーシックインカムとは、生活に必要最低限の現金を国が国民一人ひとりに給付するという制度です。竹中氏は月額7万円と言って少なすぎると批判されているようですが、僕は8万円あればなんとか暮らせるのではないかと思っています。その内訳は家賃2万円、公共料金2万円、食費2万円、その他2万円です。家賃は人口減少で困っている地域であれば2万円ぐらいで住める所はあるでしょう。うまく探せばもっと安く済むかも知れません。公共料金は電気、水道、ガス、通信費ですね。携帯やインターネットもこの中に収まるでしょう。食費はどこまで削れるか自分で試してみたことがあるのですが、工夫して自炊をすれば1日500円でわりと美味しいものが食べられます。30日で1万5000円ですから、2万円あればなんとかなるでしょう。その他着るものや生活必需品、交際費など切り詰めて2万円です。

1人で8万円だとかなりカツカツでしょうけど、2人で暮せば少しは余裕が出るかも知れません。子供はそうですね、大人と同額にしてしまうと「お金のために子供を作る」ということが起こってしまいそうなので調整は必要でしょう。仮に半額とすると夫婦と子供2人の4人家族で24万円ですね。贅沢をしなければなんとか暮らせるでしょう。多少の仕事をして夫婦で10万円も稼げば余裕です。もちろん仕事が好きな人はフルタイムで働けばよいのです。ただ、所得税の税率は今より高くなるのではないでしょうか。平均的な収入の世帯でベーシックインカムの給付額と所得税の増分が釣り合えば(相当な額の税金になりますが)暮らし向きは変わらずに万が一失業した時のための安心が手に入るというわけです。

コンピュータの技術が進歩したことによって、かつては人間がしなければならなかった仕事がどんどん消えています。昔は駅の改札で駅員さんが切符にハサミで切り欠きを入れたり定期券を見て確認したりしていました。朝夕のラッシュの時間には、すべての改札の全ての通路に駅員さんが一人ずつ立っていたのです。ほぼ全てが自動改札になり改札に立つ駅員さんはいなくなりました。昔のバスは運転手さんの他に車掌さんが乗っていましたが、今は運転手さんだけです。自動運転が実用化されれば運転手さんも乗らなくなくなるでしょう。昔はたいていの会社に電話番をする事務員さんがいましたが携帯電話やメールが普及した今ではそのような仕事はほとんどなくなりました。少し大きな会社では玄関口に受付嬢と呼ばれる女性が座っていたものですが、今ではよほど大きな会社でなければほとんど見かけません。スーパーマーケットでもレジの自動化が徐々に進んでいます。

新しい分野で仕事が増えることもあるにはあるのですが、誰にでもできるような仕事はどんどん機械化されていきます。介護職などでは人材が足りないと言われていますが、条件が悪すぎて続けられずに辞めてしまう人が多いようですね。中高年の年齢層では一度会社を辞めるとなかなか思うような条件では再就職ができません。若い世代でも大変な苦労をして就職先を探しています。職場での仕事が自分に合わなければ別の会社に転職できればよいのですが、よほど要領の良い人でなければ条件の良いところに移籍するのは簡単ではありません。生活での苦労を抱えながら職場にしがみついているうちに、うつ病にかかってしまうという話をよく聞きます。企業側でも一度雇った社員を簡単に解雇することができないので正社員としてではなく非正規雇用としての採用が多くなります。ベーシックインカムはこのような悪循環を転換させる可能性を持っています。

生活の不安がなければ合わない職場で無理をして働き続ける必要はありません。切りの良い所で会社を辞めてじっくり時間をかけて次の職場を探せばよいのです。ベーシックインカムが導入されれば企業側も今ほど解雇しづらい制度は改められるでしょう。こうして人材の流動性が高まれば、人と職場がより適材適所な形でマッチする機会が多くなります。合わない職場に無理にしがみつく人が減れば職場の雰囲気も良くなるでしょうし、良い会社であれば業績も伸びるはずです。逆に人材が逃げるような悪い会社ば潰してしまえばよいのです。会社が潰れて社員が失業しても路頭に迷うことはないのですから。

そして、ベーシックインカムのもう一つの良い点は、チャレンジャーが増えることです。最低限の生活が保証されるなら、たとえば新しいアイデアでコンピュータのプログラムを書いたり、動画を撮影して映画を作ったり、作曲して演奏して録音したりと、すべての時間を使って思う存分にチャレンジができます。一人では難しくても、同じ志を持つ者同士がシェアハウス等で共同で生活をすれば更にチャンスは広がるでしょう。バンドメンバー4人で32万あれば山の僻地に一軒家を借りて朝から晩までリハーサル三昧ですよ。上手くならないわけがありません。中古のバンをローンで買って日本中をツアーで回ることだってできるかも知れません。

絵を書きたい人は絵を掛けば良いし、写真が好きな人は写真を取ればいい。それを発表する場はインターネットにいくらでもあるのです。今の日本は閉塞感で押しつぶされそうな重苦しさに覆われていますが、それはチャレンジする人が少ないからではないでしょうか。チャレンジする人がいなければワクワクするものは出てこないのです。

ただ、ベーシックインカムを実現するには大きなハードルがいくつかあります。その一つは「働くのが当然で仕事をしないのは怠慢だ」「働かざるもの食うべからず」と考える人が多いことです。「私の払う税金で仕事もせずにのうのうと暮らす人がいるのは許せない」と生活保護の受給者を批判する声もよく聞きます。ただ、ベーシックインカムは収入が低い人だけがもらうのではなく、貧乏人も金持ちも同じ額をもらうというのがポイントです。生活保護のように特定の層に批判や罪悪感が集中することがありません。生活保護は「収入があると給付が減額される」という働く気を削ぐような欠陥の多い制度でもあるので、根本的に作り直す必要があるように思います。

もうひとつは医療費ですね。仮に月8万円としても医療費がおそらく足りません。ベーシックインカムとセットで基本的な医療費を無料にする必要があると思います。そもそも医療が「病人からお金を取るビジネス」であってはならないと思うのです。医療がビジネスであるなら、顧客である病人が減ってはビジネスとして成り立たなくなってしまいます。ネットの掲示板にはうつ病の薬を飲み始めると中毒症状で止められなくなるという話が多数見られます。1錠を半分や1/4に割って飲めば良いという話も良く出てきます。薬のメーカーはなぜ低容量の錠剤を出さないのでしょうか。薬を止められる人が少ない方が儲かるからではないのでしょうか。病気の人を減らすことを医療の目標とするならビジネスではなく消防や警察と同様に公共の仕事にすべきではないかと思います。

それから、政府が国民に信頼される存在であることも必要ですね。大きな制度改革をする場合は国のリーダーシップが重要になります。今回のコロナ感染症の対策として全国民に10万円の定額給付が行われた際に、マイナンバーに銀行口座を登録した人は先に振り込まれるといったことがありました。国民一人ひとりにIDを割り当て番号で管理するマイナンバー制度を「国民を監視するものだ」と批判する人がいますが、ベーシックインカムはこういったIDと組み合わせなければ実現できません。ベーシックインカムの給付を条件に政府が監視を強めるのではないかと国民に警戒されるようでは、実化への道のりは遠いのではないかと思います。

ともあれ、ベーシックインカムという言葉が少しずつ知られるようになってきているのは確かなようです。いろいろな立場の人がいろいろな思いを持ってこの制度の良し悪しを議論していくためのスタート地点が見えてきたと言えるのではないでしょうか。僕が生きている間にベーシックインカムの制度が実現するかどうかは分かりませんが、みんなが幸せに生きていくにはどうしたら良いかということについてみんなで考える良い機会になるのではないかと思います。


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