【ネタバレあり】恋愛を抑えたギャルゲー原作アニメ 『To Heart(1999)』

ギャルゲーを映像化する難しさ

あなたはギャルゲーを遊んだことがあるだろうか。
個性豊かなヒロインたち、プレイヤーはお気に入りの子を選び攻略を進めていく。
エンディングを迎えても新しくゲームを始めればまた別の子を攻略できる。

しかし、そのギャルゲーをアニメ化するとなると作り手は頭を悩ませることになる。
なぜなら、決められた話数で複数のヒロインを登場させなければいけないからだ。
全てのヒロインを描ききるのに1クール/2クールの尺は短く、影が薄くなるキャラクターが生じてしまう。
また、エンディングが1つのため主人公と結ばれるヒロイン以外のファンは涙を飲むことになる。

その中で上手くアニメ化を行ったのが2010年に放映された『アマガミSS』だろう。
プレイステーション2で発売された恋愛シミュレーションをアニメ化した本作だが、2クール26話を4話ごとに分割し、それぞれのヒロインと結ばれるまでを描いているため、全てのファンが満足できる作品となっている。(残り2話はそれぞれ1話完結)

筆者も『アマガミSS』を視聴したとき、これがギャルゲーをアニメ化する際の正解だと感じた。
しかし、『アマガミSS』の21年前、また別の正解を見つけた作品があった。
それが1999年放映の『To Heart』だ。

正直に告白すると筆者はゲーム版『To Heart』をプレイしたことがない。
「ギャルゲー原作アニメ」という題材にも関わらず、原作をプレイしていない時点でレビューを書く資格がないと思ったりもした。
しかし、原作未プレイで作品との繋がりが薄い状態で視聴したにも関わらず、レビューを書きたいと思えたのはこのアニメに魅力を感じたからであり、このレビューを読んで頂いた方にもその魅力が少しでも伝わればと思います。

恋愛を抑える

アニメ版『To Heart』は全13話で、それに対し登場するヒロインは10人(神岸あかり、長岡志保、マルチ、保科智子、来栖川芹香、宮内レミィ、松原葵、姫川琴音、雛山理緒、来栖川綾香)。
この数字を見ただけでも全てのヒロインをまんべんなく登場させるのは無理だと思えるが、アニメ製作スタッフは一つの選択をした。それは「恋愛を抑える」という選択だ。

本作の話は2種類にすることができる。
1つは神岸あかり(主人公の幼なじみ)と長岡志保(主人公の悪友)が軸となる話。
もう1つは上記2人以外のヒロインが軸となる話。

後者にどのような話があるかというと、例えば3話「陽だまりの中」では主人公・藤田浩之の1年先輩で来栖川グループのお嬢様である来栖川芹香にオカルト研究会の見学に誘われたり、4話「輝きの瞬間」では格闘技同好会を立ち上げたいと思っている松原葵を浩之が助けてあげたりと、主人公とヒロインの出会いや交友を描くことに重きを置いている。

だがそのような中にも恋愛を描いた回がある。PC版では隠しヒロインである雛山理緒がメインとなる6話「憧れ」だ。

弟への誕生日プレゼントを何にするか悩んでいた理緒が、以前から思いを寄せていた浩之とプレゼント選びを兼ねて二人で遊ぶに行くことになる。
弟へのプレゼントを買ったあと二人はファミレスに入り、理緒は浩之を知ったきっかけを話す。学校で掃除の時間にごみをこぼしてしまった理緒、そこで一緒に片付けてくれたのが浩之だったのだ。そして、理緒が何かを伝えようと決心し口を開いた時、浩之は店を出ようと言う。思いを伝えることができず一人で帰る理緒、暗い表情で浩之との一日を思い出すのだが、最後は思いを断つことが出来たのかわずかに明るい表情を見せる。

この作品の特徴の一つとして背景に手書きの質感を残している点がある。この質感は視聴者に学校生活へのノスタルジーを掻き立てさせる効果を持つように筆者は感じられた。
(あまり学校生活の思い出がない筆者は、フィクションの学園もの・恋愛ものに触れた際の記憶が多くを占めているのだが)
理緒から浩之への憧れのまなざし、叶わぬ恋、郷愁を誘う背景の質感。一話の中で丁寧にドラマが組み立てられており、観る者の印象に残る回になっている。

この作品の問題点を上げるとすれば不遇な扱いを受けるヒロインが存在するところだろうか。
人気キャラクターであるマルチの回は前後編の2話が設けられているのだか、一方宮内レミィのメイン回は存在しない。金髪碧眼のハーフキャラで、ビジュアルや親しみやすい性格が筆者のツボにとてもはまったこともあり、とても残念だった。
また、超能力少女である姫川琴音の回は浩之の友人である佐藤雅史に好意を抱いている設定に変更されている。恋愛対象が主人公でなくなったのは特に原作ファンからすると複雑なのではないだろうか。

緩やかな三角関係

次はあかりと志保の回について書いていこう。
本作の中でもメインヒロインであるあかりの描写は多い。
1話「新しい朝」は小学生時代の浩之とあかりの回想シーンから始まる。雨の中ランドセルの中身を落とし泣いてしまうあかり、浩之は濡れた教科書を拾いつつ「俺のと交換すればいいよ」と気遣いを見せる。
8話「おだやかな時間」では浩之とあかりが勉強会をするためあかりの家に集まる。勉強の合間、アルバムを取り出して昔の思い出話に花を咲かせる二人。特にあかりは教科書のこと(1話冒頭の回想)を大切な思い出として振り返るのだった。

幼馴染としての関係を過去の体験を共有する二人、一方、志保の浩之への想いがクローズアップされるのは12話「想いの季節」だ。
クリスマスパーティーを企画する志保、会場に選んだライブハウスはもともと喫茶店で中学生のとき文化祭の打ち上げをした場所だった。その打ち上げで志保は浩之や雅史と知り合ったのだった。
過去を思い返す中で浩之への想いを募らせる志保。日曜にパーティーの買い出しに行こうというあかりの誘いを志保は断るが、志保は買い物に浩之を誘った。
浩之を連れまわす志保だったが二人の姿を雅史が目にしたことにより、あかりにも志保と浩之が買い物に行ったことが伝わってしまう。

そして最終回である13話「雪の降る日」
クリスマスパーティーを前に熱を出し寝込むあかり。そんなあかりを志保は見舞いに行く。志保の想いに気づいたあかりは「浩之ちゃんのこと好き?」と聞く。それに対し志保はそんなことあるはずないとごまかす。あかりは「私は好きだよ、浩之ちゃんのこと」と自分の気持ちを正直に伝えるのだった。
クリスマスパーティー当日、参加者が集まっていく中で会場に電話が入る。電話に出る志保、相手はあかりで「パーティー行っていいかな?」と聞く。早くおいでと答える志保、志保が電話を切ると既に浩之はあかりを迎えに行っていた。
浩之を途中の道で見つけるあかり、そこは小学生のころ浩之が教科書を拾ってくれた思い出の場所だった。二人の頭上に雪が降り始め、あかりは「雪、このままずっと止まなきゃいいのに」と言う。浩之は「そんなこと言ってるとまた風邪ぶり返しちまうぞ」と返すが、あかりは「大丈夫だよ。だって、浩之ちゃんがそばにいるもん」と答え、二人は雪の降る空を見上げるのだった。

あかりと志保の想いが交差する最後の2話だが、志保があかりの想いを受けて一歩引いたため、強い感情が表れないまま三角関係が終了する形となっている。
13話であかりが志保に「浩之ちゃんのこと好き?」と聞く場面では、そのままAパート終了のアイキャッチに入る。この見舞いの場面はBGMが無く台詞の間合いやカメラアングルで会話の緊張感が生み出されていて素晴らしい出来になっている。
また、雪の降る中思い出の場所で想いを伝えるラストシーンは、幼馴染という関係から一歩踏み出せた二人を静かに温かく描いていて、作品が良いエンディングを迎えることに成功している。

総括

このレビューを書くにあたって全話見返してみたが、どちらかと言えば地味な作品だ。
あかりと志保、そして理緒が浩之に対して好意を寄せていたのだが、思いを伝えられたのはあかり一人で、「好き」という明確な言葉は使われていない。
しかし筆者はその地味さに魅力を感じた。他の恋愛アニメがオーバーにキャラクターの感情を露出させていく中、高校生活の日常描写や(恋愛以前の)異性への憧れに描写の比重を置いた作風は唯一の魅力を獲得できていると筆者には思えるのだ。

調べてみるとAmazonPrimeやdアニメストアでは現在配信されておらず、視聴機会が限られている本作。
埋もれたままにしておくのはもったいない作品なので、多くの人が触れられるようになることを望みます。

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