直感探偵

 口にはバツ印に赤いマスキングテープを貼られ、心臓は百円均一の包丁で一突き、太ももに花の模様を彫られた死体が今日も発見された。彫られた花の中心には、本当に花の種が埋め込まれているのだという。埋めて死体を栄養に花を咲かせたいとでも思っているのだろうか。
 このところ連日報道されるのは、世間を賑わせる殺人鬼のことだった。手口が鮮やかで、どこか詩的であることから、言い方は悪いが人気の殺人鬼だ。今のところ分かっているのは、包丁を刺す角度からおそらく身長は低いであろうということだけ。性別も年齢もまだ分かっていない。
 捜査のために駆り出された僕たちは、現場に向かう車で今しがた入ったばかりの情報を共有していた。運転している先輩は、この殺人鬼をずっと追い続けている。
「今回はワイドショーで批判していたタレントだそうです。かなりこき下ろしていましたから、逆恨みでしょうか」
「いや、今回は違うだろう」
「え? なんでそんなにはっきりと断言するんですか?」
「あいつはこんなやり口で殺人はしない」
 あいつ、と先輩がどこか親しげに呼ぶことに違和感を覚えた。二年に渡りこの殺人鬼を追っているのだから、友人のようにどこか親しみを持つこともあるのだろうか。
「こんなやり口って、方法は今までと同じみたいだすけど……?」
「理性で殺すやつが、感情で殺すわけがない。だからあいつは犯人じゃない」
 突拍子もなく理論的でもなく、ただの直感で先輩ははっきりと犯人であることを否定した。
「これはただの俺の直感だよ。それを裏付けるために今から捜査に行くんだろう?」


続く

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