花の名の舞台 //220206四行小説

 「何か面白いこと無いかなー」とつまらなさそうに言うのが口癖の君は、きっと感情を揺さぶられる体験が足りない。同じような日々は飽きてくるから、その気持ちはよく分かる。要は刺激が欲しいのだ。
 舞台に行こう、と誘ったら意外にも君はすんなりと受けてくれた。席に着き、ブザーが鳴って舞台は始まる。
 それは愛の物語だった。麗しく美しい人を愛すが愛されることはなく、こんなにも愛しているのに孤独と空虚が付きまとう。それでも私たちは彼女を愛していた。
 あまりにつらくて苦しくて、けれど最後はハッピーエンド。生きている人のためにある舞台だった。最後はずっと泣いてしまっていた。あまりに良かった。もう一度観たいと思った。隣を見れば、君は目を伏せていた。つまらなさそうな君はもういなくて、ずっと鼻をすすっている。
 「面白かった?」と聞いてみたら、無言で首が何度も振られて誘って良かったと安堵しつつ、いまだ止まらない涙を拭う。



(ヴェラキッカ良すぎて…)

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