論証ノートの一例

1.司法試験合格後に論証ノートを販売するのかどうか考えていましたが、少々要望があるっぽいので、サンプルとして、いくつか載せていこうと思います。実際には、規範部分に囲いを設けていたり、理由付けや原則には太文字加工したりしています。いつか写真にして載せることができれば、やろうかな・・・。とりあえず、どんな感じの論証を用意しているのかを掴めれば。

2.刑法

(1)刑法総論

論証 不真正不作為犯の処理
1 ○○罪は「・・・」という規定されているところ、「作為により」とは明記していないことからすると、作為による場合だけに限定していないといえるから、不作為の形式で処罰しても罪刑法定主義に反しない。では、本件の・・・という行為は、○○罪が成立するか。
(1)実行行為性
 ア 法益侵害の発生を防止する作為に出なかったことが刑事責任に問われるものだから、成立範囲が無限定になり得る。そうすると、構成要件の自由保障機能を害してしまう。そこで、成立範囲を不作為による構成要件的結果の惹起が作為によって構成要件的結果が惹起された場合と同視しうる場合に限定すべきである。具体的には、①保障人的地位に基づく作為義務の存在が必要であると考える。保障人的地位の発生根拠は実質的な観点から作為と同視できるかを検討すべきである。ただし、法は不可能を強いるものではないので、②作為義務だけでなく、当該作為の容易性・可能性も必要であると考えるべきである。
 イ 本件では・・・。
(2)結果
(3)因果関係
 ア 刑事における犯罪事実の証明は合理的な疑いを超える程度であることが求められることから、不作為犯の条件関係について、作為がなされれば合理的な疑いを超える程度に確実に結果が発生しなかったといえることが必要である。そして、因果関係を要求しているのは、偶発的な結果を排除し適正な帰責範囲を確定することにある。そこで、条件関係の存在を前提に、行為(不作為)の危険性が結果に現実化したといえる場合に、(偶発的な結果ではなく、適正な帰責範囲であるといえるから)刑法上の因果関係が認められると考える。
 イ 本件では・・・
(4)故意(保障人的地位+客観的構成要件該当事実の認識・認容)
(5)結論
第3 法適用―①保障人的地位に基づく作為義務の存在が必要
1 実行行為性の基本理解
①が不真正不作為犯の実行行為である。実行行為とは法益を侵害するような現実的危険性を有する行為であるから、不作為の実行行為性(作為義務)も、結果発生の危険性が現実化した時点である。
2 作為義務の認定―「保障人的地位の発生根拠は実質的な観点から作為と同視できるか」(多元説)
考慮すべきは、法令・慣習・先行行為だけでなく、排他的支配(因果の流れを支配している者)や保護の引受けをも考慮する。 

(2)刑法各論

※Wordファイルからそのまま抜き出したので、ナンバリングがぐちゃぐちゃですがご了承下さい。

11 強盗罪(236条)
0 条文
(強盗)
第二百三十六条 暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
※未遂罪は243条に規定されている。
1 1項強盗罪について
(1)特徴
 財物奪取の手段として暴行・脅迫が用いられる点に特徴がある。暴行・脅迫それ自体もまた犯罪であるので、これに窃盗という犯罪を合体させたものである。ゆえに、強盗罪は結合犯と言われる。
 保護法益は窃盗罪と同じだが、暴行・脅迫を手段することから副次的に被害者の生命・身体・自由も保護法益になる。(←この部分は抽象的事実の錯誤で使えるのでおさえておく。)
☑ 今はわからないけど、例えば甲がAに暴行(236条)を加えたとする。その様子を見た乙が甲と現場共謀してAから財布を盗み取った場合、暴行をしていない乙についても強盗罪になるのだろうか?いわゆる承継的共犯の問題であろうが・・・。
(2)答案の基本型
1 ○○の~という行為に強盗罪(236条)が成立するか検討する。
(1)「暴行」とは、財物奪取の手段として、相手の反抗を抑圧するに足りる程度の不法な有形力の行使をいう。
  「脅迫」とは、財物奪取の手段として、相手の反抗を抑圧するに足りる程度の害悪の告知をいう。
 ※必ずしも財物の占有者に向けられなくてもよく、財物強取について障害となる者に向けられていれば良い。
(2)「強取」とは、「暴行又は脅迫」を手段として財物を奪取することをいう。≪結果・因果関係≫
 ※もっとも、強盗罪は「暴行又は脅迫」を手段として財物を「強取」する犯罪であるので、相手方が反抗抑圧されていなかったとしても、「暴行又は脅迫」と「強取」との間に因果関係が認められる限り、強盗罪の成立を肯定する。
→「暴行又は脅迫」に該当しているが、反抗抑圧されなかったので交付した場合に問題となる。
(3)構成要件的故意+不法領得の意思
・・・
※未遂・既遂時期について
強盗罪は暴行・脅迫を手段として財物奪取をする犯罪であるので、暴行・脅迫がなされたときに実行の着手が認められる。他方で、既遂時期は財物に関する他人の占有を侵害し自己又は第三者の
支配下に移転させた時点である。
(3)特殊な類型(個別論点の処理)
 ア ひったくり事案
 処理手順として、第1に暴行が反抗抑圧に向けられており、その程度が反抗を抑圧するに足りる程度かを検討し、強盗罪にならないのであれば、第2に恐喝罪や窃盗罪を考えることになる。
 その際には、①被害者の生命身体に及ぼす危険性の程度②暴行の執拗さ③被害者が反抗行動に出ているか④被害者が救助を求めることができたのかという視点(要するに「暴行又は脅迫」の判断要素)から考える。特に①が重要なので厚めに論ずるべきである。
 イ 財物奪取後の暴行・脅迫(当初から暴行→奪取のつもり)
1(1)強盗罪は暴行・脅迫を行ってから財物を奪取する犯罪であるところ、本件のように当初から暴行などを手段として財物を奪取する故意のもとで、まず先に財物を奪取し、その後に~という暴行・脅迫が加えられている場合であっても強盗罪が成立するか。それとも事後強盗罪が成立するかが問題である。
※事後強盗罪との区別の意識が根底にある問題である。強盗罪の要素は暴行脅迫とそれによって財物奪取に至ったのかというものなので、先に暴行脅迫についてあてはめておくと楽。
 (2)この点、暴行脅迫を用いて財物を奪取する犯意の下にまず財物を奪取し、次いで被害者に暴行を加えてその奪取を確保した場合には、占有確保のための暴行が財物奪取の手段であると評価できるため、事後強盗罪ではなく強盗罪(236条1項)が成立すると考える。
 (3)本件では、上述のように当初から暴行などを手段として財物を奪取する故意のもとで財物奪取をしたのちに・・・という暴行を行い、奪取を確保したものであるから、強盗罪が成立することになる。
 ウ 暴行脅迫後の領得意思(暴行→奪取意思が生じた点で上記イとは区別しよう!)
1 先に暴行・傷害罪を認定する。
2(1)上記、○に対する暴行・脅迫行為の後、○の所持していた・・・を奪う意図で、○の意思に反して・・・を奪取した行為が強盗罪(236条1項)に該当するかが問題となる。
 (2)強盗罪は相手方の反抗を抑圧するに至る程度の暴行・脅迫を手段として財物を奪取する犯罪であるところ、暴行・脅迫後に財物奪取の意思が生じて財物奪取をしたとしても、当初の暴行は財物奪取の手段として加えられたものとはいえないから、強盗罪は成立せず、当該奪取行為は窃盗罪が成立すると考えるべきである。(さらに、強盗罪には相手方の反抗抑圧状態を利用する行為を処罰する規定がないため、強盗罪として処断できないのはやむを得ない。)
 もっとも、財物奪取の意思が生じた後であっても、さらに新たな暴行・脅迫を加えたときには、当該暴行・脅迫が財物奪取の手段として評価できるので、強盗罪が成立すると考える。
 ただし、反抗状態を維持する程度の程度であれば、強盗罪における暴行・脅迫のものと評価できるため、反抗状態を維持する程度のものであれば足りると解する。
 (3)本件では・・・。
 エ 強制性交等罪・強制わいせつ罪と新たな暴行脅迫
1 強制性交等罪・強制わいせつ罪の検討をする。
2(1)上記、○に対して(暴行・脅迫)行為の後、○の所持していた・・・を奪う意図で、○の意思に反して・・・を奪取した行為が強盗罪(236条1項)に該当するかが問題となる。
 (2)強盗罪は相手方の反抗を抑圧するに至る程度の暴行・脅迫を手段として財物を奪取する犯罪であるところ、暴行・脅迫後に財物奪取の意思が生じて財物奪取をしたとしても、当初の暴行は財物奪取の手段として加えられたものとはいえないから、強盗罪は成立しないはずである。
 しかし、強制性交などの犯人が現場にいるかぎり畏怖状態は継続するものであるから、自己が作出した被害者の畏怖状態を利用し、被害者の財物を奪取した場合は、暴行・脅迫を用いて財物を強取するに等しい。したがって、自己が作出した被害者の畏怖状態を利用し、被害者の財物を奪取した場合は、強盗罪が成立すると解するべきである。
 (3)本件では・・・。


2 2項強盗罪について
(1)基本的知識
 ア 特徴
 「暴行又は脅迫を用いて財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた」場合に成立する犯罪であり、財産的利益の移転の手段として暴行・脅迫が用いられる点に特徴がある。
 イ 保護法益
 財産上の利益であり、本罪は暴行・脅迫を手段として用いられることから、副次的であるが、被害者の生命・身体・自由も保護法益とされる。
 ウ 客体
 財産上の利益であり、これは債権取得のような積極的利益のほか、支払免除のような消極的利益も含まれる。なお「不法の」というのは、方法の不法性を意味する。

論証 不法な利益
1 ・・・という行為が強盗罪(236条2項)の構成要件に該当するか。
(1)ア ・・・は公序良俗(民法90条)に違反するため、無効であるから代金請求はできない。また、被害者○は、708条により返還請求することができない。このような請求権が民法上否定される被害者○の利益が「財産上の利益」に該当するのかが問題となる。
   イ 移転罪において、財物に対する事実的支配である占有は、その占有が正当な権原に基づくものでない違法なものであっても保護されると解されている。そうだとすると、財産上の利益も、必ずしも正当な利益でなくても保護されるべきであると考える。(さらにいえば、不法原因給付だとしてもそれは返還請求できないというものであって、受領者が取得した利益を保持することを正当化するものではないし、当事者間における事実上の返還まで禁ずるものでもない点からも説明できる。)
   ウ よって、民法上、返還請求権及び代金請求権が否定されるような不法な利益であっても、236条2項の「財産上の利益」に該当すると考える。
(2)「暴行又は脅迫」
 上記のような「財産上の利益」を得る手段として、・・・という反抗を抑圧するに足りる・・・
→だから「暴行又は脅迫」に該当する。
(3) 結果☛論証 処分行為の要否/利益移転の現実性
(4)主観的要件・・・構成要件的故意
(5)以上から、236条2項の強盗罪の構成要件を充足する。


論証 財産的利益の具体性
1 ・・・という行為は強盗罪(236条2項)の構成要件に該当するか検討する。
(1)利益は、目に見えないものであるだけに、客体の範囲が広がり処罰範囲が不当に拡大するおそれがあるから、1項強盗罪における財物と同視できるような利益でならないと考えるべきである。そこで、「財産上の利益」は具体的利益に限定されると考えるべきである。
※端的な説明方法として、「2項強盗も1項の強盗罪と同様に処断されることからすると、『財産上の利益』について、(処罰範囲限定のために)利益の具体性を要求すべきである」というのもあり得る。
① 相続により財産を承継する利益の処理
相続を開始させて相続する財産を承継する利益は、「財産上の利益」に該当しない。
なぜなら、相続によって利益の移転という経過をたどって利益が得られるのであり、相続の開始という不確定の要素が介在する(し、しかも、被相続人の殺害は民法891条1項によると相続欠格事由とされている)ので、殺害によって取得したとされる装束を開始させて相続する財産を承継する利益は、財物の占有を取得したのと同視できるような具体的・直接的な利益には該当しない。よって、236条2項の「財産上の利益」に該当しない。
② 経営上の利権
経営上の権益は経営者を殺害したからといって、必ずしも○○に移転するわけではない以上、利益の具体性に欠けるといわざるをえない。よって、「財産上の利益」に当たらない。
③ 預金通帳から預金額を引き出しうる地位
他人のキャッシュカードを占有する者が、当該カードの暗証番号を聞き出すことは、ATMにキャッシュカードを挿入し暗証番号を入力することによって、迅速・確実に当該預金口座から現金を引き出しうる地位を与えられることになる。とすると、被害者のキャッシュカードを占有している○○が、被害者から当該カードの暗証番号を聞き出すことによって、“預金口座から預金の払戻を受ける地位”という具体的な利益を取得できることになる。よって、“預金口座から預金の払戻を受ける地位”は、「財産上の利益」に該当する。
(その余の要件を検討する)

補充論証 「財産上の利益」の移転性の有無
行為者が利益を得る反面において、相手が財産的な不利益を被るという関係があれば足りるというべきであるから、移転性を有しない「財産上の利益」であっても強盗罪の客体になると解する。
エ 行為
「暴行又は脅迫」が実行行為である。
☑ 財産上の利益を得る手段として行われていることが必要であり、財産上の利益を移転させる可能性がない場合、実行行為の定義にいう構成要件的結果を発生させる現実的危険性がないとして、2項強盗罪の実行行為性が否定されることとなる。

オ 結果
財産上の利益が被害者から行為者又は第三者に移転したことを要する。

論証 処分行為の要否/利益移転の現実性
(1)・・・(事実を指摘しつつ)財産上の利益が移転したといえるのか。
(2)強盗罪は相手方の反抗を抑圧する程度の暴行・脅迫を手段として財物・財産上の利益を奪取することによって成立する犯罪であるから「財産上の利益」の移転したかどうかの判断として処分行為は不要である。
 しかし、利益の移転は1項の財物移転とは異なり明確性がないため処罰範囲が拡大するしうる。
そこで、2項強盗は1項強盗と同様に扱われることから、1項の財物移転と同視できる程度に財産的利益が移転したことを要すると考えるべきである。財産的利益が移転したかどうかは、財産的利益の移転の現実性・具体性により判断する。
(3)あてはめ
ア 殺害事例
① 相続人がいない場合・・・相続することがないので、もはや債務の請求される可能性が消滅したといえるので、債務者は事実上債務を免れたといえるので、財産的利益が移転したといえる。
② 債権に関する証拠が残っていない場合・・・確かに相続人が債権を包括承継する以上、○は未だ債務の請求されることになる。しかし、債権に関わる証拠が残っていない以上、相続人が、○が相続した債務者であると知っているか知りえたというような特殊な事情がない限り、もはや債権の存在を知るものはいないものとして、債務者は事実上債務を免れたといえる。よって、利益移転肯定。
③ 債権に関する証拠が残っている場合・・・(確かに、一時的には支払いの猶予が事実上なされていることが財産上の利益の移転であるとも考え得る。しかし)まず、債権者のもとに債権に関わる証拠が残されていることから、○に対する債権を相続した相続人が、当該証拠から○を債務者として理解し、相続した債権を行使することができる状況にある。そして、遅延した分について債務不履行に基づく損害賠償請求されうることも併せ考えると、○は債務の請求から免れることができたということができず、財産的利益が移転していないと評価できる。

カ 未遂・既遂
実行の着手時期は、反抗を抑圧するに足りる程度の暴行脅迫が開始した時点である。
既遂時期は、行為者または第三者が財産的利益を取得した時点である。

キ 罪数(基本刑法Ⅱ182~185参照すること)
(2)答案の形式のまとめ
1 ・・・という行為が強盗罪(236条2項)の構成要件に該当するか検討する。
(1)「財産上の利益」の検討
 論証 不法な利益
 論証 財産的利益の具体性
(2)「暴行又は脅迫」
 ☛上記の「財産上の利益」の奪取の手段としてなされているのか?という点も意識して検討。
(3)結果:「財産上の利益」が行為者又は第三者に移転したのか
 論証 処分行為の要否/利益移転の現実性
(4)構成要件的故意の検討
(5)以上から、236条2項の構成要件を満たし、犯罪成立

3.会社法

要件 423条1項の要件  高橋ほか『会社法第2版(弘文堂)』 210頁 (最重要)
問題の所在(の示し方)☛ナンバリング 1
取締役であるAは、「役員等」(423条1項かっこ書)である。かかるAの…という行為により~~という「損害」が生じているとして、甲会社はAに対して、423条1項責任を追及することができるか。423条1項の要件充足性を検討する。
法解釈☛ナンバリング 2
423条1項は、会社との任用契約上の債務不履行責任に基づく責任の性質を有すると考える。そこで、423条1項の要件は、(民法上の債務不履行に基づく損害賠償責任の場合と同様、)①(債務不履行の事実、すなわち、)任務懈怠の事実②損害③①と②の因果関係④役員等の帰責事由があることである。
(あてはめ)☛ナンバリング 3


論証 善管注意義務の範囲―経営判断の原則による絞り(重要論証)
法解釈
取締役は、会社に対して善管注意義務を負う(330条、民法644条)。もっとも、事業経営はリスクを必然的に伴うものであるから、経営判断の結果として会社に損害が生じたからといって、取締役の義務違反が容易に認められるとすれば、経営は萎縮し、また取締役のなり手がいなくなり、結果として会社および株主の利益とならない。そこで、経営判断については、取締役に広い裁量が認められると考えるべきであり、経営判断の過程・内容に著しく不合理な点がない限り、取締役としての善管注意義務に違反しないと考えるべきである。


論証 429条1項の要件
問題の所在☛ナンバリング 1
 「役員等」(423条1項かっこ書参照)に該当する取締役Aの…という行為によって、「第三者」であるXに~~という損害が生じたとして、429条1項に基づく損害賠償請求ができるかを検討する。
法解釈☛ナンバリング 2
 429条1項は、株式会社が経済社会において占める地位と取締役の職務の重要性ゆえに、第三者を保護するために定められた特別の法定責任である。それゆえ、429条1項の要件は、①「役員等」が株式会社に対する任務を懈怠したこと②当該任務懈怠について役員等に悪意又は重過失があること③第三者に損害が生じたこと④当該損害と任務懈怠との間に相当因果関係があることである。
(あてはめ)☛ナンバリング 3
(1)要件①…と続けていく。
なぜ論証にするのか
取締役がその職務を行う過程で第三者に損害を発生させた場合、当該取締役と契約関係のない第三者が損害賠償を請求できるのかは、本来、取締役の不法行為責任(709条)の成否の問題である。そうだとするなら、会社法429条1項のような責任の規定があるのか…という疑問が生じてくる。考え方として①不法行為の特則である②特別に法律が認めた責任である(法定責任)であるとの2通りは(少なくとも)思いつくところである。これが429条1項の法的性質という問題点として現れ、この法的性質から要件論はどうなるのかに影響しうるため、自分の態度を決定しておく必要がある。
法定責任からの帰結
① 本規定による責任は、不法行為責任とは独立の責任規定であり、役員等が第三者に対し不法行為責任を負わないときでも、本規定(=429条1項)による責任を負うことがある。
② 役員等が会社に対する任務を怠ったことについて悪意または重過失があれば、たとえ第三者に対する加害行為について悪意・重過失がなくても、本規定の適用がある。
③ 役員等の悪意又は重過失による任務懈怠と第三者の損害との間に相当因果関係がある限り、任務懈怠によって会社に損害が生じ、ひいて第三者に損害を生じさせた場合であると、任務懈怠によって直接第三者に損害が生じた場合とを問わず(間接でも直接でも)、第三者に損害を生じさせたならば、役員等は第三者に対して賠償責任を負う。

3.民事訴訟法

○ 弁論主義

(2)弁論主義の対象
 ア 問題の所在
 主張事実および自白原則については、その適用対象となるべき「事実」が何であるかについて、かねてより議論がある。
 主張原則及び自白原則は、ともに当事者の事実に関する主張について、裁判所に対する拘束を認めるものであるが、民事訴訟において当事者が主張する事実には、さまざまな種類のものがある。そのすべてについて厳格に拘束を認めると、裁判所の事実認定を必要に不自由にするおしれがある。しかし、他方において、拘束力が及ぶ対象を過度に緩めると、私的な紛争に対する公権力の無用な介入となり、またh、当事者にとっての不意打ちを招くおそれがある。

弁論主義が適用される「事実」の範囲が問題となってくる。
 イ 事実の種類
主要事実:権利の発生・変更・消滅という法律効果の判断に直接必要な事実
間接事実:主要事実の存否を経験則によって推認させる具体的事実
補助事実:証拠の評価に関わる事実。すなわち、証拠能力や証明力に影響を与える事実。

 ウ 弁論主義が適用される事実 論証
【伝統的な見解(自説)】
弁論主義は不意打ち防止機能があるところ、訴訟の勝敗に直結する主要事実を弁論主義が適用される事実と考えれば足りる。また、実質的に証拠と同様の機能を有する間接事実と補助事実に弁論主義が妥当すると考えると、自由心証主義(247条)を損なうおそれがある。
そこで、弁論主義が適用される事実とは、主要事実すなわち権利の発生・変更・消滅という法律効果の存在を直接基礎づける具体的な事実をいうと解する。
したがって、間接事実や補助事実は、たとえ当事者の主張がなくても、裁判所は裁判の資料としてよいことになる。

エ 規範的要件と弁論主義 論証
(ア)問題の所在
「過失」、「正当事由」、「権利濫用」、「信義則」、「公序良俗違反」などの、いわゆる規範的要件(一般条項による不特定概念)については、何をもって主要事実と考えるべきか。
(イ)法解釈
 「過失」等のいわゆる規範的要件それ自体を主要事実であると考えると、裁判所は当事者が主張していない評価根拠事実を認定することができ、不意打ちの危険が生じる。また、規範的要件それ自体は事実とはいえず、規範的要件それ自体は証拠によって証明することもできない。それゆえ、規範的要件それ自体を主要事実と考えるべきではない。
 そこで、評価根拠事実すなわち法的評価の根拠となる事実が直接事実であり、評価根拠事実に弁論主義が適用されると考えるべきである。
 もっとも、公序良俗違反(民法90条)のような公益性の高い規範的要件の法的評価の根拠となる事実である場合、弁論主義が適用されないと考える。
なぜなら、そもそも弁論主義の根拠が、民事訴訟の対象たる訴訟物は、「私人間」の権利であり、当事者の自由な処分を認める「私的自治の原則」が妥当するので、訴訟物の判断のための訴訟資料の収集と提出についても、同じく私的自治の原則が妥当する点にあるところ、公序良俗違反のような公益性の高い規範的要件は弁論主義の範疇を超えるためである。

論証 法的観点指摘義務
もっとも、上記のように、公益性の高い規範的要件である場合、その規範的要件を基礎付ける評価根拠事実に弁論主義が適用されない結果、裁判所は、当事者のいずれも主張しない事実を認定することができる。それでは、当事者にとって不意打ちが生じる。また、手続保障のうち当事者の弁論権を侵害してしまう。
そこで、当事者が、事実の主張や立証に際してある法的観点を前提としているときに、裁判所が別の法的構成のほうが妥当であると考えた場合、裁判所がこれ(=別の法的構成)を示すことによって、当事者に裁判所路議論する機会や再考の機会を与えるべきであると考える(法的観点指摘義務)。
✓ 弁論主義違反の問題は生ぜず、手続保障のうち当事者の弁論権を侵害し違法である。



○ 裁判上の自白
(1)自白の意義
裁判上の自白とは、一方当事者が口頭弁論期日又は弁論準備手続期日においてする、相手方の主張と一致する「自己に不利益」な「事実」を認める旨の陳述
(2)裁判上の自白の成立要件 処理手順
1 裁判上の自白の成立要件
(1)裁判上の自白とは、一方当事者が口頭弁論期日又は弁論準備手続期日においてする、相手方の主張と一致する「自己に不利益」な「事実」を認める旨の陳述をいう。
ここでいう「自己に不利益」とは、(その事実が認められ自己が敗訴する可能性のある事実も含むという見解があるが、基準として不明確であるので採用しがたい。そこで、)一方当事者が主要事実について自白をしたことで、証明責任を負う当事者に証明責任から解放という期待的地位を与えているといえる。そして、基準の明確性の観点から、相手方が証明責任を負う事実をいうと考える。
そして、ここでいう「事実」とは、権利の発生・変更・消滅という法律効果の存在を直接基礎づける具体的な事実である主要事実をいうと解する。実質的に証拠と同様の機能を有する間接事実と補助事実に弁論主義が妥当すると考えると、自由心証主義(247条)を損なうおそれがあるからである。
(2)本件では・・・。
2 自白の撤回の可否
(1)裁判所は、当事者間に争いのない事実についてはそのまま判決の基礎としなければならない(弁論主義第2テーゼ)ことから、裁判上の自白及び擬制自白が成立した事実は、裁判所を拘束し、当事者は証明の必要がない(179条)。
そこで、当該事実について立証の負担を免れたと信じた相手方当事者の信頼を保護するため、そして禁反言の要請から、原則として、自白した当事者は、自由に自白を撤回することが禁じられる(当事者拘束力)と解するべきである。
ただし、以下のいずれかの場合には裁判上の自白が成立するとしても、撤回が許されると考え得るべきである。
①相手方が同意した場合については裁判上の自白の撤回が許される。相手方保護のために禁反言の法理によって撤回を制限しているためである。
②相手方または第三者の刑事上罰すべき行為によって自白をするに至った場合も裁判上の撤回が許されると考えるべきである。再審事由に該当する(338条1項5号)し、適正手続の観点からも撤回を許容すべきだからである。
③自白された事実が真実であるという誤信に基づいて自白がなされた場合も裁判上の自白の撤回が許容されると考えるべきである。ただし、反真実の証明があれば錯誤は推定される。なぜなら、錯誤があったことの証明は困難であるし、また、反真実が明らかになれば通常錯誤があったとみるのが自然だからである。そして、裁判上の自白の撤回が制限されるのが禁反言の法理であることから、制裁として反真実の立証負担は自白した者が負う。
(2)本件では・・・。

☆刑法はB5サイズで総論64頁・各論75頁、会社法は100頁くらい、民訴法は228頁。行政法は77頁程度は用意しています。





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