見出し画像

【画廊探訪 No.164】写真、写実、そして写生――高橋 穂足作品に寄せて――

写真、写実、そして写生
――Galley Face to Face 企画 「40th Artists New Year Group Show 2024 +-」
    高橋 穂足出品作品に寄せて――

襾漫敏彦

 写真という言葉がある。マコトヲウツスと読み下せるが、それは日本の近代美術の始まりにとっては大切なテーマであった。
 真は、ヨーロッパのキリスト教文化においてはイデアであり、神の摂理であった。そして、自然は、存在は、その写しであるから真であった。偶像崇拝の禁忌は、ルネッサンスによって超越され、実在の姿の描写が、許されるようになる。

 高橋穂足氏は動物を意匠とする造形作家である。彼は発泡スチロールなどで芯をつくり、その上にメディウムで表面をかたちづくる。そこをキャンパスのようにして、動物の身体の表情を描いては削っていく。それは彫刻というより塑像、いや表面を漆で固めていく乾漆像に近いかもしれない。高橋はそこに様々な装飾を加えていく。光背や持物で仏像を説明するように新しい意味が加筆される。そこに生まれてくるのは日常の中に隠れながら現実に存在しているかのように期待させるユーモラスな生き物である。

 今回のグループ展で、高橋は猫を制作し、その彼等、猫たちにお面、マスクをかぶせた。猫が、猫のお面をかぶる。それは猫をかぶった猫である。誰かの視線を意識して猫を演じる猫。猫を表現するのに、猫を認識する人の思考の偏りを加えることで、猫と人のへだたりを表しながら、同時に身近さ感じさせる。
 西洋絵画の精緻な表現に出会い、この国の画家は衝撃をうける。学びとった表現の力はけれども真理ではなく、実在の姿へと向かう。写実は、写真となり、写生となった。
 描写の技術を受けつぎながら、高橋は、真実に嘘を組みこむ。知性が加えられて、表情は、人間的に、ユーモラスになる。真から離れて、生き物の生はようやく写しとられているのかもしれない。


******
高橋さんのWEBサイトです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?