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【画廊探訪 No.140】椰子の実のような異郷の風を心に受けて――Gallery Face to Face企画展               塩田裕二郎出展作品に寄せて―――

椰子の実のような異郷の風を心に受けて
――Gallery Face to Face企画 assort of HANGA 版画の詰め合わせ―2   塩田裕二郎出展作品に寄せて―――


襾漫敏彦
 
 外国航路の貨物船の船員であった父親は、帰国の際には山のように土産を買ってきた。土産物の詰まった公理の中には、異国のマガジンやパンフレットも混ざっていた。
 
 塩田裕二郎氏は、水性版画の作家である。彼は様々な色をつかう多色刷りの作家であるが、彫りをいれた版木にインクを塗り、湿りを加えながらぼかしをいれて紙に刷っていく。色彩やタッチ毎に数十回、刷りが重ねられる。そのことで、物の形の記憶をのこしたようなグラディエーションが表現されていく。それは、時による変化を想わせる濃淡であり、もしくは石造りのトーテムの表面に施された塗料のような質感である。


 
 日本人にとって、外国といえばアメリカでしかなかった時代、父親は、赤道を南へ北へと行ったり来たりしながら、マラッカ海峡からインド洋、ペルシャ湾へと西方に資材を運んでいた。昭和のあの頃、どの国も豊かではなかった。
 読めない文字で書かれてパッケージの缶詰、皺のはいったマガジン、土産物は、父と共に長い航海をすごしてきた。その苦労が、缶詰のへこみや、雑誌の日焼けにあらわれていた。
 少し古紙を想わせる趣の紙に刷られた塩田の作品は、シンプルなフォルムとあいまって、どこかの異国から積み荷として運ばれてきたような佇まいを私は感じる。
 今は、大地の恵みを忘れるほど、様々な国との交易を重ねあわせて、多くの国が豊かになった。けれども、その基盤は余りに脆い。生活や平和を見えないところで支えている何かがあるからこそ、僕らは安らかに過ごせるのだ。ウクライナカラーを基調にした塩田の抱く品は人類のプリミティブな有り様を思いおこさせてくれるようである。

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