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【画廊探訪 No.157】葉脈を伝わる生命の滴(ドリップ)―――月光荘画材店『星霜の礫』松岡円香・但馬敦二人展 但馬敦出展作品に寄せて――

葉脈を伝わる生命の滴(ドリップ)
――松岡円香・但馬敦二人展『星霜の礫』但馬敦出展作品に寄せて――

襾漫敏彦
 
 物質は記憶によって意味を与えられて、形をとる。意味は、名を呼びよせるが、色彩も輝きも、生の活力も持たない。意味と名の内では、時は動かず、生命の揺らめきも存在しない。それは、誰かに触れて、いま、ここのものとなる。そして、色付き、輝きを放ち、拍動を打ちはじめる。



 
 但馬敦は、物に意味を付与する金属造形作家である。彼は、表面と裡側をもつ形で鋳出した金属に、彫りを加え、彩どりのアクセントを加えていく。造形に顕われるのは、表情を支える内面であり、感覚に浸み込んでくる気配りである。表裏は交差して、動きを生じ、時を引き寄せる。
 
 但馬は素材である金属を、表と裏を一枚の紙がもつように、煌めきをもつ部分と、光を内へと捕えては溜め込む部分の両面をもつものとして準備した。そして、今回の展示では指輪やブローチといった身につけて飾るものや、日本酒を注ぐぐい飲みといった、鑑賞用でない、手にし、口に触れる作品を出品した。




 指に嵌めるリングの内側は、そのものの本質であり、精神である。但馬は、主題(モチーフ)の中に小さな乱調を加えたり、煌めく表面を細かく彫って光を抑えることで、物質の表情を支える内面を凍み出させていく。
 受けつがれた生命の種子は、水と光と塵芥を集めて鋳造した気や精に支えられ、養われて明日へ向かう生ける樹木となる。物に潜む内面を伝えようとして、樹皮に傷をつけるように、但馬は細部を彫る。
 形は凍結した時である。けれども全ての力の種子は形に沿って動き、形を支え、新しいものへと生まれかわらせる。物質が引き寄せた意味も、名も、いま、ここと触れた瞬間、消え去り、新しい形が、新しい意味を引き寄せる。



 

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但馬さんの活動と作品は、ネットでも上がっていますので、興味のある方は、検索してみてください。

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