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【画廊探訪 No.162】私が着飾る晴着のようにーー「木床亜由美展peace」に寄せてーー

私が着飾る晴着のように
ーー「木床亜由美展peace」(SAN-AI Gallery)に寄せてーー

襾漫敏彦

 私達は、暮らしの日々から、様々なことを学んで育ってきた。昼や夜、夏や秋、自然や風景、住まいや衣服、それらは、時、温もり、形、色彩、そして触れごこちとして、懐かしさをまとった記憶になって、心の襞となっていく。


 木床亜由美氏は、具象系の油彩画家である。彼女は明快な色彩を振りわけて画面を構成する。そして、そこに細い線や小さな粒を書き込んで、色面にペン画のような感触を加えていく。それは、まるで色を布としてクロスやノット、ラインのステッチを施していく刺繍のようでもある。彼女の技法は、油絵具を塗るというより、色を解いて編み直す感じに近いのかもしれない。


 絵画は色で描かれる。それは、現実の模写であるが、色彩は、物や情景、そのものではない。見えるもの、見えているものは、視覚による要約(サマリー)でしかない。私達が交わる現実はもっと様々なもので構成されている。どこまでリアルであっても、どこまで精緻であっても、多くのものが、取りこぼされている。一枚の絵が描かれても、又、新たな一枚が描かれる。描いても描いても描き尽くせないのは、そこに理由があるからかもしれない。

 木床は、色に、彩どりの糸を刺しいれることで、キャンパスをテキスタイルに変えていく。それは、木床にとって、どこか自分を取りまとめた場所から離れたくない、手触りのないものに倚りかかりたくないという身体の声に従ったからかもしれない。


 一つの表現が成されたとき、新しい表現への門が開かれる。涙を描くことが、できるようになったのも、美術の歴史の中では、そう古い話ではない。描いても描いても、新しい絵が描かれる。人は、感情を置き去りにすることができないからかもしれない。

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木床さんは、プロフィール入りのインタビュー記事や、制作風景のYouTubeの動画もネットにあります。
興味あれば、探してみてください。
面白いですよ。

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