見出し画像

【画廊探訪 No.176】夕陽にステップを踏んで プルスウルトラ―― 山宮律子作品に寄せて  ――

夕陽にステップを踏んで プルスウルトラ
―― assort of DOHANGA“銅版画の詰め合わせ” Gallery Face to Face企画
     山宮律子出品作品に寄せて  ――
襾漫敏彦

 子供の頃、駄菓子屋や縁日で、糸引き飴のくじがあったことを思い出す。糸を選んで、フルーツの形をしたさまざまな色の飴をひっぱっては、ドキドキしていたようにも思う。

 山宮律子氏は、エッチングの銅版画家である。彼女は美大を卒業後、グラフィックデザインの業界にいたが、銅版画の制作を始める。そして、新世紀のおとずれと共に、版画作家の大海原へと踏み出した。
 山宮は、エッチングの手法で版を数枚形成することで、色彩や図像を重ね合わせていく。思いつくままにモチーフを呼び込んでいく彼女の技法は、大きなテーブルの上にあたりせましと並ぶ彩やかな数々の料理や、巨大なパエリヤに、にぎわうガーデンパーティのようでもある。




 僕等は、記憶の中の自分をなぞらえながら、いまを生きている。けれども、記憶とは、砕けてしまった過去の欠片であり、今の僕が求めているものでもある。それは、時を忘れて遊んでいるうちに、どこかに落としてしまったビー玉のようなものかもしれない。
 キラキラ輝く思い出は、あの日の本当の一部でしかない。むしろ、憶えているということ、それが怪しい。それでも、僕等は、確かだと思い込んでいる私の自画像の上でステップを踏む。そして、湧き上がるように想起されるあのリズム、そのフレーズに唄い舞う。
 山宮は、引きあてたフルーツ飴を口に含みながら、捨て去ることのない楽しかった記憶をさらに引き寄せていく。それは、同時に祭りの終わる静寂や退屈な日々の翳りもからまってもいる。様々なものを記憶から拾いあげて組みあげながら、今を超える新しい今を目指していく。今日は、常にプルスウルトラ、明日への扉を叩き続けるとき、いつか、菓子のくす玉(ピニャータ)は弾けて飴の雨がふるのだろう。



****
山宮さんのWEBサイトです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?