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【画廊探訪 No.170】エソラゴトを刻んだ聖なるメダル――西平幸太個展「ソラコトコレクション」JINEN Galleryに寄せてーー

エソラゴトを刻んだ聖なるメダル
――西平幸太個展「ソラコトコレクション」JINEN Galleryに寄せてーー

襾漫俊彦

 子供の頃、駄菓子屋やガチャガチャで、鮮やかな色で飾られたメダルや、キラキラ輝くシールを手にして、ワクワクした記憶は、誰しもあると思う。それは誰でもない“わたし”だけの特別な宝物であり、それを手にしたとき、世界はわたしだけの世界であった。
 西平幸太氏は、シルクスクリーンの作家である。彼は凹凸を限りなくキャンセルして皮膜のように版を刷る。明確な色彩で、ハッキリとした領域にわけられた図像は、作品の主張よりも、与えられた者の心にうかびあがるイメージの中の意味を大切にする。
 西平は、今回の「ソラコトコレクション」で、プレスした版画作品でなく、版となる銅板に色彩そのものを付与して展示した。手のひらサイズの作品は、まるで、あのコインのようでもあった。
 西平の今回の作品は、版画以前の版画であり、市場に流れる前の商品である。前の商品である。表現された物のイデアになる前の、イデアである。伝えられる教本になる前の原盤ともいえるような西平の銅板は、イコン、もしくは聖遺物のように佇んでいる。
 けれども、作品の向こうには天上のパライソも、英雄の山も、神もいない。“ソラコト”の“ソラ”は、空虚の空であり、嘘言でもあり、空想でもある。
 メダルやシールは、象を呑み込んだウワバミのように、大人は誰も相手にしない。それは、実用的でもなく、価値の低いものであり、無用のものである。でも、その子にとっては、絵空事の新しい世界へと飛翔する羽根であり扉を開く鍵なのだ。
 子供の頃、手にしたものは、かけがえのないものであり、それは唯ひとつの物である。インディヴィジュアルは個人であるが、それは、これ以上分割できないものという意味である。手にいれた宝物は、わけることのできない、たった一つの個物であり、それに導かれる世界も、たったひとつの絵空事であり、そこで羽ばたく君も、わかつことのできない君なのだ。


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西平さんの公式サイトです。


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