展示感想:〈年老いながら満ちていく都市〉矢野静明個展「満ち引き」ギャラリー・フォリオ 10月5日から13日
矢野静明さんの個展、「満ち引き」に行ってきました。四谷駅を降りたとき、「四谷大好き祭り」というのがやっていました。
最近できたビルを中心にひらかれているイベントですが、四谷で小さな町の商店街のようなイベントが行われていることに不思議な印象を持ちました。
矢野さんは、木を削った先を筆の代わりとして絵を描いていると聞いています。子供が地面に絵を描くように思うままに線を引いていくのでしょうか。思いから、さらに加えられる思い、その積み重ねが不思議な構造を生み出していきます。
線が描いた空間に新たにまた、意味が加わっていく。私と私を取り巻くもの、世界、そして、風土、街、そして私。積み重ねられるものは、私をレンズとして重ね合わされた全ての因果なのかもしれません。
作品は矢野さんの心象風景というべきでしょうが、一つ一つの描線が、新しい気持ちで積み重ねられることで、その心象から離れた新しい世界を築き上げているのかもしれません。
街というものも、そこで暮らす人々、一人一人の生活、振る舞いが積み重なりながら、その形態を創り上げていくものでしょう。麹町、四谷、特に麹町は、オフィス街で休日ともなれば、がらんとしたところで、商店街の催しなど思いもつきませんでした。
でも、麹町から四谷、新宿と向かうところは、江戸城の建設とともに押し出された郊外的な場所でもあり、割と庶民的な場所だったのかもしれません。
そして、東京といえば、地方から夢を見て人が集まってきた場所で、かつては帰る故郷を持っていた人々の作る街でした。ただ、それから、時代も移り、東京が故郷になった、ここで死ぬしかない場所になっていっているようにも思います。
最近は、色々なところの商店街でイベントが行われていますが、それは、この東京の一角を自分の生きて死ぬ場所、故郷とする感覚の反映かもしれません。四谷大好き祭りと矢野さんの作品、結びつけるように感想を持ちました。