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【テレビドラマ】旧作ドラマ=山田太一オリジナル脚本「想い出づくり。」と新作ドラマ=宮藤官九郎オリジナル脚本「不適切にもほどがある!」を観て。

私は新作のテレビドラマを観る機会は少ないのだが、TBSで1/26(金)から始まった話題のドラマ『不適切にもほどがある!』の第1話を録画して観た。

また過去にCSで放送されたときの録画をブルーレイディスクに保存し、これまで2回ほど観ている、山田太一の名作ドラマ『想い出づくり。』が先週からBSTBSでアーカイブ放送されているので、思わずブルーレイレコーダーに録画(第1回~第4回)して、久しぶりに観た。(月-金12:59~)

両ドラマは、「不適切にもほどがある!」が1986(昭和61)年と令和の2014年を行ったり来たりするタイムスリップコメディで、「想い出づくり。」は1981(昭和56)年の三人の20代前半の女性(田中裕子、古手川祐子、森昌子)がヒロインの群像ドラマで、両方とも昭和の1980年代を描いている点(5年ほど離れているが)で共通している。また各回にサブタイトルがついているのも。

2つのドラマを観ていて、こんな感想が浮かんだ。

「宮藤官九郎はこの新作で山田太一作品の雰囲気を出したかったのではないか」と。

実は、宮藤官九郎は河出文庫「その時あの時の今 私記テレビドラマ50年」(山田太一著 河出書房新社 2015)で解説を書いている。下記URL

私は山田太一ファンなので、山田太一について書かれた本や文章もいろいろと読んでいるが、この解説は山田太一脚本の本質をとらえた秀逸な文章の一つだと思う。同業者の目線はさすがに鋭い。

一部分を引用すると

解説(P316-P323) 宮藤官九郎

P317
(~略~)
山田先生のドラマのカッコ良さとは何なのか。何度も見ているのに続きが気になるのは何故なのか。
(~略~)
が、ひとつ思うのは、すべての登場人物に言い分があり、その言い分が悲しいほどに切実で、矛盾しているのに嘘がなく、人間は不完全だからこそ愛おしいのだということを思い出させてくれる。俯瞰ではなく、常に当事者の身近に視点を据え、なおかつ誰かに肩入れすることなく等距離で語られる。その眼差しの精度。
(~略~)

河出文庫「その時あの時の今 私記テレビドラマ50年」(山田太一著 河出書房新社 2015)

ここで解説している山田太一ドラマの魅力は、一部であっても新作「不適切にもほどがある!」に引き継がれているのではないかという印象を持った。
ほめすぎかな?

「不適切にもほどがある!」の第1話は、1986年当時、28歳の会社員だった私にとっても当時の雰囲気や小ネタはすべて懐かしく、「あったあった」ということばかり。

基本的には過去の宮藤官九郎ドラマと同じように笑える要素がたくさんあって楽しいのだが、時折、考えさせられる鋭い内容の台詞が現れる。
山田太一作品も、日常生活の何気ない台詞が続いて、時に哲学的な深い内容の台詞が現れるのが特徴であり魅力なのだが・・・

多くの映画やドラマ、演劇等に欠かせない要素は、組織と個人、家族と個人などの葛藤だろう。それが皆無の映画やドラマ、演劇を見つけるのは難しい。
「不適切にもほどがある!」にも、突然のミュージカルシーンの歌詞の中に「それが組織」とあった。

インターネットメディアの新聞記事やSNSでは、「突然のミュージカルシーンが斬新」とのコメントが多数あった。確かに斬新かもしれないが、私は別に見ていて違和感はなかった。みんな歌も上手いし。おそらくこれからの回にも毎回あるんだろうなと推察する。それも楽しみ。

「想い出づくり。」は数多い山田太一脚本ドラマの中でも名作ドラマの一つだと思うが、(明日1/29-2/2は第5回-第9回が放送)、実はこのドラマの最終回=第14回(晴れた日が来る。)の前の第13回(宴のあと。)だったと思うが、「えぇー」と驚く展開が待っている。ミュージカルシーン演出の比ではないくらい凄い!

今回初めて「想い出づくり。」を観る方は情報を検索せず楽しみにしてほしい。
ただし、これは第1回(女ともだちのスタート。)に伏線が張られているので、第1回を観ていないと気付かないかもだが。
「想い出づくり。」(第1回-第14回=最終回)は有料サブスク配信のU-NEXTで視聴が可能。ちなみにドラマ冒頭のタイトルは、・・話ではなく・・回となっている。

最後に「不適切にもほどがある!」の1986年の昭和時代の描き方について、
当時を知る世代として一言。

あの頃は、会社でも喫茶店でも駅でも居酒屋でも、あらゆる場所で本当にみんなよくタバコを吸っていたのは確かだ。
私もタバコを吸わなくなって30年以上になるが、1986年の頃は強くないメンソールのタバコなどを吸っていた。

ただし、ドラマの前半にあったように、都バスなどの車中でタバコを吸うのはさすがに禁止されていたように思うし、そんな人を見た記憶はないのだが。
ストーリー展開上、かなりデフォルメ(誇張)している部分もある。

ドラマ冒頭からの阿部サダヲと娘の女子高生との言い争いの言葉。
笑えるのだが、当時の人たちがみんな同じような汚い言葉を使っていたことはない(笑)。もっと上品で、穏やかな会話が普通だった。
ただし、当時は携帯電話もインターネットもSNSもないので、直接の言い争い(場合によっては手紙で訴える)は確かに多かったと思う。居酒屋などでも酔いにまかせて「表に出ろ」と口喧嘩している奴も多かった(私ももちろん経験あり)。オフィスの中でも先輩社員が結構怒鳴り合っていたのは覚えている。よく言えば活気があったということか。

また、ドラマの中に出て来たように、現在なら「ハラスメント」に当たる言葉や表現は、私も含めて日常的に使用していたかもと思う。

思わず笑ってしまったネーミングが、ムッチ先輩と犬島渚!!
さすが宮藤官九郎。素晴らしいセンス(笑)。


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