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【危機管理広報・謝罪記者会見】   ~今年はどうして酷い謝罪記者会見が続くのか?宝塚歌劇団の記者会見を検証~

今年は酷い「謝罪記者会見(以下:会見)」の当り年なのか?

「ビッグモーター社」「日本大学」に続いて、史上最低レベルの会見が、11/14に行われた「宝塚歌劇団の会見」だ。

インターネット記事の見出しやSNS等の書き込みには「旧ジャニーズ事務所のような」とか「旧ジャニーズ事務所の会見より酷い」といった見出しが散見されるが、これは全くの間違いと断言したい。

本ノートにも何度か書いたが、旧ジャニーズ事務所は故ジャニー喜多川氏の過去の性加害や長年「メディアの沈黙」をさせてきた旧ジャニーズ事務所の閉鎖的で高圧的な姿勢は徹底的に批判されるべきだが、それに対する深い反省と再生を丁寧に説明した2回の会見は、会見として(2つの会見及び調査委員会の会見もリアルタイム及びYouTubeのアーカイブですべて視聴の上で)合格点を付けられる。
2回目の会見後に批判された「NG記者リスト」は外部のコンサルティング会社が独自に行ったことであり、旧ジャニーズ事務所の関与はなかったであろうことは、旧ジャニーズ事務所がホームページに公表した詳細な資料を見れば納得できる。具体的な理由は私の過去のnote原稿を参照。

およそ30年近く様々な会見をウォッチし、数多くの自治体や企業等で「緊急(謝罪)記者会見トレーニング」「危機管理広報研修」などの講師を務めてきた専門家としてそのように考える。

さて、宝塚歌劇団の会見の検証だが、初めに自宅マンションの敷地で倒れて亡くなられた(自死の可能性が高いとのこと)25歳の女性に対して心からお悔やみを申し上げたい。不幸なことであり言葉も無い。

宝塚歌劇団の酷い会見については、テレビ、新聞、インターネットメディア、SNS等ですでに様々な角度での批判的な記事、コメントがあふれている。私はほとんどが同意見なので、ここでは同じような引用は省略する。

そのうえで、危機管理広報の専門家として気づいた点を以下3点挙げる。

➊説明方法の不親切さ

宝塚歌劇団の会見の冒頭、登壇者3人の謝罪の後に、今回外部弁護士事務所が作成した「調査報告書」の説明があった。この調査報告書は会見出席のメディア記者には資料として配布しているのだろう。「・・・をご覧ください」といった説明が随所にあった。

私の疑問というか怒りは次の通り。
◆調査報告書の文面をPC→プロジェクター→スクリーンに映して説明しろ!

これはいまだによく見かける対応なのだが、今回はその典型例。
配布した調査報告書を長々と読み上げる
会場のメディア記者も、会見をテレビやYouTubeのライブ配信で視聴している人にとってこれほど苦痛で意味のないものはない
もし宝塚歌劇団の通常の会議で、同じようなことをすれば「配った資料の文章をそのまま読み上げなくていい」「ポイントを簡潔に述べろ」「文章をスクリーンに映せ」などの声が上がることはほぼ間違いないだろう。

もしこれを自治体や企業の広報担当者が読んでいたら、同じ間違いは繰り返さないでほしい。

❷失言、問題発言は、長い説明の最後に起こりやすい

会見の最後のほうにこのような質疑応答があった。
以下はYouTube映像からの音声メモ
・質問(時事通信記者?)
「並行してご遺族側(注:代理弁護士)が会見をしている。調査報告書を見たうえで会見をしているわけです。
そこでは「ヘアアイロンの事案とパワハラについては確認できなかった」
という点について納得できないと。
事実関係を再度検証し直してほしいとおっしゃっているわけですけど。
この点についての受け止めと、事実関係について再検証のお考えをおきかせください」

・回答(村上専務理事)
「現在会見をされているということであれば、途中でコメントをすることは差し控えさせていただきたいと思います」

ここまでの回答は、模範的な良い回答である。

しかし、この後、余計な一言を付け加えてしまった。
「ただあの、ヘアアイロンの件につきましては、そのようにおっしゃっているのであれば、証拠となるものをお見せいただくようにお願いしたいというふうに考えております」

YouTube 日テレNEWS LIVE 2023.11.14より

まず、相手の会見を見ていない段階でコメントするのはNGであるし、証拠を示してもらいたいという言葉は「冷たい」「高圧的な」態度と受け取られた。
インターネット記事やSNSですでに批判されている。当然である。

今回の会見に限らないが、よく報道される政治家のパーティ等での失言も、ほとんどは付け加えた一言で起こることが大半だ
あるスピーチの後の「ただ~」「つけ加えると~」等の後に失言が生じるリスクが高いことも、特に広報関係の方には覚えてほしい危機管理広報ポイントである。

❸ひな壇に出席者の名札無し

これは基本的なことだが、会見場のひな壇に出席者のネームプレートがおいていなかった。
司会者が出席者紹介で役職と名前を伝えただけである。

もちろん会見出席のメディア記者には、出席者の役職と名前の書かれた資料が配布されたのだろうが、やはりテレビやYouTube等で視聴している人々に対しては極めて不親切な広報対応である。

一方、東京で同日に行われた遺族代理人弁護士の記者会見もYouTubeのアーカイブ映像で視聴した。
遺族代理人の川人博弁護士まず「結論」を述べ、具体的な理由を一つ一つ指摘し、きわめて明快でわかりやすい反論、説明だった。

私が特にスピーチスキルとして優れていると思ったのは、弁護士が普段使用している法律用語を使う場合に「これは法律的な言葉を使わしてもらいますが」と言って法律用語を述べた後、これは「・・・」の意味です。とわかりやすく言い直したこと。
広報の世界では「専門用語は必ずわかりやすい言葉で説明」というのが基本の一つなのだが、特に法律家や理系の研究者などにはそういう配慮をせずに専門用語をやたら使う人も多い。
その点、会見で説明した川人弁護士はコミュニケーションスキルも抜群の方だと敬服した。

映画マニアの私が例えれば、川人弁護士の話はクリアーな4Kデジタル映像、宝塚歌劇団の話はところどころ不鮮明な昔のビデオ映像という感じ。
実際に川人弁護士の話は極めて明晰で説得力があり、宝塚歌劇団の登壇者の話は、曖昧で長く、説得力に欠けるものであった。

それにしても宝塚歌劇団の調査報告書に基づく説明の中で「いじめやパワハラは確認できなかった」点は、今後様々な関係者からの内部告発が「文春砲」やSNS等を通じて出てくることはほぼ間違いないだろう。

危機管理広報において、最もやってはいけないことは、「ネガティブ・批判報道が長期間にわたって続く」ことである。
これは、私が危機管理広報の研修や講演で必ず述べていることなのだが、「宝塚歌劇団」は過去に数多くの企業等で繰り返されてきた同様の失敗をまた繰り返しそうだ。

それにしても今回の事件は「宝塚歌劇団」のみならず「宝塚」自体のイメージダウンになるのは避けられないだろう。

私はこれまで「宝塚歌劇団」を観る機会は一度も無かったが、宝塚市へはプライベートで3回くらい行ったことがある。
目的の一つは、宝塚市の「手塚治虫記念館」見学。これまで2回行っている。

以前本noteにも書いたが、前回阪神タイガースが日本一になった1985年に、私(当時PR会社勤務)が担当していたクライアントの新宿のビルで、手塚治虫先生の画業40周年(夏休み)イベントが開催され、そのパブリシティ活動を担当した。
手塚先生とはテレビ局にご一緒したり、新聞インタビューに立ち会ったりと3-4回仕事でお会いしたという、本当に貴重で幸せな体験をさせてもらった。

そういう思い出のある私としても、非常に残念な事件と会見である。


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