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【TVドラマ】向田邦子のドラマシナリオ「冬の運動会」を読んで。

コロナ禍の中、ビジネス書、ミステリー小説、映画本や音楽本、旅行本など、かなり読書量が増えています。
i-PODやパソコンとヘッドフォンで好きな音楽をそれなりの音量で聴きながら読書するのが、無上の喜びです。
最近最も感銘を受けた本(ドラマシナリオ)は、タイトルにある
向田邦子「冬の運動会」(向田邦子シナリオ集Ⅳ 岩波現代文庫)です。


近所の図書館で借りることも多いのですが、本書は都内の大きな書店で購入しました。

向田作品は、これまでもいろいろと読んでいますが、私が好きな向田作品のジャンルは
(1)ドラマシナリオ
(2)エッセイ・対談
(3)小説
となります。

10代の頃、向田邦子のシナリオとは意識せずに、TBSの「時間ですよ」や「寺内貫太郎一家」などを観ていましたし、NHKの「阿修羅のごとく」や「あ・うん」は、後年BS等での再放送で観ました。レコーダーに録画もして。

私はこれまで向田ドラマでは長い間「阿修羅のごとく」がベスト1だと思っていましたが、今年「冬の運動会」のシナリオを読んでこれがベスト1になりました。といっても実際のドラマ(TBS 1977年1/27~3/31 10回連続)は残念ながら観ていません。一度DVD化されているようですが、購入すると相当な金額になります。有料ネット配信くらいしてほしいものです。こんな名作ドラマが気軽に観られないなんて・・・
過去にCSのTBSチャンネルで放送されたことがあるようで、ネット検索すると下記のようなページが出てきます。右下に放送未定の文字が。再放送してほしいものです。

タイトルは前から知っていましたが、今回読んだきっかけは、ユーチューブで聴いた対談の音声です。
それは「小泉今日子×金平茂紀 ネコタチノトオボエ その3」
この中でお二人は1970年代のテレビドラマの話に触れ、その中で小泉今日子は「子供の頃に二人の姉たちと観た、山田太一、倉本聰、向田邦子などの脚本によるテレビドラマの黄金時代の作品の中でも、特に「冬の運動会」が好きで、その主演の根津甚八が最も好きな俳優」と熱く語っています。(12:00くらい~)
この対談を聴かなければ、この名作を読むことはなかったでしょう。キョンキョン=小泉今日子さんに感謝です。

「冬の運動会」は3人の男(志村喬、木村功=志村の息子、根津甚八=木村の息子)が、実際の家族とは別に外部に疑似家族を持っていて、疑似家族の方が生き生きと過ごしているというシニカルな要素を持ったホームドラマです。
ストーリー概要はリンクしたHPにもあるので省略しますが、その中で読んでいて「これは女性のシナリオライターの目線だな」と感じた箇所を紹介します。

第二話。岩波現代文庫のP55にあるシーン。
父親の北沢遼介(木村功)と不仲の息子・菊男(根津甚八)。
菊男が帰宅しない翌朝の北沢家の居間の場面。
●北沢家・居間(朝)
遼介は妻・あや子(加藤治子=向田ドラマの常連)に「(菊男が)家出したんじゃないか」と話すと、あや子は「まさか」と答える。その後の二人の台詞を一部引用すると。

~略~
遼介「そんならどこへ行ったんだ」
あや子「どこって──家出なら、あれ着てくに決まってますもの」
遼介「え?」
あや子「あの、ほら、襟にモコモコのついた皮のジャンパーですよ。値段だって一番高いし」
遼介「バカ。一番値段の高いもの着て家出するなんてのは女の考えだ!」
~略~

私はこの箇所を読んで、思わず笑ってしまいました。
このあや子の台詞は正に<女性の発想>で、男にはなかなか思いつかないのでは。値段の一番高いお気に入りの服が部屋に置いてあるから家出じゃないって・・・

向田邦子の書くホームドラマは、平凡な日常生活の中に潜んだ、家族それぞれの持つ闇の部分を徐々に明らかにしていき、そこが魅力の一つだと思いますが、もう一点、その中でどことなくユーモラスな台詞のやり取りも大きな魅力だと思います。本書のようなシリアスなドラマでも読んでいて思わず笑ってしまう(微苦笑というのが一番近い)設定や台詞が随所にあります。
ドラマに限らず、向田エッセイの文章や対談での発言にも「笑ってしまう」箇所がたくさん出てきます。

図書館で借りた「向田邦子全対談」(向田邦子全集 新版別1巻 文藝春秋)の中で特に気に入ったユーモラスなエピソードがありました。
江國滋氏との対談の一部(P48-49)
要約すると、

向田邦子が書いた時代劇。局のプロデューサーの机を借りて台本を直している時に、机の上にプロデューサーの原稿料のノートがのっかっていて、悪いと思ったけど見てしまった。
原稿料が植木と同じだった。大道具の植木の費用と同じ。
台本をちょっと直してくれってプロデューサーが入ってきたので「植木に直してもらったらいいでしょ」とにくまれ口たたいた。というエピソード。

太線の言葉がグッときます。笑ってしまいましたが、これも実に女性らしい皮肉を含んだ発言で、男にはなかなか言えないと思うのですが・・・
彼女の書くユーモラスな文章は、粋、洒落、上品さに満ちていて、現代社会に満ちている「あざとさ」が無い。そこに魅了されます。

話は「冬の運動会」に戻り、このドラマは是非観てみたい。
根津甚八の恋人役のいしだあゆみ、『七人の侍』の志村喬、木村功(親子役)、加藤治子、市原悦子、藤田弓子、大滝秀治、赤木春恵、風吹ジュンなど俳優陣も豪華です。
それにしても「冬の運動会」というのは上手いタイトルで唸ります。

最後に、本書を読むきっかけとなった、歌手・女優、現在はプロデューサー業も手掛けている小泉今日子さん(50代になった現在、年々綺麗に色っぽくなっているのが凄い!)のファンですが、彼女の唄のマイベスト5は以下です。
アイドル時代は存在を知っているだけ(当時はジャズに夢中)でしたが、20年くらい前に何枚かCDを聴いてアイドル時代の曲も含めて今ではよく聴いたり、YouTubeでも昔の映像を観たりしています。もちろん「あまちゃん」もリアルタイムで観てました。

1. 水のルージュ
2. Fade Out
3. 怪盗ルビイ
4. 優しい雨
5. Innocent Love
+あなたに会えてよかった、 My Sweet Home など

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