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どうしたRudimental ~新作でドラムンベースの曲を減らした理由の考察~

Rudimental、イギリスはロンドンで結成された4人組ドラムンベースバンド。初期は確かにドラムンベースが鳴っていたが、最近の新作では音楽性が変わってきている。最初から確認していこう。

メンバー構成

Piers Aggett (一番右)
Amir Amor (一番左)
Kesi Dryden (右から二番目)
Leon "Locksmith" Rolle (左から二番目)

このバンドはリードヴォーカルがいなく、基本的に曲ごとにゲストを呼んで歌わせている。ライブでは専属のヴォーカルを雇って歌わせているみたいで、Rudimentalの正式なメンバーではないようだ。

1st album 「Home」29 April 2013

デビューアルバムながらUKチャートでいきなりの1位。そしてマーキュリープライズ賞にもノミネートされるなど華々しいデビューを飾っている。

「Waiting All Night」

そもそも彼らが有名になる決定的なきっかけと言えばElla Eyreをシンガーに迎えた「Waiting all night」のMVであろう。
事故で足を失い、義足になりながら、仲間に支えられて再びBMXライダーの活動を再び開始するという実体験をもとにした感動的な内容。
しかも、このMVに映っているのは実体験を再現したMVでライダー本人もその仲間たちも本人であるらしい。 (https://www.cycloch.net/2013/11/10/13186/)より

そういう背景もあるからだろうか、MVのカメラアングルもやけに生々しく本人たちだからこそ出来るリアルな雰囲気を表現している。

そして曲もMVの内容に見合った力強いドラムンベースを基調としていて、この曲調のお陰で映像に見入ってしまう。

音楽性

話を戻すと、この曲はこの作品において最大のヒット作になってはいるが、一方でこのアッパーなチューンを期待してアルバムを聴くと、作品全体の落ち着いたトーンにがっかりしてしまうかもしれない。
「Not giving in」のようなテイストに近い曲もあるが、どちらかというとこの作品はドラムンベースやクラブ系ポップで構成されたクールなトラックで占められている。

だからといってリスナーを失望させるわけでもない。MNEKやJohn Newman, Emeli Sandéといった実力的シンガーが歌うお陰で、作品全体に漂うクールな雰囲気の中にも、熱量のこもったエナジーがある。
featシンガーも渋めの人選、そしてソウルと相性の良いシンガーたちという傾向から、一般ウケもしやすいし、批評的にも価値のある作品であり、売れ線ポップとは一線異なった格式のあるドラムンベース・ポップ作品である。

中でも個人的にMNEKがこの作品には欠かせない人物だ。2曲しか参加はしてないが、その落ち着いた声のお陰で、曲が持つクールな雰囲気ながらも踊れる曲としての魅力を更に良くしている。


2nd Album 「We the Generation」 2 October 2015

1時間の長さといい、アルバム構成の完成度のクオリティといい、やや冗長的な作品ではあるが、それでも曲単位で見れば個性的なポップスで占められている。

今作ではより著名的なゲストを起用しており、前作からMNEK、Anne-Marie、Ed Sheeranなど実力派のシンガーが揃っている。
中でも今作で暴れまわっているのは、どこから連れてきたのか、Will Heardという人物が参加している3曲はどれもカッコいい。

Will Heard

UK、ロンドン出身の現在27歳のソウルシンガー。彼のハスキーな声はRudimentalのようなクラブ系ソングにぴったり合う。

「I Will For Love」は「We the generation」の最初の一曲目であり、曲が持つ勢いのある展開とWillのハスキーな声で一曲目として良いインパクトである。

音楽性

1stの「Home」からポップさが増してより万人に受け入れられやすい作品となっている。だがそれでも彼らの持ち味であるドラムンベースがここでも目立っており、「ドラムンベース・ポップ」バンドとしてのアイデンティティを容易に確認することができる。

こちらもWill Heardの曲で、ドラムンベースでないポップソングであるが、こちらもチャートに頻出して出てくるポップというよりかはオリジナリティのありながらも、世間に受け入れられやすい曲となっている。

1stと2ndの違い

1st「Home」はポップではあるが、万人ウケというよりかはどちらかというとよりディープな音楽愛好家のほうから好まれやすい作品だと主観で思う。なぜなら2ndと比べるとキャッチーさに欠け、知的に組み合わされたチルいビートで静かに盛り上がらせる曲は、一見ノリにくいと判断してしまう人も多いと思うからである。しかし2ndともなると、一般リスナーも容易くノレるような分かりやすい曲が増え、エドシーランなどの時代に乗った歌手の起用もあり、「ポップ」要素がかなり増した。

そんな中でも、EDMのハードにガンガン躍らせる曲、というわけでもなく、ソウルシンガー達の歌唱、トラックのお陰で全体的にクールさも兼ね備え、TOP40的なありがちな作品にはなってない。
これらの変化は今作のジャケットを観れば推測できるように、Rudimentalはより多くの人に楽しんでもらいたいというスタンスを持っていると考えている。それは3rdでより現実味を増すことになる。

3rd Album 「Toast to Our Differences」 25 January 2019

ここからが本題だ。まずこのアルバムで特筆すべきなのは、ゲスト陣がより豪華になっている点だ。
前作からAnne-Marie, Jess Glynne, Tom Walker, Major Lazer, Macklemore, James Arthur, Rita Oraなど様々な著名なアーティストが集まっている。また、Rudimentalはアップカミングなアーティストをいつも起用しており、shungudzoやRayeなど、まだ名前を聞いたことない歌手をゲストとして迎えている。

そしてもう一つ書くべきなのは、この作品の音楽性で前作から方向性を変え、ラテンポップやレゲエなど多いのが特徴。これは以下のインタビューを見て頂ければわかるが、今作では国の違う文化や人々を褒めたたえる事がテーマとなっている。Rudimentalとして色々な国でライブしそこで得た経験や考え方にインスパイアを受けてのこの作品だろう。これを受けて私は最初、今流行りのラテンポップに方向性を変えて「ラジオに魂売ったんか」さえ思ったが、地に足がついているコンセプトであったと知り、反省している。

どうしたRudimental

そしてこの記事のテーマになっている「どうしたRudimental」であるが、彼らの今作のテーマを分かっても、前作みたいに好きになれないなと思った。その理由をいくつか挙げる。

(1)ドラムンベース要素が減った
彼らの持ち味であるドラムンベースが、今作では衰退していると思ったこと。今作でも一応ドラムンベース的な「ズタズタ」感はあるのだが、どうも今作はその音が弱く、ラテンポップやThese Daysみたいなラジオフレンドリーな曲で占められていて、前作にあった、ドラムンベース要素のあるキレ味の強い曲は少なくなったなということ。These DaysはUKのチャート一位、USのビルボードで5位を獲得した人気曲であるが、個人的に曲調に目立った素晴らしさが無いので今回は好きになれなかった。

(2)Will Heardのようなカリスマ感ある人がいない
完全に主観の感想だが、今作においてWill Heardのような跳びぬけた存在感のある人はいなかった。Will Heardは前述したようにハスキーでソウルフルに歌い、「あまり有名でない」という認識から、前作で輝いた存在になっていた。しかし今作は前作より有名なアーティストが多くいるという印象であり、そういう認識からか「Rudimentalだからこそ聴ける」という印象は抱けなく、そこら辺のDJの曲と大して違わないなと思ってしまった。

(3)オリジナリティに欠けてしまった
今作の彼らが置いたテーマは理解できたが、現状世界ではラテンポップが流行っている事実がある以上、この作品もそういう「流行の一つ」であり、独自の音楽性が聴けるとかいう有難みは今作では思わなかった。

(4)リリース時期が遅れてしまったこと
実は「Toast to Our Differences」は2018年の9月にリリースする予定だったが、「もっと曲を追加したい」という理由で翌年の1月に延期された。これがかなり痛いなと個人的に思っており、何故かというと今作におけるラテンやレゲエの音楽性は、夏に合う音楽性であり、冬にリリースされてしまったことにより、外の寒い環境とズレができてしまったこと。それに、近ごろ一度決まったリリースデイを延長させるアーティストやバンドが多い傾向にあり、最近ではFall Out Boy, Meghan Trainorなどアルバムのリリースを延長している。
各アーティスト各々の理由を挙げているが、裏ではファンから「シングルが売れてないからじゃないか?」とか疑ってしまわれているという現状があるので、Rudimentalに対しても不安を感じてしまったのである。

このような理由から彼らの今作や将来に心配してしまったのだが、もう少し踏み入って何故彼らが今作でこのような音楽性にしたのかという理由を考えてみようと思う。

新作でドラムンベースの曲を減らした理由を考察

(1)そもそも世間はドラムンベースバンドという認識でない
まず「そもそも論」である。世間と私とのズレが生じていると思う。もしかしたらこれに尽きるかもしれない。
大概の場合、音楽性を変えたバンドはYouTubeのコメントで「これはロックではないポップソングだ」みたいな否定のコメントが目立つ。
しかし「Walk Alone」「Let Me Live」のYouTubeのコメント欄を見るとそういったコメントは見受けられない。
日本のサイトでも「EDMバンド」と評されるくらいだし、それならば世間と私と認識がズレているという事なのだろう。

(2)色々なジャンルの曲を書ける
過去作を聴けば分かる通り、ドラムンベースを基調とした曲以外にも普通のポップソングといったり、ジャズっぽい曲もあったりする。このようにRudimentalというバンドは多彩なジャンルを作りメインストリームにアプローチができる。地でもロックンロールを奏でるバンドもいれば、このようにバラエティに富んだ曲でリスナーを盛り上げるバンドもいて、Rudimentalは後者のタイプなのだろう。

(3)Rudimentalはライブバンド

Rudimentalはライブを盛り上げるのがうまい。ライブではブラス隊やバックコーラスシンガーなどを使ったりと豪華で内容のあるライブを届けてくれる。それに「Baby」の間奏のダンスみたいに、ライブでしか見れないパフォーマンスもあったりと、「ライブが下手」の逆を行くバンドだ。

そして本人たちもものすごく楽しんでやっているように見えてしょうがない。Locksmithは前に出てニコニコしてるしほんとにライブが幸せなんだろうなと思う。だから今作におけるラテンやレゲエの音楽性に幅を広げたのはより多くの国の人を満足させたい気持ちからなんだと思う。


まとめ

今回は彼らがドラムンベース要素を減らしたという理由を裏付けるようなインタビューが見つからなかったので考察で終わってしまうが、事実にたどり着けたような気がする。
正直な所、新譜はそこまで好きじゃないし、この記事で失礼な表現もあった。しかし本音ではまだ彼らのことが好きである。それは彼らのリスナーを幸せにしたいというスタンスを確認できたし、「toast to our differences」のボートラにある曲がとても良く、まだまだ彼らの音楽を聴き続けたいと思った。この「leave it for tomorrow」はいつものRudimentalのクールさを兼ね備えたポップだ。
Rudimentalはまだまだ良い曲を書いてくれる期待を持ってこれからも注目していきたいと。

#音楽 #Rudimental #ルディメンタル #レビュー


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