2020年6月 坂田光平

坂田光平

(撮影:長谷川裕起)

演劇も介護も“一緒に揺れる”ことが大切
坂田光平 舞台芸術制作室 無色透明(広島県広島市)


「予防のための換気や利用者さんのマスクの管理など、やることは増えましたね。レクリエーションの時間に歌が歌えない、皆で食べるから食事が摂れていた方の食が細くなってしまうなどの影響もありますし、そもそも介護において“密”は避けようがありません」
 介護職と俳優を両輪とする坂田光平。ウイルス禍での職場の様子を訊くと、厳しい現状を語る言葉が返って来た。が、「でも僕は基本、人に親身に向き合える介護の仕事に楽しんで取り組んでいるので、暗くなったりはしてません」と続け、ホッとさせてくれる。
 近年、彼が参加している舞台芸術関連の企画は、県境を越えて演劇人が交流・創作を行うプロジェクトや、原爆投下を軸に戦中戦後の広島の歴史を掘り起こし劇化する企画、障がいの有無に限らぬメンバーでの舞台づくりなど、アートで社会に働きかける意義あるものが多い。だが俳優になろうとした初動は「芸能人になってテレビに出たい、注目されたい」という、いかにも若気のナントヤラな理由だったという。
「いや改めて言うと恥ずかしいな(笑)。二十歳頃はオーディションを受けまくり、その後養成所のある芸能事務所に入ってローカルのCMなんかに出してもらって。そこが小さな劇場を持っていて、そこで演劇もやっていた。何度かやるうち、映像より演劇のほうが楽しく思えて来たんです。とはいえ俳優の仕事に、今参加させてもらっているような企画があるなんて知りもしなかったわけで。何も知らない自分を、ここまで導いてくれた人と出会いには感謝しかありません」
 そんな坂田の最新の「変化」は、今年五月から、京都の劇団烏丸ストロークロックの活動に参加していること。「先の、広島の原爆投下に関する作品作りの指導に当たったのが烏丸の代表:柳沼昭徳さんで、他にもいくつか現場をご一緒していたこともあり声をかけていただいたんです。同じく烏丸メンバーの澤 雅展君が広島に移住し、介護職の同僚になっていたこともあり、有難くお誘いを受けました。小さな劇団ですが烏丸の方々はみな尊敬できる人ばかり。その一員になれた嬉しさに加え、それ以上の緊張も感じています」
 最近、坂田は澤と二人で朝練をしているのだという。
「仕事前に二人で集まり、ストレッチから始めて日々“昨日と違う今日の身体”があるということを確かめていく。背中合わせに身体をくっつけて、互いの呼吸を感じるとか。“日々違う自分”を認識するというのは、こふく劇場の永山智行さんに教えてもらったことですが、それが少しずつ分かってきた感じがするんです。
あと、最近よく考えているのが“揺れる”ということ。俳優同士舞台上ではもちろん、客席のお客さんに対しても同様に、相手をよく見てそこへしっかりと向き合い、言葉や物語のうねりを共に揺れ合うというか。それは、介護の現場で利用者さんに接するときにも通じているんですよ。“今日は2、3段なら自力で階段が上がれる。その後はリフトで”など、相手の体調や気持ちを受け止めて、行動をサポートする必要がありますから」

 澤の存在がもたらす影響は大きいようで、「一人でこういうことを毎日続けるのって難しいじゃないですか? “今日は疲れてるしなぁ……”みたいになるところを、澤君が居ることで歯止めをかけてくれる。年下だけど僕よりしっかりしていて、ちょっと兄弟っぽい関係かも。って、そこまで言うと気持ち悪いですかね(笑)」
 演劇にも仕事にも真剣に、けれど柔軟に臨み、周囲の人とも緩やかに結び合う。この「柔らかさ」が坂田光平という俳優の武器なのかも知れない。そんな坂田にとっての「俳優として、演劇づくりにおいて一番大事なこと」とは?
「さっきも言ったことですが、“一緒に揺れる”ことだと思います。共演者もお客さんもみんな一緒に作品の時間の中で揺れ合い、互いの存在を確かめ合う。その過程で作品が伝わり、共有できればいいなと思います。そのためにはまだまだ修行しなければ、なんですけど」
 取材中、「大丈夫ですか? ちゃんと中身のあること喋れてますかね」と確認していたのは、このインタビューを一緒に“揺れる”ための心遣いだったのだろうか。なんだか可笑しくなるくらいの敬語と謙虚な物言いが、あたたかな後味として残る対話は、俳優・坂田光平が聴かせてくれた一幕芝居。次は耳だけでなく、全身を彼の「揺れ」に委ねる芝居の時間で再会できることを切に願っている。

2020年6月18日(木)/大堀久美子

Profile
SAKATA Kohei●1982年、広島県出身。2020年5月より劇団「烏丸ストロークロック」の作品創作に参加。俳優活動と共に、福祉施設で介護職員として働き、福祉や介護の現場に演劇を生かす事業に取り組んでいる。「障がいのある人、高齢者、地域に暮らす多様な人々をつなげる」をテーマにワークショップ講師としても活動中。近年の出演作に、広島アクターズラボ 五色劇場『新平和』などがある。舞台芸術制作室 無色透明HP

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(撮影:岩﨑きえ)
写真:広島アクターズラボ 五色劇場『新平和』
   (作・演出・構成/柳沼昭徳)
   広島市東区民文化センター、サザンクス筑後(2019)

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