2020年6月 小濱昭博

小濱昭博

(撮影:岩渕 隆 重力/Note「LOVE JUNKIES」より)

始まりは目の前の人を「ちゃんと見る」こと
小濱昭博 
短距離男道ミサイル チェルノゼム(宮城県仙台市)

 小濱昭博は憂いている。いや、腹を立てていると言うべきだろうか。予期せぬ感染症の流布で明るみに出た、自身も身を置く演劇や舞台芸術業界の脆弱さに。それを率いる上の世代の鈍感さに。ひいてはこの国と人との中で渦巻く大きな歪みに。けれど、その憂いや憤りに倍加する熱量で、自身が関わる近しい人たちを労わり、繋がるために演劇で(得意の料理でも)何ができるかを常に考えてもいるのだ。だから演劇活動が制限されていた期間には、自身の手料理を真ん中に人が集まれる会などを企画していたという。
「ただでさえ生きづらさを感じている人が多かったのに、新型コロナウイルスに関連した様々な不自由や制限、それによって増した孤独感などがさらに人を追い詰めている。震災の時にも散々考えた“こんな時、自分に、演劇に何ができるのか?”という問いにまた向き合う数か月でしたが、焦ってまで何かしようとは思わなかったんです。リーディングの配信など、オンラインでの発信は無数にあったけれど、メチャメチャ作り込んだユーチューバーの動画に敵うようなものはなかなかないし(笑)、僕の考える演劇とは違う気がして。ならば美味いものを作って届けたり、貸切りにした店で密に気をつけつつ料理を振舞うほうが多くの人に喜んでもらえるんじゃないか、と。実際かなり盛り上がり、“またやって!”という声ももらえました。状況が少しずつ良くなった先に、劇場や演劇も、多くの人にとってそんな、また行きたくなる場所にしていきたいですよね」
 彼にとって創造(想像)や表現は自分のためだけでなく、“誰か”のために行うもの。だから東日本大震災直後、「仙台、東北、そして日本を笑顔にしたい」との想いから生まれた「劇団 短距離男道ミサイル」に初期から参加・活動していることも必然必須と思っていたが、取材依頼の返信メールに「ミサイルの活動をお休みしてみました」とあり、仰天した。
「ミサイルは定期的にガンガン活動を展開していく集団。実際、四月の本公演では無観客ながら一日6回、途中配役を変えるなどしながら全て配信するという無茶もやりました(笑)。その公演後、今の自分はそういうテンションで創作する状態にないと思ってしまったんです。だったらいっそ、一人から何が始められるかをしっかり見つめてみようか、と。そう、後はパン(ツ)一(丁)はちょっとキツいなって気分になったのも、舵を切り替えた理由の一つかな(笑)。改めて自分の周りを見回してみたら、僕がカッコイイとか素敵だと思える人が、演劇界に少なかったんです。ならばまず自分が演劇をやっていてカッコイイと思ってもらえる人になるとか、カッコイイ演劇人を増やすとかを大事にしたくなった。だから当面の目標は、“演劇のイメージを良くするウイルス並みの伝染力を持った人”ですね(笑)」
 逆境をシフトチェンジに利用する。普段からよく世間に眼差しを注ぎ、耳を澄ましている人にしかできないことだと思う。
「自分が今、上の世代に対して感じている疑問や矛盾、世の中にある演劇に対するネガティブなイメージを、僕らの後の世代の子たちにまで残したままにしたくないじゃないですか? でも、キャリアや年齢を重ねた人ほど変わるのが難しくなるのは人間の常。だから自分も、できるうちにやるべきことはやらなきゃいけない。仙台はそこそこ大きな街だから、その規模や機能に胡坐をかいてる人が舞台の世界も多いと思う。もっと突き抜けた人や集団が出て来ないと、環境は変えられないですよね。でも結局一番大事なのは“場所”じゃなく“人”。家族はもちろん、教えている専門学校で一緒に面白がって新しいカリキュラムを作ろうとしてくれる担当の方とか、ちゃんと話をしながら取り組めば、大抵の物事は上手く進む。どんな場所でもまず、目の前の人をちゃんと見ることが始まりだと思います」
 なるほど、会うたびにこちらが気恥ずかしくなるほど真正面から見つめて来る小濱の視線は、彼の理想の実践なのだ。そんな、何にせよ少々過剰でアツい小濱にとっての「俳優として演劇づくりの場で一番大事にしているもの」を訊くと、スパッと「覚悟と選択」という返答が。
「専門学校の授業で何がコアになるか考えていた時、この二つの言葉が浮かんだんです。俳優の作業は突き詰めると“何に覚悟を決め、何を選んだか”になるな、と。俳優に限らず、覚悟を決めた人は佇まいからしてカッコイイし、つい目が行く。“アソコでそんなことやる?”みたいな瞬間にも、何十年も続けた仕事や活動の中にも両方“覚悟と選択”は見えると思うし、それがない人の言動には魅力も説得力もないじゃないですか。だから俳優としてだけでなく、人として僕が大事にしていること、でしょうか」
 という言葉を聞きながら、頭の中に浮かんだのは「覚悟と選択」を二本差しにした武士、素浪人の姿。情に厚く、人に優しく、偉ぶるものは斬り捨てる。近頃の流行りとは一線を画した北の侍は、その歩む後に新たな道を刻みつけていく。

取材日:2020年6月9日(火)/大堀久美子

Profile
KOHAMA Akihiro●1983年、宮城県出身。仙台を拠点に活動。フランス、チュニジア、香港など活躍の場は国内に留まらない。様々な現場で培われた、クリエーションに与える影響について評価が高く、息づかい、身体造形から構築される変幻自在な人間像は、老若男女問わず多くの観客を魅了する。東北の創造環境整備と若手舞台人の育成にも力を注いでいる。
短距離男道ミサイルHP

画像2

(撮影:東 直子)
写真:烏丸ストロークロック『まほろばの景 2020』(作・演出/柳沼昭徳)
   東京芸術劇場シアターイースト・ほか(2020)

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