2020年6月 佐藤隆太

佐藤隆太

テーマは「いかに自分をなくすか」
佐藤隆太 
シア・トリエ ロメオパラディッソ(福島県福島市)


 佐藤隆太の観劇初体験は、母が見せてくれた劇団飛行船のマスクプレイ(ぬいぐるみ)ミュージカル。そこで舞台や演技の楽しさを知った彼は、音読の授業で棒読みする同級生の芝居心のなさに苛立ちを感じ、中学3年時には音楽の授業から派生した文化祭の出し物・ミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』に出演。トラップ大佐役で華々しい初舞台を飾った。
「親父のスーツを借り、当時から老け顔だった僕が老け役を演じたものだから、同級生からの反響もスゴくて。“あぁコレだ!”と味を占めた訳です。で、高校では半ば勢いで演劇部へ入部。改めて舞台に立って感じた気持ちよさに、“もうこの道しかない”と思い定め、今に至ります」
 端整な顔立ちに逞しい体躯。てっきりスポーツからの転身組かと思ったら「昔から運動全般、特に球技は嫌いで野球はルールもわからない」とのこと。「体格が良いのは……普段の仕事が土木関係だからじゃないでしょうか。仕事を始めてからちょっと肉厚になったかな」と、あっけらかんと語る口調に思わず笑ってしまった。
 卒業後は先輩絡みで幾つかの劇団に出演。2011年に憧れの劇団満塁鳥王一座(現シア・トリエ)代表・大信ペリカンから公演に誘われ、「ようやく鳥王に出られる!」と喜んだのも束の間、稽古中に東日本大震災が起きる。
「普段の場所が使えず、カラオケボックスに集まって稽古や打合せをしていました。“こんな時に芝居なんて”と否定的な意見もあったけれど、僕は真逆で“初めての鳥王、初めての東京公演!”とやる気満々に。それが後に代表作となり、海外公演も行っている『キル兄にゃとU子さん』です」
 筆者が佐藤を初めて観たのはこの『キル兄にゃ~』の再演で、大信が震災前に構想していた戯曲の執筆を断念し、福島に原子力発電所ができるまでの年譜や福島所縁の詩人や作家の作品の断片、行方不明者の名を掲載した新聞記事などをコラージュして立ち上げた今作に漂う、濃厚な死の気配と深い鎮魂の情は、観劇後も長く胸の奥に留まっていた。
「特別な思い入れなどないはずの福島に、自分がどれだけ愛着を持っていたか震災に気づかされました。原発事故以降“フクシマ”と表記される機会が増えたけれど、県のキャッチコピー“うつくしま、ふくしま”が象徴する豊かで美しい故郷が、僕の中には変わらず在り続けた。そこからは福島で生きること・芝居をすることを、強く意識するようになりました」
 根を張る意識も覚悟もせず生きている都市部の人間に、佐藤が語る故郷への想いは鋭く刺さり、足元の脆さに気づくよう促された気になる。そんな自身の居場所を定めた俳優・佐藤にとっての、「芝居づくりの際に一番大事にしているもの」とは?
「難しいな……僕の思う俳優はツールに過ぎず、演出家の表現したいものをまず体現し、さらにはそれを超える芝居ができればいいな、と。テーマは“いかに自分をなくすか”ということ。他の人の芝居を観ていると、“演じている人(俳優)を感じさせない演技”というのがたまにあり、そういう人は作品が求める・伝えるべきことをきっちり表現し、その景色を観客にも見せてくれる。何より役に対して客観的だし、自分がどう見えるか常に俯瞰できているんでしょうね。いつかはその境地に辿り着きたいんですが、出来たためしはありません。どうしても“自分”が出ちゃうんです(笑)」
 とはいえ作品、ひいては演劇に躊躇うことなく奉仕する佐藤の献身は、舞台上での誠実な佇まいから十分にじみ出ていると思う。
「理想の俳優は大滝秀治さん! 『北の国から』で意識するようになったんですが、あのドラマは主演の田中邦衛さんはじめ、出演者はみな憧れるような俳優ばかりなんですよ。もう一人、名前が今思い出せないんですけれど……」と、延々とドラマの名場面を解説して思い出そうとした“嫌われ者のじいさん”は、大友柳太郎だと調べて分かったのだが、その懸命さと屈託のなさにまた取材を忘れ、声をあげて笑ってしまう。
佐藤が大滝、大友の年になるのだけでもまだ遥か未来のことではあるが、定めた今の想いのまま俳優道を邁進し、「境地」に辿り着くことを影ながら応援したいと思う。生きてその舞台姿が見られるかどうかは、神のみぞ知る、だ。

取材日:2020年6月7日(日)/大堀久美子

Profile
SATO Ryuta●1988年、福島県伊達市出身。劇団「シア・トリエ」と、震災後に立ち上がった男だけのエンターテイメント集団「ロメオパラディッソ」に所属。いわきアリオスで毎年行われる、子供向けバックステージツアー「たんけんアリオス」に役者として参加する。2013年には日・中・韓国際共同制作『祝/言』(長谷川孝治 作・演出)で3ヶ国8都市ツアーを敢行。震災直後の初演以来上演を続けているシア・トリエ『キル兄にゃとU子さん』ドイツ公演など海外公演も多数経験している。

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写真:シア・トリエ『キル兄にゃとU子さん』(作・演出/大信ペリカン)
   サブテレニアン・ほか(2011~)

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