2020年6月 柴田智之

柴田智之

演劇とは、
僕という可能性の中にある「星」を繋ぐこと。
柴田智之 Atelier柴田山(北海道札幌市)


 初めて観た作品の、あまりの要素の多さに圧倒された。音楽、ダンスと身体表現、人形とその仲間たち、オブジェというか美術作品、強い言葉と衝動、そして感情。それらが混然一体となった小宇宙の中で白塗りの柴田智之の顔が、声が、生身が躍動する。そこに宿るのはアングラの稚気と知性、美術の技法、舞踏の哲学、時々医科学。間違いなく舞台芸術なのだが、演劇でも舞踏でもない、柴田作品だけの新しい呼び名が必要に思えた。
 そんな気圧された気持ちで感想を伝えると「独特ですよねえ。くどいものを(笑)たくさん観ていただいてスミマセン」と、少し枯れ気味のあたたかな声が受話器から聴こえ、場を和らげてくれる。
「演劇を始めたのは酪農学園大学在学中。演劇に夢中になり過ぎて大学を辞めることになり、両親からは“家を出てゆけ”と言い渡され、働かなければならなくなりました。北海道に限らず、地域で演劇だけで食べていくのは至難の業。僕も20年以上やっていますが、お金になった試しが本当にないし、公演で休めばすぐクビになる。貯金できたのは10万円くらいでしょうか(笑)。そういう中で出会ったのが福祉の仕事。“人を大事にする”“正解がない”というところが、僕にはすごく納得できたんです。また障がいの有無に関わらずいろいろな方と日々“関係をつくる”ことも福祉の仕事には大切で、そこに演劇や表現に近い、美しいものがあると感じたんです」
 そう、介護福祉士など福祉関連の仕事と表現芸術、柴田は二足の草鞋を履くアーティストだ。近年の彼の代表作・一人芝居の『寿』は、柴田が高齢者の看取りを行う施設に勤務した経験からつくられた。しかも昨年からは、作業療法士になるために学校で学ぶ身でもある。
「所属していた劇団を辞めた後は、本当にやりたい表現はなんでもやろうと演劇に加え絵を描き、音楽も奏で、個展とセットにした公演をやったりもしました。でも去年からは学びの期間と決めていたので、感染症拡大で環境が変わったものの、予定していた公演がなくなるようなことは僕には少なくて。そのぶん、消毒や接触からして多くの気遣いが必要な、介護や福祉の現場は120%以上忙しさが増しています」
 さらに遡った16歳で遭った事故が頭がい骨骨折の重傷で臨死体験までしたこと、その時に感じた生命や肉体の不思議、個人活動で出会った仲間や観客からの支持の嬉しさなどを語った後、「絵を描く、演じる、歌う、踊るなどの表現は、僕という可能性の中にある『星』のようなもの。それらを『線』で結んで形を見つけて星座にすることが、僕にとっての演劇だなと気づけた時があって。それが今に続く、僕の作品づくりの基盤になっているのだと思います」と話してくれた。
 深く、どこまでも考えながら、異なる意見や立ち位置を否定せず、その先に自分のできることを探る。誠実な語りに耳を傾けながら、もし宮沢賢治と話しをしたらこんな感じなのでは、という妙な想像をしてしまった。
 そんな誠意の人にとって、「演劇作品をつくる際に一番大切なもの」は何かを訊くと、「ギリヤーク尼ケ崎さん、という方をご存知でしょうか?」という問いが返って来た。
「“最後の大道芸人”と言われている方で、舞踏家・大野一雄さんと同じ函館出身。80代後半の今まで、路上で踊ることで生活してきた方です。江別に『ドラマシアターども』という、僕が演劇に出会った劇場があって。その劇場のトップにいる厳しい方に、“観なきゃ駄目だ”と言われたのがギリヤークさんの踊りでした。
 当時まだ20代で、演劇で身を立てようと思い始めた頃。初めてその踊りを観た時の衝撃と敗北感はいまだに忘れられません。終演後、“素晴らしかった”と伝えたかったのに、涙で話せなくなってしまって。そんな僕にギリヤークさんは“いいですか? 君には僕なんかよりできることが必ずある。もっと夢を見て下さい、もっと輝いて下さい。あなたならできる!”と言ってくださった。だから俳優としても作家としても、つくり・表現する時には“今、夢見て輝いているか?”と自分に問うことを大切にしたいと思っています。何かそういう、愛情のような気持ちでしか解決できないことって、ある気がするんですよね」

 柴田の言葉の余韻、その優しい滋味がじんわりと耳や心に残る。そこに熱情と創意が迸る彼の激しい作品群が甦り、重なる。ものを生み出す人はそんな、相反するものを身の内に飼い、常に内部で燃焼させているのだろうか。わが身を燃やして夜空を照らすサソリの星座。電話が切れた後、賢治の歌が微かに聴こえた気がした。

取材日:2020年6月4日(木)/大堀久美子

Profile
SHIBATA Tomoyuki●俳優、アーティスト、介護福祉士、児童指導員として札幌市の端、森の中に自宅兼アトリエを構え、福祉と創作の兼業で生活している。2000年より活動。絵画・陶芸制作と個展、楽曲制作とライブ、身体表現での上演を行い、戯曲制作、演出、自主公演・客演を繰り返している。自他作品を企画・上演・プロデュースするなど、役割や表現方法にとらわれない活動を展開中。19年より飛躍を希望し創作活動を抑え、作業療法士資格を得る夜間学校に入学。人体について医学的知識を深めている。
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写真:『寿』(作・演出・出演/柴田智之 )
   シアターZOO・ほか(2013~)

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