芸能人の政治的発言は何がダメなのか?

 最近、ツイッターで #検察庁法改正案に抗議します  や #種苗法改正案に抗議します  というタグ等がトレンド入りすることがありましたね。そのきっかけとして、大勢の芸能人による政治的発言が大きかったと感じます。
 私は決して、芸能人には政治的発言をする権利が無い、なんて言うつもりはありません。日本は表現の自由がある国です。芸能人が政治的発言をすることは本来なら悪いことではなく、むしろ若いファンがいる芸能人が積極的に発言することで、若い人たちが政治に関心を持つようになり、それ自体は素晴らしいことだと考えています。
 しかし今回、ツイッターから国会への流れを見ていて少しばかり危惧を抱いたので、ちょっとまとめました。良かったら読んでください。

〇影響力が大きすぎる

 まず第一にこれですね。
 私を含め、ファンというのは好きな芸能人の発言をついつい肯定したくなってしまう生き物です。
 「私は○○さんが好き」という好意のあまり、「私の好きな〇〇さんが間違ったことを言うはずが無い」、と思いたくなってしまうのです。いわゆる恋は盲目みたいなものです。
 ここで、「私はそんな短絡的な思考はしない、あなたみたいな馬鹿と一緒にしないで」とお考えの方。全くもってその通りなのですが、ちょっと思い出してください。

 ツイッターは、子供でもできるということを。

 iPhone版のアプリは17歳以上、アンドロイドでは13歳以上だったでしょうか。形ばかりの年齢制限はあるものの、ちょっと操作すれば小学生でもアカウント作成は可能。実際、昨年は12歳の少女がツイッターで誘い出されて誘拐される事件も起きています。学校で社会科を勉強中の子供も、大人と同じようにツイッター上に居るわけです。
 つまり、「検察庁って何?」という子供も、きゃりーぱみゅぱみゅさんのツイートを見て、リツイートしたり、リプを送れるのです。
 そのような、まだ政治の知識を身に付けていない子供達にも好きな芸能人はいるでしょう。そんな子達が、純粋な心で芸能人の政治的発言を鵜呑みにしてしまったとしたら。
 問題の根本も法案の内容もよく理解できないまま、ただ「〇〇さんが好きだから」という一心で、芸能人の政治的発言あるいは主張をリツイートし、賛同しながら拡散してしまうこともあるのです。
 子供だけではありません、大人でも状況によって正常な判断が出来なくなることはあります。例えば忙しい時、眠い時、体調が悪い時。そうでなくとも、仕事に育児に働き疲れ、ぐったりして布団に入り、一日の最後の楽しみとして開いたツイッターでフォローしている芸能人が問題提起していたら。

 難しいことは分かんないけど、この人が言ってるなら賛成リプ&拡散しとこうかな。

 となるかもしれません。さながらゲームの脳死周回のように。

 残念ながら、きゃりーさんや柴咲さんの最初のツイートの文面は、読んだ人に「この法改正は悪いことなんじゃないか?」と思わせるものでした。最初のツイートをした時点では、お二人ともそのように思っておられたのかもしれません。
 その後、様々なリプライをご覧になったためか、きゃりーさんはツイートを削除、柴咲さんの方は「議論が必要だと感じる」というやや柔らかい表現に変更されています。しかしそのツイートにも、法改正反対と政権批判のリプライは複数ぶら下がり、冒頭に上げたタグが流行りました。
 もちろん、実際に政府のサイトで改正案を確認した方もいましたし、法改正に賛成派の方も混じって様々な議論がなされましたが、やはり芸能人に比べるとその拡散力は格段に劣り、結局これらの法改正案は今国会では見送られました。
 これらの見送りを受けて、
「日本はいつから現場の声ではなく芸能人の作ったタグで政治が動く国になったのか?」
という声も上がったようです。

 ここでのポイントは、

 芸能人の政治的発言は影響力が非常に強く、ひとたび発信すれば世論に大きなうねりができてしまい、発言者である芸能人自身にも、どうすることも出来なくなる。

 ということです。

〇ツイッターデモの危険性

 有名な国民性ジョークに、沈みかけた船から脱出するため海に飛び込まなければならない時、日本人には「他の皆さんは飛び込みましたよ!」と言うのが一番効く、というのがあります。ご存知の方も多いでしょう。こんなジョークになるほど、日本人は「大勢の意見」に流されやすく、弱いんですね。
 ツイッターをやっている人なら誰でも知っていることですが、ツイッターのアカウントは一人で複数所持が可能です。冒頭のタグがトレンド入りした後、同タグを使って一人で数十件~数百件程度の多重投稿をしていたアカウントが見つかりました。もちろんたったそれだけで、あれらは偽のトレンド、故意に作られたものだったと言い切ることは出来ません。ですが、トレンドに上がっているから、という理由であのタグを使った人はそれなりにいるでしょう。
 法改正に興味はないけどその場のノリで賛成or反対してみた人もいるかもしれません。それらは別に問題ないのです。トレンドは常に流れていくもの、ラピュタが地上波で放送されれば皆がバルス!と呟く、その程度のことです。

 問題は、これらのタグを使ったツイートがツイッターデモとして国会に影響を及ぼしてしまったことです。

 前項で書いた通り、ツイッターをやっているのは大人だけとは限りません。そして大人であっても、正常な判断力を持った状態で呟いているとは限りません。更に言えば日本人だけとは限りませんし、もっと言えば人間とも限りません(Botとか)。
 にもかかわらず、ツイッターで投稿数が多いというだけのツイッターデモが、民意として国会に影響を及ぼしてしまいました。そのトレンドが本物のトレンドなのかどうかも怪しいまま。ツイッターで拡散している人々がどのくらい法案の内容を理解しているのか、そもそも大人なのか子供なのか、日本人なのか外国人なのかも分からないまま。

 一人一票、日本国籍を持つ十八歳以上の人間に限る選挙より、年齢性別国籍不明、人間かどうかも不明な一人で複数アカウントを操れるツイッターの方が、より直接的に国政を動かせてしまったわけです。

 芸能人の政治的発言をきっかけに、現代の政治の危うさが浮き彫りになったと私は感じました。

〇これから起こるであろうこと

 残念なことに前例は既に作られました。ツイッターで芸能人が発言する⇒それを元にタグができてトレンド入り⇒それが民意であるとして国会を動かすという前例です。
 ではこの先、何が起こるか。いえ、もしかしたらもう起きているのかもしれません。恐らく勘の良い人は既に気付いているでしょう。
 想像してみてください。

 もし今、日本の法律を自分達に都合よく変えたいと思う人がいたら何をするか。

 私がその人なら芸能人にツイッターで呟いてくれと依頼します。何ならお金も払います。もちろん一人だけではなく複数の芸能人に依頼します。ファンの年齢層はできるだけ低い方がいいですね。あるいは法律に疎そうな人達が良い。冒頭に上げた二つの改正案についても、はなはだしい誤解を元にツイートしている方が多く見られました。そういう人こそ、世論誘導に都合が良いのです。
 ついでにスパムツイートでもなんでもいいのでタグを作って拡散しまくりましょうか。そうすればファンが勝手にタグを広め、トレンドを作り、興味が無い人達も流されて呟き、ツイッターデモと化し、あとは野党が良い仕事をしてくれることでしょう。わざわざ正当な手続きを経て国に陳情する必要は無く、なんなら選挙権さえ要らない。なんという簡単なお仕事。

 ところで、今年に入って以来、新型コロナウイルスの影響により日本も世界も大変な事態に陥りました。感染拡大を防ぐために外出自粛が叫ばれ、ありとあらゆる業界で売り上げは低下。多くの企業が大打撃を受けました。
 芸能界もまた危機に陥りました。スポンサーである企業の収入が減ったせいで仕事が来ない。濃厚接触を防ぐためドラマの撮影もできないし、スタジオなんてまさに3密。スタッフ含め沢山の人で賑やかに番組を作ることも出来ません。
 普段から高収入で貯金のある大物芸能人ならしばらくの休業にも耐えられるでしょうが、そうではない自転車営業の芸能人にとっては、まさしく死活問題なのではないでしょうか。
 そうでなくとも芸能人は知名度が全てです。テレビに出られない状況が続くことで、ファンや視聴者に忘れられてしまったらどうしよう。コロナ騒ぎが終わった頃には人気がなくなり、仕事が来なくなったらどうしよう。現在進行形で、コロナに加えて彼らはそういう恐怖とも戦っているんじゃないかと思うと胸が痛みます。

 もし、そんな彼らの恐怖心につけこんで、誰かが「こういうツイートをしたら話題になれるよ!」と政治的発言を唆したらどうなるでしょうか?
 芸能人だって人間です。皆に忘れられずに済むのならと、よく知らないことでも呟いてしまうのではないでしょうか。

 検察庁法改正案や種苗法改正案がこれほど話題になったのは、「普段はあまり政治的発言をしない芸能人が問題提起した」というのが大きな理由です。

 彼らは果たして本当に自分の意思でツイートしたのでしょうか?
 誰かに頼まれて、勧められて、騙されて、あるいは「お金をあげるからツイッターで呟いて」と依頼されて……もしくは考えたくないことですが、「そうしないと仕事が来なくしてやるぞ」と脅されて呟いた可能性はないでしょうか。

 今、ここまで読んだほとんどの方が、「さすがにそれは無いだろう」と思われているでしょう。いくら何でも大げさだよ、あのしっかりした〇〇さんがそんなことするわけない、とか。
 なんだよ結局陰謀論じゃん、いい加減にして、とか。
 実のところ私も流石にこれは無いかな、と思っています。芸能人の政治的発言が増えたのは、単純に仕事が無くて暇になったら政治に目を向ける余裕ができた、というのが真相でしょう。
 しかし、今はそうでもこれからはどうでしょう?
 繰り返しますが、前例は既に作られました。芸能人の政治的発言をきっかけに国会が動くという前例が。
 そしてそれを作ったのは我々ツイッター民です。
 思い出してみてください。
 〇〇さんが言ったから、あるいはトレンド入りしているから、という理由で法改正案を読みもせず賛同したりリツイートしたりしませんでしたか?
 自分と反対の意見をよく読みもせず、問答無用で相手のことをサヨク、ネトウヨとレッテル貼りして耳を塞ぎませんでしたか?
 もし今後、法案関連のツイッターデモが乱立してそれが国会を動かしていくようなら。

 本当は政治に関わりたくないと思っている芸能人が、政治を動かしたい人に無理やり利用される未来もそう遠くはないでしょう。

 芸能人の政治的発言、それ自体は全く悪いことではありません。しかし、本当にその芸能人を好きなファンなら、決して彼らの発言を鵜呑みにしてはいけません。
 ダメなのは政治的発言ではなく、知名度と影響力を使った世論誘導。

 芸能人を応援したいという「好意の拡散力」が、好きな芸能人を政治の操り人形にしてしまうかもしれないのです。


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