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誰かが甘く誘う言葉にもう心揺れたりしないで

そうは言っても明日はやって来るし、明日どころか今日だって生きなきゃならないし。
夜逃げのように職場を去っても、まだしばらくは誰かに雇用される日々は続く。

不景気の風が吹きすさぶ中、それまで勤めたどこの職場でも正規雇用より非正規雇用の人員数が多く、とりわけ派遣社員の比率は高かった。

でも、これといった目的意識もないまま世間体のためだけに働いているのに「社員だから」というくくり一つで雑用から責任まで任されることに辟易していた自分には、趣味に打ち込みながら、夢に向かって努力しながら、あくまでも稼ぐためだけの仕事と割り切ってとマイペースに、時にはドライに仕事をしている派遣という雇用形態が魅力に映らないはずもなかった。
業務も時間もあらかじめ契約範囲が決まっているのも魅力だった。

友達にも、両親にも、世間様にも、自分自身にも、少なくとも面目が立つような生活を送るには企業に正規雇用、少なくとも直接雇用されることが必要不可欠だと思って何とかそうあるよう努力してきた。
上司から「正規雇用なんだから派遣社員より努力しろ。」と言われ続けて来たこともあって、自分は違うとどこか勘違いしていたんだろうと思う。
反面、その環境に馴染めないまま10年近くが経っていて、限界を迎えた結果が例の夜逃げ退職。
また同じ状態になるのはイヤだし、派遣社員になるかと腹を決め、数撃ちゃ当たると大手から零細まで手当たり次第に派遣会社へ登録。

こうして、時給という対価と引き換えに自分の時間を切り売りする商売を始めた。

朝9時から夕方5時まで、昼休みはきっちり1時間、残業なし、行きたくない飲み会には行かない、一般事務の契約内で言われたことをやればよし、私服OK、ヒゲOK(←重要)。
自分にとっては現時点で最高の、有り難い勤務条件だった。
余談だけど、こういう一般事務職って女性を求められることが多かった。
エントリーしても「あ、男性はダメです。」とにべもなく断れることはしょっちゅうで、「これ、女性はダメって言ったら差別案件なんじゃないの?」と思っていたし、今でも思っているけど、まぁいろいろ事情もあるよねということで、ここでは蛇足程度に。

この頃、話題になり始めたTwitterのアカウントを作り、そこから今までとは違う世界が広がった。
それまでの人生とは比較にならないくらいたくさんの人と会う機会があって、これは今に至るまで自分の人生にずっと大きなプラスをもたらしてくれていると思う。
そういったプライベートを充実させるにも、この働き方は好都合だった。
その職場で6年と少しの間仕事を続け、結果として企業での最長勤務記録となっている。

これ以降も2〜3年毎に就業しては辞め、もしくは打ち切られを繰り返すことになるのだけれど、当初は自由を謳歌するように楽しめた派遣というスタイルも、段々と億劫になって来た。
それ以上に、40歳を過ぎて年齢も経験値もそれなりに上がっていた自分には、昔のように世間体を第一に気にするような繊細さを欠きつつあった。

それならと勤務する日数も時間も減らして別の職場で働いてみたものの、イマイチ相性が良くなくて3ヶ月で退職。
これが現時点での最終職歴となった。

そこからおよそ1年が経過した今、ようやく「外で働かない」ことを自分自身で認めて、そこが自分の居場所だと思えるようになった。
仕事って言葉の意味を企業に雇用されて給料をもらうだけに限定することないよなと思えるようになった
立場が変われば視点も変わるとはよく言ったもので、実際にいわゆる無職になってみないとわからなかったことや、見落としていたことがたくさんあることもわかった。

世間体を保つための悪あがきをやめて始めた派遣稼業ではあったけれど、やっぱりどこかで自分のことを「これでいいんだ」と認めきれていなかったのは否めない。
気楽な働き方をしてはいても社会と繋がっていることでの安心感にあぐらをかいていたのは間違いないし、無職の穀潰しと後ろ指を指されること、みんなと同じではなくなることにずっと怯えていた。
逆に言えば、無職の状態に対しての侮蔑や忌避みたいなものがあったんだと思う。

平均寿命を鑑みると人生も残り半分。
一般的なサラリーマン人生の期間としても大体残り半分。
今までとは少し違う生き方してもいいよねって。
これもきっと昔だったら自分に言い聞かせるスタンスで書いていただろうことだけど、今は実感を伴った感想として書いている。

今も昔も、引いてはそれが国益につながるわけだから無理もないことなんだけれど、毎日はサラリーマンを続けさせたい側の思惑に満ちあふれてるなぁと思う。
そっちサイドからの甘い言葉にさんざん踊らされたなぁと苦笑いしながら、もう心揺れたりしないゾ、でも人間だからちょっとは揺れたりもするかもしれないゾ、と、東京ラブストーリーが29年ぶりに復活するというニュース記事を横目で読みながら。


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