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人が怖くておりこうに、未練がましく。

そうして綺麗な恋を手にした気がしていました。
随分とおりこうな恋を。


彼は私に、心理テストみたいな質問ばかりするねと。
彼は私に、わがままだから、人のせいにするからと。
彼は私に、あなたが良くても僕は嫌なのと。

伝えるチャンスを潰し、怒り、圧をかけてくると感じていました。

彼の素敵なところは私には無い物で、当分手に入らない物で、もしかしたら手の届かないところにあるのだと思います。
羨ましくて悔しくて、美しくて苦しい。
私も1人の人であり、若く苦しい学生で。
つい皮肉を言ってしまっていたような気もしますが、それよりも素直に伝えられないかと何度か口にしようとしました。

彼は、無理して東京ぶらなくていいんですよと。


これも憶測にしかなりませんが、私たちはきっと似ていました。人のことが気になってしょうがない。自分に自信がさほど無く、でも自分の素晴らしさを知っている。思わずもマウントをとってしまう幼さがあり、愛されたい。

彼は、会いたいと言ってきた人が及び腰になると萎えると。


そして、当然のように違うことが多い。合わない事が多い。
20代と30代ではどうしても世間体が悪かったのかもしれません。地元を飛び出して知らない人の中カミングアウトをしていける私と、見かけのいい人付き合いの中で地元で暮らす彼。ゲイである事を受け入れるまでに歩いた道の距離、時間。立場と責任の重さの差もあり。
それでも私は彼の恋人であるはずだったのだけれど。


とうとう何も言えなくなってしまったのです。


どうしたの?
何が別れようと思った原因なの?
これが不安になった原因?

原因はこれまでの中にたくさん散らばっていて、それらの向こう側にはヘラヘラ笑って何も言えない私と、怒り皮肉を言う彼。気付いてはくれないと知っていました。考えてはくれないと。


彼だけが悪いとは思いません。私だって、そして仕方がないことだって。
私にはトラウマがあるようで、狂うほどに好いた元彼とどうにも分かり合え無かったこと、人の気持ちは移ろいやすいこと。どうにもおかしい私の心。
この恋のコンセプトは実は、お互いが傷つかないように、重くならないようにという保身が元だったのです。愛を信じられず、狂うほどの愛を病理だと思っているのです。


彼に伝えることのできた事がひとつ。
「お互いにもっと素直になってみても良いと思うんですよね。」
その真意は言えなかったけれど、だから好き、だけど好き、だから苦しいと言えたならどれほど良かったでしょう。
もちろん私自身への戒めも込めて。


別れの形は逃げるように。
余裕なんてどこにも無くて、これ以上惨めに苦しむくらいならと切り出し抹消し何事も無かったかのように。

私は器用な方ではないので、別れた相手とお友達ではいられません。まだ。縁が無かったんだと後腐れなく、そして冷淡に別離を、したつもりだったのですが、これ以上伝えられる事は無いと、後悔はないと思っていたのですが。未練でしょうか、悔しさでしょうか。寂しさでしょうか、悲しみでしょうか。

今でも会いたいと。別れたくないと言ってくれればなんて、彼は決して言わないし言えなかっただろうと考えているのです。
カッコよく去りたかったけれど、往生際の悪い私はまた彼と会えないか、話せないかと期待しているのです。

私物は捨ててと伝えたけれど、律儀にもドアノブに下がっていたのです。優しさに甘えて知らずにストレスを与えていたのでしょうか、すいませんと。身を案じる言葉とともに短い手紙を添えて。

何度でも言いましょう。あなたがこれまでにどのような事をしていても、あなたはとても素敵な人です。

ついつい、返信という名の少し素直で捻くれた置き土産を残していってしまいましたが、考えを整えていくほどに愛しくて堪らないものですね。

きっともう一通だけ手紙を送ってしまうでしょう。全身全霊で、素直な、最大限に全てを綴った手紙を。

あなたは嫌がるだろうか。醜いと思うだろうか。
「すいません、メンヘラできがひけるのですが、」

もう二度と時間を重ねられないと思っていたあなたの目に触れる事を願って、あなたが行きたいと言っていたカフェで格好つけながら綴ります。


次の恋のコンセプトは、馬鹿だと思えるほどに醜くて素直に。

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