ずっと気になっていた首のしこり(顎下腺腫瘍)

これは、40代後半の私に起きたある病気の記録です。

顎下腺腫瘍の診断を受けるまでと、その後の手術までを綴ってみました。
文字だけの退屈なものですが、ご興味があればお読みください。


〈なんだろう〉

3年ほど前の年末。懇意にしている美容師さんからのある告白。
「がんになっちゃいました!」
中咽頭がんとのことで首筋は大きく膨らんでおり、翌週にも入院して手術するとのことでした。
普段はカットだけしかしない彼が、その日はシャンプーからマッサージ、ブローと全ての行程を無言で行う様は、私に対する最後の接客になるかもしれないという想いのようにも感じました。
死ぬかもしれない、と思っている相手に何て声を掛ければいいのか全く分かりませんでした。

それから1カ月後、彼は職場に復帰しがんと闘いながら美容師を務めていました。

お店で彼に会ったり、彼の闘病ブログを見るたびに自分の首筋を意識するようになったのもこの頃です。

そんなある日、何気に首筋を触っていると右の首筋に少し固くなっている感じがする箇所がありました。左側にはありません。


「なんだろう?」


まさかとは思いましたが、もし悪いものであれば何か他にも兆候が出てくるのではないかと思い特に気にはしませんでした。
実際、痛みや違和感、体調の異変は全くなく、外形的にも腫れているようには見えず良く触れば分かるという程度のものでした。

その年(2019)の健康診断での問診時に医師に聞いてみようと思ったのですが、自覚症状がなかったのとさほど重要だと思っていなかったので、聞くのを忘れてしまいました。
問診した医師も気付くことなくスルーされました。


〈気になり出したお正月〉

2020年お正月。
東京オリンピックが開催される(予定だった)新年を迎え、妻との何気ない会話からかがんと闘病中の美容師の話になり、妻に「実は俺の喉も何か膨らんでいるんだよね。」と話しました。
すると妻が「どこどこ?」と聞くので、「右の首、少し膨らんでいない?」と分かるように見せると、「あら、ヤダ! 早く医者に診てもらいなよ。」

この時は今年こそ診てもらおうと思いました。
首のしこりは急激ではないものの微妙に大きくなっており外形的にも膨らみが分かる程度になっていました。
加えて同じ歳のいとこが前年にすい臓がんで他界するというとてもショックなこともあり、他人事ではないなと感じるようになりました。

この頃から ネットで「首のしこり」を検索するようになり、自分はどれに該当するのだろうと心配していました。
ただ痛みなどの自覚症状がないことや、腫れの進捗がとてもゆっくりなことから、悪性のものではないだろうと勝手に思っていました。


〈会社の定期検診〉

2020年9月某日、今日は絶対に首のしこりのこと聞くぞ、と意気込んで望んだ定期検診。

問診時、医師が聴診器を胸に当て「問題ないですね」と、次に触診で首回りを触ります。
心の中で気付いてくれと願いつつ、気付かれなくても今日こそは聞こうと思ってました。
医師の手がしこりの部分で止まりました。
「首のところに腫瘤(しゅりゅう)がありますね。念のため専門医に診てもらった方がいいと思います」
医師からの初めての指摘、様々な心配をしました。

帰宅後、近所の耳鼻咽喉科の病院をネットで検索しました。
ちゃんと診てくれそう(根拠のない勝手なイメージ)で、何かあれば大きな病院を紹介してくれそうな病院を探しました。
こういう時にホームページがきちんとあると情報が分かって有難いものです。
色々検索した結果、近所で院長が大学病院の非常勤をしている病院をその週末に受診することにしました。


〈近所の耳鼻咽喉科を受診〉

2020年9月中旬の某土曜日、近所の耳鼻咽喉科を受診しました。
触診しながら、いつ頃からしこりがあったか、痛みなどの症状がないかなどを問診され、診断としては「顎下腺腫瘍の疑い」となりました。
良性のものである可能性が高いと思うが悪性の可能性も否定できないとのこと。
具体的な治療については良性の場合でも手術による摘出しかないとのこと。
ここでは正確な検査が出来ないとのことで、総合病院を紹介してくれることになりました。

比較的家に近い都立の総合病院と、院長が非常勤講師をしている大学病院のどちらが良いかと聞かれ、迷うことなく大学病院を選択しました。

良性のものであれば特に急ぐ必要はないとのことでしたが、悪性だった場合は直ぐに手術が必要なのでなるべく早く行くようにと、紹介状を頂戴しました。


〈大学病院を受診〉

9月下旬、御茶ノ水にある某大学病院を受診。
若い女性の医師より、今日は色々検査しましょうとのことで、診察がスタート。
まずは触診、そのつぎにファイバースコープを鼻から挿入。「あー、これですね、癒着はなさそうですね。」
私は怖くて映像を見ることが出来ませんでした。

ここで医師より「おそらく良性の顎下腺腫瘍でしょう。あと今日は超音波検査と注射で細胞を取るのと、MRI検査、血液を取りましょう。」との説明。

説明後、違う部屋へ移りベッドに横たわると、首にゼリーをぬられグリグリと超音波検査、そして腫瘍の細胞を取るため医師が注射器を喉元へ。
「刺される」と思ったのも束の間、チクリといった程度の痛みで終わりホッとしました。

残りの検査は別の階なので自分で行って来るようにとのこと。検査結果が出るまで1週間ほどかかるので、その後くらいの日程で予約を入れましょうとのことで10月13日を予約しました。

採血は採血専門のところがあり、受付を済まし中へ入ると、まるで役所のカウンターのような採血カウンターがずらりと並んでいて採血スタッフ10名ほどが次々と採血しています。
自分の受付番号が呼ばれ3本分の血液を取りました。
ふと、ここのスタッフは一日中注射針を刺し血液を採っているのかと思うと、とても自分には出来ない仕事だと思いました。

MRI検査はまた別の場所です。
予約がなかったので相当待たされました。
ようやく呼ばれると更衣室に入り専用ガウンに着替え待機します。
MRI室に入ると、イメージ通りの機器がありました。
横たわり何やらプラスチック製(?)のカバーを顔に被せられます。
機械が動くとトンネル状の器機が迫ってきます。
ここからは目をつむり約10分間じっとしています。
何やら「ジジジ、ガガガ」という日常生活では聞かない音が聞こえて来ます。閉所恐怖症の方は相当怖いでしょう。
私は「このまま人造人間にされてしまったらどうしよう!」とほんのちょっとだけ心配しました。

一連の検査が終わり、半日以上要した大学病院の初診を終えました。


〈診断結果〉

2020年10月13日、検査結果を聞きに大学病院を受診。
前回とは異なる男性の先生(後に主治医になる)から結果を説明されます。

「腫瘍は良性と判断されます。身体に害は無いので直ぐに除去しなければならないことはないですが、多形線種といって悪性化する可能性があるので除去することをおすすめします。手術の場合、全身麻酔で患部を切開し腫瘍を摘出します。1週間から10日間の入院が必要になります。」

取り敢えず悪性でなくて良かった、と胸を撫で下ろしました。
手術についてはやる方向で考えている旨を伝えると、先生から「今月末はどうでしょう?」と提案されたのですが、流石に2週間後では心の準備や仕事の調整などを考えると難しいと思い、時期については検討させて欲しいと伝えました。

先生より次回診察日の10月27日までに希望時期を決めて来てください、と指示があり、その日は病院をあとにしました。


〈入院日程の決定〉

2020年10月27日、入院日程を決めるために大学病院を受診。

仕事面で比較的影響の少ないと想定される12月の第2週を希望することを先生に伝えました。

すると先生より、12月5日入院で手術は7日。退院予定は13日でどうかと尋ねられ、この日程でお願いすることにしました。

術前診察で2回受診が必要と説明されました。

診察終了後、入院の申込手続きが必要とのことで担当のコーナーへ移動。
色々書類を渡され記入することに。
病室の希望欄にグレードの異なる個室、特別室があります。最高ランクの特別室はなんと1日156000円、最低ランクの個室でも33000円ととんでもない金額です。
この辺の差額ベッド代は病院の収益源なんでしょう。
私は迷わず差額ベッド代がない大部屋(1部屋4名)のテレビ有料を選択。テレビ無料の大部屋があったのですが6950円かかるので、差額ベッド代なしの部屋で申込みしました。


〈術前診察1回目〉

2020年11月24日、術前診察の1回目で大学病院を受診。

全身麻酔を実施する上で麻酔科の受診が必要とのこと。
先ずは全身麻酔に関するビデオを見ます。
ビデオでは手術室での麻酔方法や麻酔によるリスクの説明がありました。
ビデオの後は歯科検診で歯の状態を確認します。麻酔中は自発呼吸が出来ないため気管挿管による人工呼吸をするそうです。ぐらついている歯が万一手術中に抜けて気管に入ってしまうと肺炎を起こしてしまうためとのことです。

次は麻酔科医の診察です。
診察といっても、ビデオで見た内容とほぼ同じことを書面で説明し承諾書にサインするという儀式です。

麻酔科医の診察が終わり、次は耳鼻咽頭科(主治医)の診察です。
この日は術前診察の確認と、入院日、手術日の確認で終了でした。

〈術前診察2回目〉

2020年12月1日、術前診察の2回目です。

検査内容はCTの撮影とPCR検査です。
この日の主治医の診察はありませんでした。

最初にCTスキャンを撮影します。
ほとんどなく待つことなく呼ばれ、上半身だけシャツ1枚になりトンネルのある器機に横たわります。
ものの2分程度で終了しました。

次にPCR検査です。
専用の受付にて検体採取用のキットを受けとります。
唾液を尿検査で使用するようなプラスチック製のケースに絞り出して行きます。
10分くらいかけて10ml程度採取して終了です。
万が一陽性となった場合は入院は延期とのことです。2~3日以内に連絡がなければ陰性と理解してよいとのことでした。


〈入院〉

2020年12月5日、大学病院へ入院。

入院の受付を済ませ、入院病棟へ。
付き添ってくれた妻ともここでお別れです。
コロナの関係で面会は基本禁止のため、家族と言えども病室には行けないとのことです。

病室につき荷物の整理が終わった頃、看護師さんが今後のスケジュールや入院生活のルール、トイレやシャワー室などを案内してくれました。

入院当日とその翌日は特に検査等はないようです。

手術まであと2日。緊張してきました。


〈顎下腺腫瘍の摘出手術〉

2020年12月7日、いよいよ手術当日を迎えました。

予め渡されていた手術着に着替えます。
足には血栓防止の圧着ソックスを履きます。

午前8時15分、看護師さんが来られ一緒に別の階の手術室へ移動します。
流石は大学病院、いくつあるか分からないくらい手術室があります。同時にいくつもの手術があるようで手術室前の通路は、医療スタッフが忙しそうに往来しています。
手術前の椅子に腰掛け待っていると、麻酔科の医師、手術担当の看護士が挨拶に来ました。

看護士からの本人確認が終わり、ほどなくすると「では行きましょう。」との声。
ここで入院病棟の看護士さんとはお別れです。

手術室に入ると、正に医療ドラマで見たような手術室そのものの光景です。
緊張もマックスになってきました。

案内されるまま手術台にいき仰向けに横たわります。すると頭上にはこれまたテレビで見たことのあるたくさんの電球のついたライトがあります。

すぐさま、数人の医療スタッフが心電図の器具を付けたり、点滴用の注射をしたりと、どこで何をされているのか分からないくらい猛スピードで準備をしていきます。

もうここまで来ると、まな板の鯉です。

何やら酸素吸入器のようなものを口許にあてられます。
麻酔科医より「麻酔の成分が入っているので少しずつ意識がぼんやりしてきます」

麻酔ってどんな風だろう、と考えていると目の前が何だかぼんやりしてきました。
その10秒くらい後からの記憶は全くありません。

麻酔から覚めると看護士が自分を呼んでいるような声がします。おそらく無事終わりましたよ、というような感じだと思いますが、まだ意識がぼんやりしていてよく覚えていません。
その後の「病室に戻りますよー」という声は覚えておりストレッチャーに寝かされたまま病室に戻りました。

それから30分程で意識が大分戻ってきました。
手術したところが気になり、スマホの自撮り機能で見てみます。
すると首にはチューブがささっており、そのチューブから出た液を溜める容器が手術着に止められています。これは術後の血液等を外部に排出するためのものでありドレーンというものです。

肝心の切開箇所ですがおそらく7~8cmの切開でしょうか。首のしわに沿って切っているようです。
縫合箇所は医療用の絆創膏(傷パワーパッドみたいな素材)が貼ってあるのみです。

また左手首には点滴の注射針が刺さっていました。
しばらくは点滴のチューブと首のドレーンに注意しなければいけません。

痛みですが鎮痛剤入りの点滴のお陰か激痛という感じはしません。
鎮痛剤投与を止めた時の痛みが恐ろしいです。

また頭を動かすとクラクラします。
看護士さんから吐き気はないですかと聞かれるが、このクラクラが続くと吐きたくなるかも知れないと思いました。

とにかく、無事に終わって良かったと思う瞬間でした。

後で妻に聞いたのですが、手術は予定通り1時間半で終わったようでした。
ということは術後1時間半くらい麻酔が効いていたことになります。


〈術後の経過〉

ネットの情報によると手術当日の夜が一番しんどいというようなことが書かれていました。
切開箇所の痛み、麻酔による吐き気や倦怠感、通常麻酔なしでは耐えられないほどの身体へのダメージ など、当日が一番しんどいのは至極当然のことです。

とにかく安静にしていようと心掛けるしかありませんでした。

幸いにも痛みも想像していたものより小さく、その他も安静にしていれば普通に過ごせる状態でした。
加えて全身状態も悪くなかったので、夜にはゆっくりですが歩くことも出来ました。

しかしその晩は寝られませんでした。
手首に刺さっている点滴の針、首に刺さっているドレーンが寝返りの際に外れたらどうしよう、と気になってどうしようもありません。
また点滴が原因だと思いますが、尿意が1時間おきくらいにやってきます。
そのため頻繁(5~6回)にトイレに行きました。
点滴液を固定した台車を連れながらなので結構面倒です。

翌朝4時頃、看護師さんが点滴外しましょうと言ってくれ、右手首がよやくフリーになりました。

手術当日は点滴のため食事はありませんでしたが、翌日からお粥を食べることが出来ました。
恐る恐る口に運び、小さく開けながら完食しました。とても美味しかったです。
その日のお昼、晩、翌朝までがお粥でした。

手術翌日のお昼から普通食になりました。大きく口を開けると突っ張る感じがあります。また飲み込む際にも喉に若干痛みがありました。

首に刺さっているドレーンは3~4日外れませんでした。
ドレーンはほぼ垂直に首に刺さっており、延びたチューブはお腹にテープで固定されています。
そのため輪っか状になっている部分があり手を引っかけてしまいそうで心配でした。
ドレーンが刺さっている内はシャワーも浴びれませんでした。

手術から3日後の12月10日、ようやくドレーンが外れます。
医師に処置室に連れられ処置用の椅子に座ります。
どうやって取るのだろう、麻酔は?と考えている間、医師は鋏を取り出します。
何やらチューブを固定していたであろう糸をパチンと切ったと思ったら、そのまま引っこ抜いてしまいました。
少し痛みがありましたが、そのあっけなさにビックリしてしまいました。
抜いた部分は、ごく普通の絆創膏が貼ってあるだけです。これもビックリでした。

首のドレーンも取れ、あとは退院を待つのみとなりました。
明日退院でもいいくらい日常生活には不自由がない状態になったと思っていましたが、翌日医師より念のためもう1日様子を見ましょう、とのことで12月14日に退院しました。

結局10日間の入院となりました。

治療を行った大学病院ですが、検査設備、医療の専門性、医師や看護士など医療スタッフの対応は申し分ない内容で、また何かあった際はお世話になりたいと思った次第です。

退院後のスケジュールですが年明けに術後の診察が予定されています。


〈終診〉

年が明けた1月初旬。術後診察が行われました。担当は主治医の先生です。

その後どうですか?の問いに、「痛みというほどではないが、時々うずく感じがします。また切開した箇所に少し硬いものがあります。」と答えると、先生より「時々思い出したようにうずくことがありますが次期に無くなるでしょう。また硬い部分も少しずつ柔らかくなるので心配いらないですよ。」と説明され安心。

腫瘍も良性のもので、これで治療は終診とのことでした。

再発について聞いたところ、10年20年のスパンでみれば再発はあり得るが、定期的に検査する必要はないとのこと。また腫瘍は全摘したので転移の心配もないとのことでとっても安心しました。

これで今回の首のしこり(顎下腺腫瘍)の治療は全て終了しました。

長いようで短かった今回の治療ですが、私にとって初めての入院・手術ということで、ハラハラ・ドキドキもありながらとても貴重な経験をすることができました。

とにかく体の異変を感じた時は迷わず病院へ行くこと、自分が納得できる検査・治療を受けることが大事だと感じました。


最後まで読んでいただきありがとうございました。


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