4月からまなぶ現代文①言葉の知識

0 はじめに
 受験生のみなさん、はじめまして、土井諭です。予備校で現代文を指導したり、模擬試験の作成や問題集の執筆をしたりしています。どうぞよろしくお願いします。

 新型コロナウイルスの感染拡大にともない、学校や塾や予備校が休校になるなど、受験生にとってとても大切な時期である4月・5月に十分な学習環境が失われてしまっていることを心配しています。本来ならばこの時期に学校や塾・予備校の先生から受験勉強の進め方についてのアドバイスなどがあるはずですが、皆さんはそうした指針の得られないまま不安な毎日を過ごしていると思います。今回の記事では、4月から5月にかけての学習の進め方についてささやかながら私からアドバイスをさせていただければと思います。

1 まずは「語彙周り」を鍛えよう
 「よーし、現代文の勉強だ!読解力をつけないとな。問題集をいくつか買ってはじめてみよう!」と意気込んでいる人、ちょっと待ってください。確かに現代文はいわゆる「読解力」が問われる科目ですので、読み方を教えてくれる参考書や問題集に手を伸ばしたくなるのはとてもよくわかります。

 しかし、です。まずは「語彙周り」を鍛えてください。大学受験予備校で長年指導していてつくづく思うのは、

受験生の語彙力、漢字の読み書きの力が悲惨!!

ということです。

「いやいや、ちょっと待ってよ、ワタシ、日本語のネイティブやで」と思ったあなた、以下の語句の意味はわかりますか?

実存 エスニシティ オリエンタリズム 表象 世俗化 国民国家 人間疎外 内面化 アウラ フェティシズム……

 はい、10個すべて説明できた人。もうこの記事を読むのをやめていいですよ。いつでも入試を迎えられるレベルの語彙力になっていますから。反対に、一つでもわからない言葉があった人、このまま言葉の学習をおろそかにしていると必ず痛い目を見ます。大学入試の約3000~4500字の文章の中(評論系の文章)には、こうした言葉が散りばめられているわけです。これらの言葉がわからない、ということはその言葉の部分が「墨塗り」状態になっているも同然ですから、文章の趣旨を正しく捉えることができなくなります。

 語彙力を向上させないままに、やみくもに読解系の問題集に取り組んだところで読解力は向上していかないのです。

 現代文で学ぶべき語彙は、今見てきたような評論用語系の言葉以外にも、慣用句・ことわざ・故事成語なども含まれます。ふたたびここでテストです。意味のわかる言葉はいくつありますか?

しかつめらしい 鼻白む(はなじろむ) 怯懦(きょうだ) 捲土重来(けんどちょうらい) まんじりともしない 無聊(ぶりょう)をかこつ 横恋慕(よこれんぼ) 挙措(きょそ) 夜郎自大(やろうじだい)

 さて、10個中いくつ知っていましたか? こうした言葉は随筆や小説などによく出てくる言葉です。「大学入学共通テスト」でも第2問で慣用句をはじめとした日常ではあまり耳慣れない言葉の意味がきかれますし、設問化されていない部分だとしても、その部分の意味がわからなければ文章の理解に支障が生じるということもよくあることですから、評論用語以外の語彙知識もしっかりと身につけていく必要があります。

 漢字の読み書きの力もこの時期にしっかりと身につけておきましょう。漢字の書き取り問題の得点力を上げるため、という第一の目的以外にも次のような目的が漢字学習にはあります。

文章の文字の30~50%は漢字で構成されている。漢字に苦手意識があるとどうしても「読むことそのものへの抵抗感」につながってしまう。そうした抵抗感をなくすためにも4月~5月は集中的に漢字の勉強をした方がいい。

 夏を過ぎてからでは漢字を学習するヒマなどないと思ってください。やるなら今、この時期くらいしかないのです。漢字の嫌いな受験生も、どうか覚悟を決めて漢字の学習を集中的にやっていきましょうね。

1-1 評論用語の学習法
 学校でいわゆる「現代文単語集」なるものを購入しているならば、それで構わないと思いますが、オススメを挙げろと言われれば以下のものを推します。

① 初学者の人

『イラストとネットワーキングで覚える 現代文単語 げんたん』(いいずな書店)

私も執筆陣に名を連ねていますが、「初学者を中上級者へと引き上げる」という方針で作った単語集です。多くの高校で採用され、現場の先生からは生徒たちの語彙力が明らかに向上したという声が寄せられています。現代文を学ぶ上で本当に必要な語句を厳選し、直観的にわかるイラストと意味によるグルーピングを活用した編集によって、楽しく覚えられる一冊だと思います。

② 中上級者の人

 現代文の学習を高1~2年でしっかりやっており、それなりの語彙力がある自信のある人。さらに難度の高い語彙力や背景知識を身につけたい人は、

『読解 評論文キーワード』(筑摩書房)

がオススメです。一つの見出し語句から展開される背景知識の解説は、非常に読み応えがあります。掲載語彙数こそ少ないものの、超重要なキーワードに関しては解説・説明を惜しみなく試みている野心的な単語集です。

 学習の進め方ですが、以下のようなスケジュール(1日30分)でやるといいでしょう。

1~7日目 まずはざっくりと読む。わからないところがあっても気にしない。とにかくざっくりと読む。もともとよく知っていた言葉には○、見たことはあるが意味がよくわかっていなかった言葉には△、全然知らなかった言葉には×をつけていきましょう。関連語句や練習問題などは飛ばして構いません。「語句→意味→説明」という流れで前見出し語を1週間で読み切って下さい。

8~14日目 △の部分をもう一度読み直しましょう。用語集だけではわからない言葉があれば、辞書やインターネットの検索を活用するなどして意味の理解を深めましょう。それでもわからなければ、「質問」マークを付けておいて、学校再開後に国語の先生に質問に行きましょう。また、関連語句や練習問題には手を付ける必要はありません。

15~22日目 ×の部分をしっかり学習していきましょう。やり方は△の場合と同じです。

23~30日目 一冊全体を通して読みましょう。○の部分も再度ここで読み直します。練習問題や関連語句などもしっかりケアしつつ、一冊全体を高速で復習していきましょう。この段階でまだあやふやなものがあれば、特別なマークをつけて、学校再開後に国語の先生に質問に行って理解を深めるようにしてください。

31~60日目 △の週、×の週を交互に回します。やればやるほど復習は短く済みます。

当たり前のように書きましたが、2ヶ月で1冊仕上げることが大切です。ダラダラと夏まで・秋まで引き延ばしてやるのではまったく意味がありません。言葉の学習は「短いサイクルで何回も回す」が基本です。

あとは私が授業で配布している以下のプリントもしっかり読んでおきましょう。超重要なキーとなる言葉をざっくりと説明したプリントです。印刷して使用して下さい。

1-2 慣用句・ことわざ・故事成語の学習法

『偏差値レベル式 高3までに語彙をあと1000増やす本』(アーバン出版局)がとてもオススメです。「語彙不足は思考のブレーキ」という本書のコンセプトに私は強い共感を覚えています。語句を偏差値ランクで分けてあるので、基礎的な語彙だけを先に集中的に覚えたり、難度の高いものだけしっかり取り組んだりと、柔軟な使い方ができるようになっています。私調べですが、センター試験の言葉の意味の問題は過去10年出題分で的中率95%でした。辞書をこまめに引く、という学習も個人的には好きですしそれこそ学習の王道かと思いますが、語彙力が圧倒的に不足している受験生はまずはこの本で言葉の穴をしっかりと塞いでおくことをオススメします。

 使い方としては以下のような形(一日20分)がいいでしょう。

1~14日目 偏差値30~50の語句をとにかく「読む」。例文もセットで読みましょう。よく知っている語句には○、見たことはあるが意味まではわからない語句には△、生まれてはじめて見た語句には×をつけていきましょう。無理に覚えようとしなくていいですから、○△×をつけながらテンポ良くページをめくってゴールを目指しましょう。

15~30日目 1~14日目でチェックした、△と×の部分を徹底的に覚えていきましょう。意味のところを隠して、〈だいたいの意味〉が言えるようになるまで繰り返します。△や×が多い場合はここの学習期間を長めにとるなど適宜調整してください。

31~45日目 偏差値50~70の語句に取り組み始めます。同じように○・△・×を付けながらとにかく最後まで読み切ってください。このレベルの語句になるとさすがに知らないものの方が多いと思いますが、「語彙力めっちゃあげてやるんだ!」という意気込みで何とか最後までやり抜きましょう。

46~60日目 31~45日目でやった△の語句を覚えていきます。どうしても覚えにくいものは、①辞書を引いて他の例文に当たってみる、②自分で例文を作ってみる、ことをしてみましょう。ここまでやりきればもう頂上は見えてきますから、気合いで乗り切って下さい。

61~75日目 31~45日目でやった×の語句、と行きたいところですが、その前にいままでやってきたもののメンテナンスをしておきましょう。偏差値30~50の語句の△と×の語句、偏差値50~70の△の語句を総チェックしましょう。覚えていない語句があれば〈特別なマーク〉をつけておきましょう。

76~100日目 31~45日目でやった×の語句はあなたにとっては全く未知の語句ですから、しっかりと時間をかけて覚えていきましょう。他の例文を辞書で調べる、ネットで使用例を検索するなどするといいでしょう。あわせて、なかなか覚えられなかった〈特別なマーク〉の部分もしっかりと復習することも忘れないようにしましょう。

ボリュームの多い本ですので、しっかりスケジュールを立てて取り組むことが大切です。一人ではなかなか厳しいですから、友達と競争し、互いに取り組み状況を報告し合う、1週間続くごとに自分にご褒美のアイスクリーム、など長く継続できる工夫をする必要があります。

1-3 漢字の学習法
 学校で購入している(はずの)漢字問題集があるならば、それで問題ありません。ただし、漢字検定用の問題集は避けてください。入試現代文で必要とされる漢熟語と漢字検定で出題される漢熟語には大きな相違があるからです。また、漢字問題集では、漢字を組み合わせた形(漢熟語)の問題になっているので、その熟語の意味もあわせて覚えるようにして下さい。〈書き+読み+意味〉の3点をマスターすることを最終目標に据えましょう。

 以下に学習モデルを示しておきます。1日につき20分の学習時間を想定したモデルです。

1~7日目 ざっくり読みましょう。紙に書かなくていいです。絶対的な自信のある(読める、書ける、意味もわかる)ものには○、だいたい書けるけど自信のない(読めるけど書けない、読めて書けるけど意味を知らない)ものは△、全く知らないものには×をつけていきましょう。とにかく自分の漢字の力の現状を知ることが目標ですから、無理に覚えようとしなくてもいいです。

8~14日目 △を攻めていきましょう。△さえ攻略できれば問題集の6~7割、人によっては8割を身につけたことになります。そして、受験生があやふやに覚えている漢字は入試で狙われやすいので、ここを一生懸命頑張ることで漢字問題の得点も安定してきます。もちろん、ここでは「書いて」覚えましょう。「書く」といっても、小学生が漢字ドリルでやっているみたいに、同じ文字を何度も書くことはやってはいけません。そんなものは時間の無駄です。覚え方は次のような手順でやりましょう。

・まずは、覚えたい漢字をしっかり目に焼きつける。
・目を閉じてその漢字の形をイメージする。
・目を開けて何も見ずにそのイメージの形どおり書いてみる。
・正しく書けていたか確認する。
・書けていたらOK。書けていなければ最初に戻る。

これで無意味に紙とシャーペンの芯と時間を浪費せずに済みます。このトレーニングを何回か繰り返すと、漢字を覚えるスピードが速くなっていきます。ためしに以下の文字でやってみましょう。

多寡(たか) 漏洩(ろうえい) 挨拶(あいさつ)

 できましたか?「漢字は手が覚えている」というのは嘘です。みなさんの頭が覚えているのです。これを意識すると漢字学習の効率がグッと上がりますのでぜひ取り入れてみてくださいね。

 それと一つ重要なことを言い忘れましたが、漢字の熟語は訓読みに分解しておくことも大切です。

 訓読みに分解することで、
 ・意味を覚えやすく(忘れにくく)なる
 ・訓読みの書き取り問題にも対応できるようになる

 からです。

 たとえば、「彼はモーツァルトにシンスイしている」の「シンスイ」は「心酔」と書きますが、「心から酔いしれている」と訓読みに分解することで意味内容が明白になります。あるいは、「大雨で道路がシャダンされた」の「シャダン」は「遮断」と書きますが、「遮(さえぎ)って断つ」と分解しておくことで、意味も押さえやすくなりますし、「サエギ・る」という訓読みの漢字問題が出されたときにも応用がききます。

 訓読みは漢和辞典で調べることができますが、インターネットで「調べたい漢字 訓読み」と検索ボックスに入力すると簡単に訓読みが出てきます。漢和辞典を引けるようになることは(漢文学習などにも有効ですから)とても大切なことですが、ここでは皆さんの漢字学習を最後まで継続させることを重要視したいので、インターネットの検索で訓読みを調べる方法をとりたいと思います。

15~30日目 ここでは×のついた漢字をしっかりと時間をとって(多めの2週間を設定)学んでいきましょう。当然、「全然知らなかった」わけですから、学習負荷は高いはずです。2週間かけてじっくりと身につけていきましょう。学習の方針は△の場合と同様です。×の数が多い人は3~4週間の学習期間に微調整して無理のない範囲で学習していきましょう。

一通り、終えたら、月に1度、△と×の総復習をしていきましょう。正解できたものは次の復習から除外して構いません。回を追うごとに復習するべき問題が減っていきますから安心してくださいね。

2 まとめ
 今回は「読解以前」に必要とされる言葉の学習法について具体的に話をしてきました。少し面倒な部分なので誰もが後回し(もしくは放置)してしまいがちですが、現代文学習の基礎体力ともいうべきところなので、妥協せずに取り組んでください。言い忘れましたが、理系の受験生も必ず取り組みましょう。共通テストでしか国語を使わないから、という「逃げ」のセリフを私はいやというほど聞かされてきましたが、そのような言葉で逃げた彼・彼女らは例外なく国語で失敗し、はたまた日本語の語彙力不足からくる英語力の限界に直面していきました。

母語である日本語は、日本人(および日本で日本語を使用して生活する人)にとってはパソコンのOS(例:ウィンドウズ)のようなものです。そのOSが、中学レベルでストップしている受験生をこれまで私は多く見てきました。文系だろうが、理系だろうが、日本語の言葉の力(OS)を大学受験用にアップデートしておくこと、これは大学受験という入り口に立つ受験生にとっては欠かすことのできないことなのです。

 次回の記事では、現代文の「読解」についていくつか学習の指針を皆さんに示したいと思います。その時まではどうか言葉・漢字としっかり向きあってくださいね。


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