年金保険料の税効果
「エコノミスト」誌の10月15日号で公的年金の特集をされていました。
その中で、『誤解4年金は損する 若者でも払い損ではない』として、保険料の総額(①)と年金給付総額(②)(60歳時点での平均余命まで生存した場合)とを比較して、どの世代でも①よりも②の方が大きくなるので年金保険料は払い損ではない。という記事がありました。
例えば、2020年に25歳の人が厚生年金で加入し続けた場合に、保険料総額(①)は3400万円に対して、年金給付総額(②)は7900万円で、2.3倍もらえるので損ではないというような紹介です。
①<②となることは、年金給付は保険料のみを財源としているわけではなく税金からも財源を支出している(国庫負担)ことや、厚生年金では事情主負担もあること、雇用する側としては年金保険料の負担分も含めた人事コストから逆算して給与の水準を決める側面もあることから、当然と言えば当然のことです。
ところで、年金保険料の負担額は、課税所得から控除されるので、実質の負担額は限界税率による税効果を引いた後の金額になります。
たとえば、額面の年収が600万円の人が54万円の厚生年金保険料を負担した年に、所得税と住民税合計の限界税率が30%だったときには、54万円部分に対する税額16万2000円が減るということです。
「天引きされてもらえない保険料なのだからその分には税金がかからないのは当たり前ではないか?」とも考えられますが、それほど簡単なものでもありません。
さきほどの54万円を所得の金額から控除するのは、厚生年金という公的年金の社会保険料だからです。民間の個人年金保険の場合には、同じように将来の年金として支払いを受けるための保険料であっても、非常に限られた限度額しか所得からは控除できません(支払った保険料の100%が控除できるのは、2万円まで)。
また、挙げた例でいうと、払った厚生年金保険料についてはその30%の税額軽減効果がありますが、貰う年金受給額について、その30%は税金として引かれる。ということはありません。
所得代替率はおおむね6割ということですので、将来の年金受給額(額面)を600万円×60%=360万円で想定すると、年金以外の所得が無い場合は、おおむね10%程度の税率が想定されます。つまり保険料を払うことよって減少する税額よりももらう時に引かれる税額の方がかなり少なくなるということですね。
年金の損得を考える際には、生涯の収支において税効果がプラスに働き、高額所得者ほどその影響は大きい。とだけ覚えておいてもよいように思います。