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(1)実践知と熟達

皆さんは日常、知識を使って生活しているという感覚はあまりないかもしれません。あまりあれこれと頭を使わなくても毎日の時間はそれなりに流れていきます。
一方、知識がどうしても必要だと感じることがあると思います。 例えば何か仕事上で手ごわそうな課題に直面した時、また仕事の中で新しいアイディアや構想を練る時などは、もっと知識があった方がいい、もっと知恵を出さなければならないと感じられるのではないかと思います。また忘れがちですが、普通の仕事や生活をスムーズに心地よく進めてくれている、その基盤となるものにはいろいろな形で獲得した知識・知恵があると思います。 親から教わった事、学校で習った事、会社で勤務しながら先輩や上司、同僚と働きながら身につけてきた事などがあって、自分が特に意識しなくても社会生活は動いていきます。

「実践知」という言葉は耳慣れないかもしれませんが、自分の生活の中での知識、現実に役立つ知識を「実践知」としてここでは考えていきましょう。仕事における実践知の特徴として、

1)個人の実践経験によって獲得されるもの
2)仕事において目的志向であること
3)仕事の手順や手続きに関わること
4)実践面で役立つこと

の4つがあげられます。

ある分野において豊かな「実践知」を持っているということは、別の言い方をするとその分野に熟達し、その人ならではの価値を生み出していることです。
一つのことがすごく上手にできると聞くと、そうなるのには時間がかかる、あるいはその人の生まれつきの才能やそれを育てる周りの環境に影響される、と思われるかもしれません。音楽やスポーツなどでは生まれつきの資質が大きく関わります。その個人の資質は本人の努力と共に社会の中で育てられ、社会の中で試され磨かれていくことによって本物になっていきます。円熟の技という言葉がありますが、それにはその人が積み上げてきた経験の大きさ、深さ、それから人格さえをも感じさせるものがあると思います。

最近では様々な先端技術によって熟達に要する時間変化が見えてきていると思います。IT技術分野では、学生の頃から素晴らしい才能を発揮し、大変短い間に世界に通用するスキルを発揮する例が多々あります。資質として数学的センスやクリエイティビティなどは重要ですが、業界内の競争的環境が厳しい状況下、ICTの発達によって時間に関係なく、「表現する→共有する→それを使う→評価する」というサイクルが非常に早く回ることも大きな要因であると考えられます。 
またIT技術に限らず、先端の科学技術、特にデジタル技術によって早い学習が可能になり、高い熟達度を短い時間で身に付けるという事例が数多くの分野に見えてきています。今、話題になっているプロ棋士の藤井聡太さんも天賦の才能とAI将棋を活用することよって短い間に熟達者になった人です。もう一つは、分野も規模も違いますが、中進国、例えば中国、インドなどの技術開発は凄まじい成長を遂げ、優秀な人材が今まで想像できなかったスピードと規模で輩出されています。 

情報が流動化し様々な知見が容易に手に入るという時代の中で、多くの若い人たちが切磋琢磨できる環境があり、時代が必要とする実践知を獲得することが経済的豊かさ、社会的地位の向上、自己実現に結びついているということが非常に早いスピードの熟達を可能にした、といえるのではないでしょうか。

参考文献 実践知 金井壽宏、楠見孝 Robert Sternberg Successful Intelligence