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【小説】雄猫ぶーちょの生活 9 手紙

ぶーちょが手紙を書いている。一度も爪切りをさせてくれない、鋭いナイフのような爪で紙をひっかき、書いている。

「拝啓、目白やヒヨドリ、シジュウカラ、その他小鳥の皆様

春になってたった数回、あなた方をお見掛けしただけですが、最近はいかがお過ごしですか。
もうすぐ山桜桃梅(ゆすらうめ)の実がなります。
梅の実には数に限りがありますので、早く来ないとなくなります。
楽しい梅まつりの後は、私、福千代(ぶーちょの正式名)が歌を歌います。
ぜひ、一度お越しください。
福千代拝」

朝起きる。ぶーちょは目を輝かせて走って、居間のガラス戸に張り付き、誰か小鳥がやってこないか待っている。

残念なことに茶毒対策のため、小さな庭に数本ある山茶花の枝はさっぱり切り落とされ、小鳥の隠れる葉っぱはほとんどない。山茶花との勢力争いに力を使い果たし、細い幹でかろうじて立っている山桜桃梅も、まだ実をつけていない。

ある朝、真っ黒い大きな鳥が恋人を引き連れてやってきた。カラスだ。

「手紙を読んだぜ。ここはデートスポットによさそうだな」

カラスのカップルは毎日やってきて、求愛の歌を歌ったりダンスをしたり、忙しい。それをぶーちょは、眺めている。カラスでも鳥は鳥だ。ぶーちょは歯と歯をならすクラッタリングの歌は歌わないが、それでも毎日が楽しい。


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