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彼はトガリネズミ

私、たぶん親指ひめって言われている人だと思う。

みなさんが私を「親指ひめ」って呼ぶから、たぶんそうだと思う。

あなたの名前は親指ひめよって言われたことはないけどね。

ああ、私、トガリネズミと付き合っているの。

トガリネズミの食欲に圧倒されて、

すべてを食べることに捧げているその男気に色気を感じちゃって、

私から告白したの。

「食べることを邪魔しないから、

私と付き合ってくれないかしら?」

私の心臓はバクバクして、イチゴより赤い顔をしていたと思うの、

そのとき一番可愛いいと思ってもらえるように、

マスカラにはかなり力を入れてメイクして告ったの。

モジモジしながら、上目遣いに告白したんだけど、

トガリネズミは、私の方を見もしないで、大きなミミズを口いっぱいに頬張っていたわ。

うなづいた様に見えたんだけど、ミミズを飲み込んだだけだったのかもしれないと最近思ったわ。

私は、食べている時のトガリネズミが大好きだから、

食べている時しか見たことがないから、食べている時以外のトガリネズミが

一体全体どんな風に過ごしているか気にもならなかった。

デートはいつも食べるところだったな。

カマキリを食べるときはゾクゾクしちゃったわ。

カマキリのカマを恐れることなく口に運んで行く姿は本当に男らしくて、その口で私も食べちゃって欲しいなぁと思ったものだわ。

毎日逢いたいと思うのが恋人同士でしょ。

私も毎日トガリネズミに逢いたいと思ったので、逢いに行っていたの。

ミミズやカマキリ、こおろぎだって食べちゃうの。

勇ましくて素敵でしょ。

でもね、食べないでいられる時間があまりにも短すぎるの。

逢瀬というには短すぎる時間。

トガリネズミは30分も食べないでいられないの。

それじゃ何にも出来やしないわ。

私は、トガリネズミのその勇ましい食欲に惚れたの、惚れていたのよ。

自分よりも大きな獲物に果敢に向かっていき、頬張っているトガリネズミが大好き。大好きなの。

でも私のことも少しは気にかけて欲しいと思うのは当然でしょ。

いけないことではないわよね。

でも、でも、トガリネズミが私にさける時間は30分。

胸が張り裂けそうだったわ。


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いつもいつもトガリネズミのことばかり考えていたの。

トガリネズミは食べることばかり考えていたと思うけどね。

そして、トガリネズミは食べることが大好き、

私はトガリネズミが大好き、

だから、トガリネズミに食べてもらっちゃおうって気がついたの。

私はみんなから親指ひめって呼ばれているから、

トガリネズミが食べるには大きすぎないちょうどいい大きさ。

私、トガリネズミの前に座って、言ったの。

「私のこと食べていいよ」

トガリネズミはチラッと私を見たの、

そして、大きな口を開けて、私を頭から飲み込んだの。

最後に見たトガリネズミの目に涙が溢れていたのは、

私への愛か、口を思いの外大きく開けたので痛くて出た涙か、

わからないけど、涙が見えただけで満足しちゃった。

私は親指ひめって呼ばれていたんだけど、急にいなくなってしまったから

童話の人たちが探しているかもしれないね。

大好きなトガリネズミのお腹の中はぬくぬく幸せ。

叶わぬ恋の相手を選んでしまった親指ひめの最期ってこんな感じ。

がっかりしないで、私は結構幸せよ。

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