見出し画像

寂し色の旅

 子供の時分なら、遊び疲れた後の夕景を少し恨めしく思ったりしたかもしれない。いつだったか忘れたが・・・、それでもかなり若者だった頃には、誰にも何も言わず、西に傾く残光を追いかけるようにして、無人の駅のプラットホームに佇んだりした。幸か不幸かポケットにはその時お金がなくて、長い列車待ちの時間をやり過ごさなければならなかった。
 あの頃に関して言えば、有り余るほどに時間だけはあったから、オレンジや黄金に輝く夕映えの空が、刻々と漆黒の闇に包まれていくさまをずっと見つめていられたんだった。現在ではもう、そういうわけにはいかないのが寂しくもある。なんとも贅沢な時間の連なりだったろうか・・・。

 ・・・あぁそうだな、寂し色と呼べるような夜の刹那のグラデーションに偶然遭遇したりすると、独り旅を夢想できたりするんだ。それは、長い長い過去の思い出を辿ることもできるタイムマシンだ。今ある残光の先に見たこともない街が広がっていたり、そこでは風の吹く向きがかなり違っていたりするけれど、誰かが、自分と同じ空を眺めていたりすることを、今も漠然と感じることができる気がする。

――忘却の日、お金を探ってポケットから出した手は、僕の手でもあり、そして、多分?君の手でもあるだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?