ある日の女の子

 明治座千秋楽を観に行く。12年ほど前に、今回ギン役で2度目の舞台を踏んだ女の子が、原宿で小さなブランドを立ち上げた。それは自身でデザインした洋服とペット着をお揃いにしたユニークな店。同じ敷地内に同ブランドのカフェも併設していた。丁度私も、彼女と同年齢の女の子を絵描きとしてスカウトした。「人とペットのポートレートイラストレーション!」と題した絵仕事をその子を中心として回し始めた頃、俄然佐々木希さんが目に飛び込んできて暫くの間、彼女が脳裏から離れることはなかった。

 小さい頃から絵が好きで、デザイン学校まで行っておきながら、県展で入選したのを最後に、私が絵を描くのはパタリと途絶えていた。色鉛筆で重厚な絵を描く駆け出しの相棒に触発を受けて、僅かに12色の色鉛筆で描いたその店のコンセプトイメージを、いつの日かそのお店のスタッフさんに図々しくも預けていた。その1年後、同じ原宿のギャラリーでイベント展示会を開いたときにも来場していただいたが、その人がその絵をスキャンコピーして自宅に飾っていてくれていることを、そのお店が閉店した後で連絡してきてくれたことがあって、以来忘れた頃にメールのやり取りをしているのだが、久しぶりでその元スタッフさんからメールがあり、件の観劇を席違いでご一緒することになってしまった。

 あの頃、皆それぞれに若かったが、それぞれに忙しく、精一杯の野心を秘めていた。思い立ったらまずは行動と、なりふり構わず進んだ先の、今に繋がる、あの日の女の子たち。

 あれから12年の歳月が流れている。


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