#そしてわたしは恋に落ちる

彼を見たのは石切り場と土地の人がそう呼ぶ、街の外れの宮殿遺跡の修復現場だった。わたしは網目の粗い麦わら帽子を目深く被っていたから、視線の途切れた先にいたアレクサンドルを見逃していた。港で探し当てた手彫り木札の持ち主を知る彼のおとうさんは、半ばわたしにあきれながら彼の働き先を教えてくれた。
ーあいつは石切り場の奴隷さ、そうさ、あいつは石っころに恋をしちまったのさ。
夏の日差しの中で真っ白に輝く石灰岩質の石切り場には驚くほど大勢の人たちが働いていた。彼らは図面を拡げながらだったり、巻き尺を伸ばしたり、ノミと金槌で記された線を丹念に削っていたりしていた。
アレクサンドルはその中で一つの石板に鉛筆で下絵を取っていた。元々彼は器用なんだわーとわたしはその時思った。
#そしてわたしは一瞬で彼に恋をしていた
ナニスンの首に掛けられた木札の名前を彫った張本人にようやく出会えた瞬間に、わたしはこの旅の本当の目的を知ることになったのだった

https://www.youtube.com/watch?v=WvPZgk6XuLs

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