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【読書レビュー・十二国記】図南の翼

「私は子供で国の難しい政のことなんてなんも分かりゃしないわ。黄海に来て自分の身一つだって人の助けがなけりゃやっていけないのよ。なのに他人の命まで背負えるはずないじゃ無いの!どうせあたしなんてせいぜい勉強して学校に行って小役人になるのが関の山だわ。そんなの当たり前じゃない。あたしが本当に王の器ならこんなところまで来なくたって麒麟の方から迎えに来るわよ!」

「それがわかっていながらなぜ昇山するんだい?」

「義務だと思ったらよ!」「国民の全員が蓬山に行けば必ず王がいるはずなのよ。なのにそれはしないで、他人事の顔をして窓に格子をはめて格子の中から世を嘆いているのよ。ばかみたい!」

図南の翼は1996年に発行された長編です。王が崩じてから27年、王都にまで妖魔が出るほど荒れた十二国の一つ、「恭」の国の裕福な家庭の少女、珠晶が王になるべく十二国の中央に位置する黄海の中央、蓬山に昇る話です。

珠晶はこの長編が初登場ではありません。「風の万里 黎明の空」で芳から追放された祥瓊が送られた先が恭で、彼女に王宮の下働きを命じたのが恭王珠晶でした。その頃の珠晶は正しいことをあけすけに言い放ち、麒麟の見境のない慈悲さにすら正論をぶつけるキャラクターで、後のこの長編を意識してか知らずしてかわかりませんが短い出番ながらも非常に気になる印象を残しました。

冒頭のやり取りは珠晶が昇山する道中の終盤で遭遇したある人物に「なぜ昇山したのか、玉座がどういうものか分かっているのか」を聞かれた際の返答です。この一連の内容がこの作品で最もメッセージ性が強く、また一般化して置き換えやすい部分です。例えば16歳の環境活動家グレタ・トゥーンベリさんが彼女の発言内容と無関係な内容で批判されていますが、本来人々が目を向けるべきなのはグレタさんが電車や飛行機に乗って移動していることや中国資本がバックにいることではなく、環境問題とその原因であって、それを受けてすべきことは後ろ指を指すことではなく原因を糺すことです。

珠晶はこのように大きな問題の解決を「出来ないこと」と決めつけてただ文句だけを言って自分から行動することを避ける人たちに怒り、12歳の自分が昇山することで王の器であろう「誰か」が行動することを期待しているのです。もう20年以上前の小説ですが現代の問題とも関連づけられるのはもう何十年も似たような状況が繰り返される普遍的な問題だからでしょう。

お年賀

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