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【レビュー・十二国記シリーズ】丕緒の鳥 残三篇

丕緒の鳥は雑誌掲載作2本と書き下ろし2本の計4本からなる短編集です。

表題作の丕緒の鳥は以前レビューしましたので今回は残りの三篇についてお話ししたいと思います。

【落照の獄】

舞台は柳国。「風の万里 黎明の里」で楽俊が調査のために旅行客を装い入国し、祥瓊と出会った国です。現王の治世は120年ほど。安定した国のはずでしたが近年妖魔が湧き、犯罪が起き始め、楽俊も何か異変が起きつつあると評価しています。この短編の主人公、柳国の国府裁判官である瑛庚は狩獺と言う名の連続強盗殺人犯の論断(審理)を命じられます。柳国は王の勅命により殺刑(死刑)を廃止しているのですがあまりの非人道的な殺人とその犠牲者の数に柳の世論は殺刑やむなしと怒りが頂点まで高まっている中で、彼が司刺(弁護人)と典刑(検察官)と共に議論を重ねて出した判決とは・・・

かなり作者の意向が反映された作品です。重大犯罪者を前にして死刑の是非を議論という形で語るという内容ですが、死刑を要求する国民、理不尽に犯罪を重ねる殺人者、勅命に反する死刑にすら無関心な王、これら全てが国の荒廃を示しています。裁判で議論を重ねる3人は勅命を前提として、死刑を回避する理由を模索しますが最終的に狩獺に敗北します。作中では死刑は国家の治安を保ち、犯罪に対する抑止力と捉えられていますが、同時に国家に任命された執行人が合法的に殺人を行うという歪んだ制度である一面を持ちます。司法を司る瑛庚らにとって死刑の容認はやがて来るであろう柳国の荒廃の象徴として映り、非常に陰鬱とした終わりを迎えます。

【青条の蘭】

王の不在期間が長く、荒廃したとある北の国。山毛欅を枯れさせる奇病が広まり、いずれ山が枯れ果て近隣の村が土砂崩れに飲まれることを予測した国官の標仲と包荒らは何とか病気の治療法を見つけるも、治療の薬効を持つ植物を繁殖する方法が王による祈りしか無いと気づき、雪荒ぶ国を運んでいく…

こちらはすでに荒廃した国のお話、何の国かは終盤まで明かされないので伏せます。ラストはちょっと都合良すぎない?と思える展開ですが、標仲の背負う筺の中身も知らずに(見ても理解できない)「王まで届けば国が良くなる」と信じる民が筺をリレーしてついに王宮に至る流れは自分は好きです。

【風信】

慶国は予王の治世下、無茶苦茶な勅命により村を焼かれた少女蓮花は放浪した先で園林の下働きとして雇われる。その園林では暦が作られていたが、国官が蝉の抜け殻を集めたり空を見つめたりと本人たちも何をやっているのか曖昧な様子。偽王を挟んでやがて新王が立ち、変わりゆく慶国を別の視点から観察し、予測して暦を作る彼らの偉大さをやがて蓮花は知ることとなる。

暦製作職人の話。この世界では植物も動物も卵果から生じるため、国の荒廃(王の崩御)の影響が顕著に野生の動植物にも現れます。そんな小さな生き物たちから気候や出生率の傾向を把握し、次年度の動きを予測して暦を作成するのが保障氏の嘉慶やその部下の支僑らです。側から見れば遊んでいるかのように見える彼らの姿は蓮花には現実の惨状を直視せずただ安穏と暮らしている様子に見えてしまい、苛立ちます。しかし戦下では役に立たない彼らの仕事も民の生活にとっては必要な要素の一部。正式な新王(陽子)が立ち、動植物が例年より多く実り始めたことで支僑は平和な時代の訪れを確信します。

はあーーー現実もこれくらい簡単に国の荒廃と希望が推し図れれば良いのにね!

この三篇で描かれるのは天によるルール(太綱)とその影響をもろに受ける民の暮らしです。王や麒麟は太綱と同様、物語を運ぶ機能の一部としてしか描かれていません。ここまで書いてふと思ったのですが案外、柳国は祥瓊と楽俊を出会わせるための舞台装置として荒廃させられただけで王宮の裏事情は小野不由美先生まだ考えてないかもね…

Seeya!


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