見出し画像

幸せに導く牛 3

牧場の仕事が終わり、帰宅して入浴の後、自分の部屋でボーっとしていた。
明日は休みだー。やったー。気楽だ。

ポケットの折りたたみ式の携帯電話から聴きなれた着うたが流れた。

画面を見ると、飲み友達のアイツだ。明日休みだから遊びの誘いならいいな。

出ると、
「おつかれー。
今日、飲み会あるから行こうよ。車だしてよ」と。

「急だなー」と乗り気だけども、ちょっと渋ってみる。

「女の子も来るから。」というので、

「行くわ。明日休みだし。」と即答し、車で友人を拾い、居酒屋へと向かう。

初めてのその店に入ると
沢山の客でガヤガヤ賑わっている。

席には皆、先に着いていた。

地元の同級生友人たち、その友達の計7人でのちょっとした飲み会だ。

注文した、赤ワインのソーダ割りが大ジョッキで来て、その様子にテンションあがり乾杯。
ペースも早くなる。
日本酒も飲み、かなり酔った。

楽しい。

2時間くらいで飲み会を中締めし、3人いた女性陣が帰る。

友人が「じゃあ、俺らも帰るか。」ということで解散に。

 「みんな、二次会とか行かないの?」と聞く。

「この近くのキャバクラとか行って来なよ。後でどんな感じか教えてよ。」と友人。

「ノリ悪いわー。じゃ、1人で行くよ。」

別の友人の車に乗って運転代行で帰ってしまう。田舎なのでみんな車で来てる。

昔はこんな時、男だけになってもカラオケとかで盛り上がったのに。

明日は平日だから皆忙しいのだろうけど、俺は明日休みなんだよな。

なんか飲み足らないので、一人で飲もうかと近くをふらふら。

すると、一軒のスナックが目についた。

こういう店は常連さんしかいない感じで、一見さんには入りづらい、精神的に重いドア。


でも、新しい店だし、通り沿いだし、なんか入りやすい感じ。

ちょっと緊張しつつも、酔った勢いも手伝って入ってみた。

「いらっしゃーい」

カウンターで洗い物をしているここのママらしき人が微笑みかけてくれた。

ヒョウ柄の服を着ている。年はアラフォーだろうか。


「初めましてやね。アンタを待ってたで。」と関西弁で気持ちよく迎えてくれた。安心し、うれしくなった。

他に客はいない。ママさんの声とジャズ的なBGMが響く。


「ハイボールにしよかー。」とママ。

「はい。」ちょうど飲みたいと思ってた。


そして、ハイボールで乾杯。

すると微笑みながら突然、「あんた、牛の仕事とかしてへん?」とママ。


びっくりして、「もしかして、くさいですか?」と聞くと

「実はうち、牛の神様やから。」
「牛に関わってる人は分かんねん。」

面白いこと言う人だなぁ。

「口蹄疫、大変やったやろ。
遠く離れてる県だけど、牛肉とか牛乳への風評被害みたいな影響あるからな。」
「でも、あのタレントだった知事がきのう非常事態解除宣言したから、ひと安心やね。」

牛の伝染病である「口蹄疫」が遠くの県で発生してしまい、その殺処分の様子などここ数週間テレビで報じられていて、昨日、ようやく収束宣言が出たのだ。

「詳しいですね。」と言うと

「当たり前やがな。牛の神様やもん。」
「20万頭以上の牛の殺処分とか辛かったよな。お互いに。」

「本当ですよね。泣きそうですよ。」
「ところで、牛の神様って何ですか?」

そんな話から結構はずんだ。

気さくであり、興味深い人だ。
そんなおもしろい出会いがあった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?