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1230 優しき狂人~雪夜叉伝説殺人事件


1.はじめに

(あらすじ)
美雪の演劇部OBの紹介でドラマに出演することになった一と真壁。このドラマは北海道・背氷村に古くから伝わる”雪夜叉伝説”に基づく内容で、アイドルの速水玲香、元セクシータレントの加納りえ、警視庁警視のエリート明智健吾に、剣持警部も出演する。雪深い山荘のロケをする一行だったが、水道が凍結するアクシデントが送り、谷を隔てた別館への移動を余儀なくされる。そんな中、寝姿を取るシーンを嫌がり部屋に閉じこもったりえだけが本館に残ってしまった。一計を案じ、隠し撮りでりえのシーンを撮影することにし、別館からその様子をモニター越しに見守るスタッフだったが、突然、伝説の雪夜叉が現れ、彼らの目の前でりえは殺されてしまった!
(参照:DVD『金田一少年の事件簿』の表紙より)

皆さん、お久しぶりです!皆さん本当に忘れたんじゃなかろうかというくらい久々に金田一note復活です!
正直、時期を合わせるかどうするか考えて、「やっぱり季節感って大事だ」と思ってここで新作を公開することにしました。次は7月ですが、その間に剣持さん(古尾谷さん)の記事書こうと考えてます。
みなさんぜひ楽しんでいってね!(ゆっくりのノリで)

2.雪夜叉伝説殺人事件の感想

ドラマ全体の評価が高い中、私は個人的に今一つの印象でした。しかし、その中でも一番気になったのは「明智警視」の扱いでした。この点を後で触れる前に、まずは本作の魅力について詳しく見ていきましょう。

3.本作の魅力

1.中山エミリ演じる速水玲香が超かわいい

これなしに雪夜叉は語れません。素直に、中山エミリさんが「殺人なんて!」と疑われて傷つくシーンやはじめに話しかけるシーンなどかわいらしさ全開の演技をしてくださるのが速水玲香感あって好きです。正直、芸能界で10代のスーパーアイドルなので、素敵なものも嫌なものも見てそうですが、純真そうな姿を常に見せ続けるところがたまらなく好きです。(原作玲香はもうちょいがつがつ系で、なんなら腹黒も見せてます)
でも、この純真玲香なのは、美雪のキャラクターが原作と異なるほか、芸能界で生きてきたからではないでしょうか。
まず、原作美雪は滅多なことでは怒らない代わりに、自分からぐいぐいいくタイプではありません。だから、37歳でも待ち続けているキャラになったとも言えます。でも、ドラマ美雪はすごく気が強く、よく怒ります。たとえば、この雪夜叉では玲香の声を聴いただけで「金田一……はじめ……!」と、怒髪天を衝く勢いで、彼のために編んでいたセーターをばらばらにしています。つまり、自分の感情を表に出すことを恥ずかしいと感じない勇敢で大胆な人物なのです。
それに対して、玲香はどうでしょう?彼女は小学生になる前から芸能界で生きてきて、素直に感情を出せば周りにどう狙われるかもわかりません。そんな生活の中で、彼女は本音を出すことを抑えてしまう癖がついてしまったのではないでしょうか。抱え込むだけ抱え込んで、そしてどうにもならなくなったところで飛び出してしまう。つまり、恋とも愛とも言えない感情を、はじめの前に出す度胸など持てなかったのでしょう。
その結果、「引かない、感情を見せる、勇敢な」美雪と「引く、感情を見せない、慎重な」玲香という正反対のヒロインが生まれたのでしょう。

2.明智警視を有能に描いていること

まず、前提として明智警視は本作で言うところの「金田一一のライバル」の役割なので、彼がはじめに並ぶ有能だというところを見せる必要があります。この作品では、りえさんの殺害シーンでそれを見事に描写することができているのです。詳しく説明していきます。
私が思うにですが、警察官は「推理能力」(誰が犯人か仮説を立てて、そこから立証していく能力)と「指揮能力」(緊急時に誰よりも冷静な判断を下せる能力)のどちらも求められる難しい仕事だと思うのです。つまり、有能な警察官を演じようと思えば、「捜査能力が高く痕跡を見逃さない」推理力の高い警察官(『遺留捜査』の糸川聡、『警部補古畑任三郎』の古畑任三郎)か、「警察官を動かして即座に冷静な判断を下す」指揮能力の高い警察官(『ルパン三世』の銭形幸一、『バトルフィーバーJ』の倉間鉄山(これだけジャンル違い))が当てはまるのです。
では、明智警視はどちらだったか?当然後者です。「今すぐ引き返せ」と綾辻真理に誰よりも早く指示を出すなど、周りが慌てている中誰よりも早い判断を下せているのが彼だけなのです。ここから彼の有能さをうかがうことができます。どうしても、彼のキャラ設定上嫌味なところも必ずついて回りますが。

3.90分で5つの謎を1つの結論に集約する豪華な脚本

はじめと玲香が雪山で死にかけるなど、危ない場面も多いのが本作でも見られるため、そもそも見逃せない場面が多いのが本作の魅力です。詳しく話していきます。
1.なぜ加納りえは殺されたのか?
(解説)
横溝ミステリーだと最初の会話や伝説がそのまま動機になることが多いので、そこから考えてもらえるとおおよその推測はすぐにたつと思います。
原作者や脚本がどれほど横溝ミステリーをリスペクトしているのが伝わりますね。

2.加納りえを殺した雪夜叉は何者か?
(解説)
誰かはあえて伏せておきますが、理由が理解できた時点で最初の動機の聴取パートから犯人が読み取れるようになっているのです。

3.鬼火はなぜ発生したのか?
(解説)
今度はトリックの方の謎ですね。「飼い葉」が「焦げていた」からですが、なぜそんなところで飼い葉を焼いたのか?その理由が分からないとトリックは理解できないようになっているのです。

4.鬼夜叉はどのような方法で加納りえが眠る部屋にたどり着いたのか?
(解説)
3とつながっています。たどり着くのはほぼ無理ですが、明智警視の「縄梯子を橋の代わりにした」という推理がギリギリヒントだったと言えるでしょう。ここから読み取るに、動機を読み取りやすくする分、トリックを解く難易度を上げることで、「こりゃたまげた!」と言わせるのが本作の流れみたいですね。

5.氷室一聖はなぜ脅迫されていたのか?
(解説)
実は動機に繋がっていますが、彼が別人だからでしたね。顔を隠している人物が実は別人だった、なんてよくある話なので、ここはさほど難しくない謎であるように感じました。でも、ミスリード要員としては十分な人物なので、彼のことを犯人と疑った人も少なくないのではないでしょうか。

これら以外にも出そうと思えば出てきそうですが、これらの謎を1本の線でつなぐ構造になっているのです。ですので、スペシャルの90分でも十分飽きがこないつくりになっているのが本作最大の魅力です。
ここは正直、原作から持ってきた魅力なので、原作者の金成さんへのリスペクトを欠かせないパートでもあります。

4.レギュラーメンバーの扱いがいい

実は、新キャラ「明智警視」の登場だけでなく、ほかのメンバーも新しい一面を発掘できるのがドラマならではの魅力ですね。
まず、今回良かったと感じるのは真壁の扱いです。これまでの彼は一緒に覗きをするなど共犯チックな面も見られる少年だったのですが、本作からは「優しめのツッコミ役」の役割も担うようになっています。今まではじめの暴走行為は美雪があきれ返った反応を見せることで「ああ、こいつ非常識なんだな」と笑いを取っていたのに、今回からは真壁がツッコミを入れることで漫才のような笑いの誘い方をするスタイルに変わっているのです。速水玲香を浴室の隠しカメラからのぞくシーン(おい、こら、主人公ww)の会話からそれがうかがえます。
そして、もう一人は美雪なのです。もとからそういう要素はありましたが、本作からは遠隔地でもサポートする「はじめの相棒」としての役割を担うようになったと感じたのがここからでした。当然、10年前の事故のことや氷室一聖のことを調べてくれたことですね。これがなければはじめの謎解きは絶対に完成しなかったと言えるので、ただのヒロインから本物の相棒に昇進したという安心感がありました。彼女なしに推理の天才・金田一一はいない、という今回の構図は気に入っているのです。

4.本作の低評価ポイント

しかし、一部で批判されている点も見逃せません。特に「明智警視」の出し方については問題があると感じました。
明智警視が玲香ちゃんに濡れ衣を着せた後、笑いながらはじめを挑発する演出は、彼を滅ぼす悪役に仕立ててしまい、疑問や不快感を抱かせる結果となりました。また、彼が故意に他人に濡れ衣を着せる行動は、社会問題になっている現代において疑問視される要素となります。

5.おわりに

原作、ドラマ、アニメともに異なる明智警視の描写があり、ファンにとっては見どころ満載の作品です。
しかし、その内容はミスリードが多く、ミステリー独特の驚きが味わえる素晴らしいものとなっています。役者たちの熱演も相まって、ぜひ一度は観ていただきたい一作です。

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