夫は世界で二番目に幸せな人(#キナリ杯

コロナで外出自粛宣言が出ている間、うちの夫は世界で二番目に幸せな時間を過ごしました。

仕事に出かけないので、朝は(といっても限りなく昼に近いのですが)ゆっくり起きる。私が作ってる朝ごはんの、まな板に包丁が当たる音を聞きながら二度寝三度寝をして、『ご飯ですよー』の声で、のそーっと起きる。
のそーっとしたまま朝ごはんを食べ、食べ終わったそのままの姿勢からずり落ちた状態で、テレビを小一時間ぼへーっと見てたかと思うと『寝る』と言い残してお昼寝。起こすまで寝てる。いつまでも寝てる。でも、あんまり寝てばっかりだと足腰が弱っちゃうから、二時間ばかり寝たのを見計らって散歩に連れ出す。『めんどくさい』とか『暑い』とか文句言いながら、一時間ばかり公園なんぞを一周して帰ると二度目のお昼寝。くたびれてるようなら足のマッサージをしてあげる。寝たのを見計らって夕飯の準備。夫は齢70歳を過ぎた今でもお肉大好き。お肉がないと食卓から急速に興味を失うのでお肉はマスト。これは自慢を含むのですが、料理好きな私は栄養バランスに配慮しつつ毎日5,6品作る。更に自慢を含むのですが、実は調理師なもんで和洋中なんでも作れる。更にパティシエでもあるので和菓子を含めデザートも作れる。例えばメインが鶏の照り焼きで純米酒と併せた日は、季節に合わせて梅の甘露煮とか芋きんつばを、トマトソースのパスタの日ならティラミスやピスタチオのソルベなんかを作っておく。オマケにソムリエでもあるのでワインもバッチリ選定できるし、芋麦米の焼酎は勿論、泡盛や日本酒も常に上質の物を用意している。なんと口福な日々なのでしょう。
夕飯の準備ができて、夫を『ごはーんっ』って起こすと、シッコしてから食卓に着く。夫はテレビに視線を置いたまま、私に向かってなんの疑いもなく空のグラスを突き出す『ビールをつげ』と。
黙ったまま、のそーっと食べ、食べ終わるとそのまま座布団からずり落ちた状態でテレビを見る。私が家事の合間に、夫が好きそうだからと録画予約しといた番組も、一言の『ありがとう』もなく見る。ぼへーっと見る。
私が食べたくてお煎餅なんかを買っておくといつの間にか夫に全部食べられてしまう。仕方なくまた買おうとすると夫は『買うな!』と言います。『買ったら俺が食っちまうじゃないか!』と。『あると食べたくなる。無ければ食べないで済む。』自分が食べたいのを我慢するのは嫌なのだそうです。
夜が更け布団に入る頃、もう一度マッサージをしてあげる。速攻ですやすやとご就寝。二回も昼寝してるのに寝付きがとてもいい。なんでだろう?

毎日こーんなに、一日中大事にしてもらってんのに、まーだ文句垂れる。
『(夕飯の支度で皿の音が)うるさい、わしが寝てるのに』とノタマウ。『一日に二回も昼寝してんのに、いつ夕飯作るんじゃっ!』って言ったら、さすがに黙った。
まー、つまり今日も元気だって事なんでコトホグ事にしよう。ふーっ。
結婚する前を含め、謝られた事は一度もないし、ありがとうと言われた事すらない。王様ですね。もしかしたら王様以上かも。
『こんなに幸せな人はどこを探しても他にいないよね?幸せでしょ?』って訊くと、『けっ』って言います。否定はしないので、幸せなんだと思います、たぶん。

非常事態宣言で外出するな!と世間が大騒ぎしている間、うちの夫は、このように誠に幸せなお家時間を過ごしましたとさ。

それで、世界で一番幸せな人は誰なのかって?

んー、まー、あたし、かな?

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