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about 『act ii COWBOY CARTER』

<お断り>
・十分注意したつもりですが、誤字脱字があるかもしれません。
・そもそも誤った情報や偏った見方が含まれているかもしれないので、あくまで「ふーん」止まりでお願いします。
・訂正箇所や疑問点、追加情報などありましたら、積極的にお知らせいただけると幸いです。


世界最強のアーティストであるビヨンセのソロキャリア8枚目となるスタジオアルバムで、前作『act i RENAISSANCE』に続く3部作のうちの第2幕である『act ii COWBOY CARTER』。
2月に行われたスーパーボウルでのアナウンスに始まり、リリース当日には電撃来日&緊急サイン会と話題が尽きない今作。
「ビヨンセ×カントリー」の歴史と最新作のリリースまでの道のりを時系列で振り返る。

ビヨンセ × カントリー

★ 1981.09.04 誕生

テキサス州の位置と州旗

ビヨンセはテキサス州(※1)最大の都市ヒューストンに生まれ、15歳でデスティニーズ・チャイルドとしてメジャーデビューするまでの間を過ごした。

そんなテキサスは今でこそサンベルトの中心地であるが、合衆国の中間地点でメキシコとの国境という地理的な状況や気候などが合わさることで牛を中心とした牧畜の歴史が長い。
そのためカウボーイや西部文化と結びつけられることが多い州であり、実際にカントリーミュージックやスポーツ競技としてのロデオ(※2)が人気を博している。
ヒューストンにある「ヒューストン・ライブストックショー・アンド・ロデオ(通称HLSR)」は世界最大級のロデオ競技場の一つであり、ビヨンセも毎年家族揃ってウェスタンな格好に身を包んで通っていた。

※1
アメリカと併合する前は「テキサス共和国」として独立していたテキサス州は、その愛州心の高さでもよく知られている。
共和国時代から使用され、そのまま現在の州旗となっている白い一つ星が特徴の旗から「Lone Star State(一つ星の州)」と呼ばれることも多い。
今作の楽曲名やグッズなどに使用されている「★」もテキサス愛が表現されたものだとも考えられる。
また、テキサス州はアラスカに次ぐアメリカ合衆国2番目の広さを誇り、人口も第2位である。そんな多様な気候帯が交差する広大な土地に加え、広い空、大きな建物に車、一人前の量の多さなど、まさに「Everything bigger in Texas / テキサスでは全てがビッグサイズ」(最新アルバム収録曲『DESERT EAGLE』より)。

※2
もともとは野生の牛を駆り集めていたカウボーイたちが腕自慢・度胸試しとして牛に乗り合う遊びであったが、20世紀以降ルールが整備され、戦後から現代にかけてはプロスポーツとして組織化されていった。
現代におけるロデオの試合は、家畜のオークションやバーベキュー、カントリーミュージシャンを中心としたアーティストによるコンサートなどと共に複合的なイベントとして楽しまれている。
最新作リリース後のインタビュー内でもロデオ会場こそが「カントリーの文化・音楽を愛する人々の多様さと同朋意識を初めて目の当たりにした」場所だったとビヨンセは語っている。


★ 2001/2002/2004/2007 HLSR

2004年の乗馬姿で入場するビヨンセ

ビヨンセはそのヒューストンのロデオ会場に観客として足を運ぶだけでなく、パフォーマーとして4回ステージに立っている。
2001年(※3)と2002年にはデスティニーズ・チャイルドのメンバーの一員として、そして2004年のソロパフォーマンス時は馬に乗って登場し、2007年には2枚目のソロスタジオアルバム『B’Day』に伴うワールドツアー「The Beyoncé Experience」がスタートする前の“お試し”コンサートとしてHLSRでパフォーマンスを行なっている。

※3
この年のパフォーマンスでは、デスティニーズ・チャイルドの代表曲である『Say My Name』の歌詞を変えて「Say Rodeo」と繰り返すシュールなビヨンセが見られる。


★ 2007.11.18 第35回 AMAs

パフォーマンス後のシュガーランドの2人とビヨンセ

2007年のアメリカン・ミュージック・アワード(※4)では、カントリーグループであるシュガーランド(Sugarland)のステージにサプライズ出演し、カントリー風にアレンジした「Irreplacable」(※5)のパフォーマンスを行なった。

※4
同じ日に、マイケル・ジャクソンやレッド・ツェッペリンらが歴代受賞者に名前を連ねる「International Artist Award of Excellence」(国境を越えた人気と影響力をもつアーティストに贈られ、常設でない特別賞のためこれまでに7人の受賞者しかいない)を女性アーティストとして初めて受賞するという快挙も成し遂げている。

※5
ソロキャリア2枚目のスタジオアルバム『B’Day』収録曲であり、アルバムから3枚目のシングルとしてリリースされた大ヒット曲。
作詞作曲を手がけた一人であるニーヨ(Ne-Yo)は、もともとカントリースタイルの楽曲として制作していた。


★ 2016.04.23 Lemonade

『Lemonade』カバーアート

2016年にリリースされたアルバム『Lemonade』では、ビヨンセが初めて大きくカントリーに取り組んだ楽曲である『Daddy Lessons』が収録され、MV内でも乗馬姿のビヨンセが見られた。
この楽曲は一部の批評家から「カントリーソングではない」と評価されたが、ザ・チックス(The Chicks)(※6)がツアーのセットリストにこの楽曲のカバーを追加したり、他のカントリーミュージシャンからも擁護の声が上がっていた。

しかし、同年度のグラミー賞において、ポップ(『Hold Up』)、ロック(『Don’t Hurt Yourself feat. Jack White』)、ラップ(『Freedom feat. Kendrick Lamar』)と複数部門でのノミネートを受けながらも、『Daddy Lessons』はカントリー部門にふさわしくないとされ、ノミネートは叶わなかった。

※6
1989年にテキサス州の都市ダラスで結成された女性3人によるカントリーバンド。カントリーの分野に限らず、音楽界において史上最も成功した女性グループと言われている。
(ちなみにデスティニーズ・チャイルドはR&BグループのTLCとロックバンドのハート(Heart)に続いて第4位)
2003年の公演中に、当時の大統領G・W・ブッシュ(子)のイラクへの侵攻姿勢を非難したことが大騒動となり、世界中のラジオ局で楽曲の放送が禁止され、またCDを破壊するイベントが開催されたり、数々の脅迫を受けることになってしまう。
しかし2007年のグラミー賞では、カントリー部門での受賞に加えて、新人賞を除く主要3部門を総ナメにし、カムバックを果たす。
2020年まではディクシー・チックス(Dixie Chicks)として活動していたが、「ディクシー」という言葉が南北戦争時の南部や奴隷制と結びついてしまう単語であることから現在の活動名である「The Chicks」へと改名した。


★ 2016.11.02 第50回 CMAs

スペシャルバージョンの『Daddy Lessons』をパフォーマンスする4人

50回の節目を迎えた2016年のカントリー・ミュージック・アソシエーション・アワードでは、ザ・チックスの3人と共にステージに立ち、『Long Time Gone』(※7)をマッシュアップした特別バージョンの『Daddy Lessons』(※8)を披露した。

カントリーのイメージがあまりなかったビヨンセがCMAsの舞台で歌うということに加えて、2003年の騒動以来CMAsに出席していなかったザ・チックスとのコラボであったことも合わさって、二つの意味で衝撃的なパフォーマンスとして大きく注目された。
黒人であるビヨンセへの人種的な差別、ビヨンセを「反警察」、ザ・チックスを「反アメリカ」とみなす政治思想に基づく攻撃、「ビヨンセ=ポップ・R&Bの人」はこのジャンルにはいらないというカントリー界の排他的な姿勢などさまざまな問題を浮き彫りにする出来事となった。(※9

※7
もともとはカントリーアーティストのダレル・スコット(Darrell Scott)の楽曲で、2002年にザ・チックスがアルバム『Home』の先行シングルとしてこの楽曲のカバーをリリースしたことでよく知られる。

※8
このパフォーマンスのスタジオバージョンは、CMAsの放送前にビヨンセの公式サイトにて無料公開され、同年の11月20日に各ストリーミングサービスで配信が開始された。

※9
最新アルバム『COWBOY CARTER』の先行シングルの一つ『TEXAS HOLD ‘EM』に、バンジョーとヴィオラの演奏で参加しているリアノン・ギデンズ(Rhiannon Giddens)もこの2016年のCMAsの会場でパフォーマンスを行なった黒人の一人であった。


★ 2021.08.06 IVY PARK Rodeo

ビヨンセが手がけるファッションブランド「IVY PARK」の「adidas」とのコラボコレクション第4弾として2021年に発表された「IVY PARK Rodeo」。
ウェスタンウェア/カウボーイ・カウガールのスタイルからインスピレーションを受けながらも新たなアメリカーナスタイルを提示するこのコレクションは、「黒人カウボーイの見逃されてきた歴史」に光を当てるものだと説明されている(※10)。
2019年ごろから『COWBOY CARTER』の制作が始まっていたことを考えると、最新アルバムと同じコンセプト・メッセージをファッションという手段で表現したコレクションだとも考えられる。
キャンペーン動画(※11)では最新アルバムに先駆けてウェスタンな装いのビヨンセが見られる。

※10
アメリカのファッション誌「Harper's BAZAAR」でのインタビューより。
同インタビューで、このコレクションの発想源は、自身のヒューストン・ロデオでの体験や、苛烈な差別を受け、気性が荒く扱いづらい馬を押しつけられるような立場にあった黒人カウボーイたちの歴史・文化、そして彼らの文化をないがしろにしてきたアメリカの歴史にあることを語っている。
アメリカ合衆国のアーティストであるリル・ナズ・X(Lil Nas X)は、2018年にカントリーとラップを融合させた楽曲『Old Town Road』をリリースしており、そのMVでもカウボーイ文化が大きく取り上げられている。
またビヨンセの妹ソランジュ(Solange)が2019年にリリースしたヴィジュアルアルバム『When I Get Home』では全編にわたってカウボーイやロデオ文化へのオマージュが見られたり、夫ジェイ・Zがプロデュースとサウンドトラックを担当した2021年の映画『The Harder They Fall』は実在した黒人カウボーイを描いたものだったりと、近年他の黒人アーティストも同種のテーマを扱っている。
このように歴史に埋もれた「ブラックカウボーイ」という存在を掘り起こす作品や運動は、カウボーイが発する間投詞「yeehaw」から「the Yeehaw Agenda」と呼ばれ、ビヨンセの『Daddy Lessons』はその先駆的作品として考えられている。

※11
スウェーデン人アーティストのスノー・アレグラ(Snoh Aalegra)、ヒューストン出身のアーティスト/俳優であるトベ・ンウィーグェ(Tobe Nwigwe)、ビヨンセの作品に多数出演している女優のジャスティン・ヘロン(Justine (Herron)に加えて、実際の黒人カウボーイでもあるエミー賞俳優グリン・ターマン(Glynn Turman)が孫娘と共に出演している。
また楽曲としては、『Shakti(New Position)』(Ase Manual) と『Just Like Mama Said』(Luther “Guitar Junior” Johnson)の2曲が使用されていた。


★ 2022.07.29 act i   RENAISSANCE

『RENAISSANCE』通常版カバーアート

ビヨンセのソロスタジオアルバムとしては『Lemonade』以来6年ぶりという待望の作品として2022年にリリースされた『RENAISSANCE』(※12)。
そのブックレットの1ページ目で「この3幕構成のプロジェクトはパンデミックの3年間に収録された」と、この作品がこれまでのような1枚のアルバムで完結する作品ではなく、3枚にわたって一貫したコンセプトで制作された壮大な連作の始まりであることが明かされた。

※12
ビヨンセ7枚目のソロスタジオアルバム『RENAISSANCE』は、ボールルーム/クラブ文化を取り入れ、ジョニー“叔父さん”をはじめとするクィアコミュニティの人々へのオマージュが込められた作品。
その解放的なダンスミュージックは翌年に開催された「RENAISSANCE WORLD TOUR」やその様子を収めたコンサートフィルム『RENAISSANCE: A FILM BY BEYONCÉ』の公開も合わせて、パンデミックで沈んだ世界中の人々の内に活力や喜びを蘇らせ、まさに世界の「再生」を象徴する作品となった。



『COWBOY CARTER』 リリースまで

★ 2024.02.11 第58回スーパーボウル

開催日の数日前から、明らかにビヨンセをほのめかすような演出とスーパーボウルの開催日を示した映像広告2本(※13)が「Verizon」(※14)から公開され、2024年のスーパーボウル内でビヨンセが出演するVerizonのCMが放送されることが予告された。

当日放送されたCMは、「君でさえもVerizonの回線は落とせない」という言葉に躍起になったビヨンセが、さまざまな話題づくりを行って回線のダウンを目論むという内容。
結局何をしてもVerizonの回線は良好なままで、その強度が確かめられたことで「新しい曲をリリースしましょう」とビヨンセが宣言するところで映像は終了する。(※15

そのCMの放送後、公式サイト等で新アルバムのティーザー映像(※16)が公開され、リリース日が「3月29日」であることが発表される。
さらにCMでの宣言通り、先行シングルとして『TEXAS HOLDʻEM』と『16 CARRIAGES』の2曲の配信が各ストリーミングサービスで開始された。

※13
スーパーボウル当日に放送された本CMも含めて、2度のエミー賞受賞歴をもつアメリカの俳優トニー・ヘイル(Tony Hale)が出演している。

※14
アメリカ合衆国ニューヨークに本社を置く大手電気通信会社/携帯キャリアで、NFLのパートナーとして大勢の人が集まり、試合やパフォーマンスの様子を共有しようとするスーパーボウルにおいては、各開催スタジアム内外の5G通信網を整備している。
2004年には、ビヨンセ/アリシア・キーズ(Alicia Keys)/ミッシー・エリオット(Missy Elliott)の3人がヘッドライナーをつとめる形で、Verizonが企画したツアー「Verizon Ladies First Tour」を行なっている。

※15
昨年の「RENAISSANCE WORLD TOUR」のオマージュに始まり、サックス奏者やゲームストリーマー、AIロボットにバービーなどなど、昨今話題となっているものも取り入れた異なる10人のビヨンセが登場する。
たったの90秒間で前提としてのVerizon回線の広告はもちろん、ビヨンセの魅力も十二分に表現され、さらに新アルバムの告知まで兼ねるという映像としてもコンセプトとしても秀逸なCMであった。

※16
全体的に、1984年に公開し、同年のカンヌ国際映画祭で最高賞=パルム・ドールを受賞した作品『パリス、テキサス(Paris, Texas)』をオマージュした映像となっている。
冒頭に写るナンバープレートは、テキサス州で「サンアントニオ国際博覧会」というイベントが開催された年である1968年のもので、そのナンバー部分がリードシングルのタイトルに合わせて「HOLD ‘EM」なっている。
突如現れたのか物珍しそうにセクシーな巨大広告を見上げるおじさんたちの横をビヨンセだと思われる女性が運転するタクシーが走り抜けていくところで映像は終わる。
新アルバムに収録されている『SMOKE HOUR ★ WILLIE NELSON』と同様のものがタクシーのカーラジオから流れ、たくさんの送電線(AMラジオの放送には相当の電力が必要)や「ラジオ・テキサス」局の看板など、ラジオに関連するものが多く写されている。
看板内の「10万ワット」という電力の大きさは、「ボーダー・ブラスター」と呼ばれる他国に向けての非公式のAMラジオを参照していると考えられ、メキシコがアメリカ=テキサス州との国境沿いに立てていたものがそのひとつであることが知られている。
ここではただのラジオ放送ではなく「癒しの力(HEALING POWER)」を送信していると書かれている。


★ 2024.03.12 タイトル発表

タイトル発表時に公開された写真

スーパーボウルの日以降ほとんど何の情報も出されなかったが、ちょうど1ヶ月が経ったタイミングで「act ii」としか知らされていなかった最新アルバムのタイトルが「COWBOY CARTER」(※17)であることが、後に公開されるカバーアートにも見られる馬のサドルとたすきだけを写した写真で発表された。

また、公式サイトでアメリカ合衆国とカナダ限定で限定版のCDとレコード盤、ボックスセットの予約販売が開始した。

※17
アルバムのリリース日が発表されてすぐは「ルネサンス パート2」のような呼ばれ方をしていた。
今回のアルバムタイトルは、無理やり日本語で意味を取れば「カーターという名のカウボーイ」のようになると思われる。
あえて同種の女性労働者を指すカウガールという呼び方を採用せず「カウボーイ」を使ったのは、誰にとってもわかりやすい形でカントリー文化を表現するためというだけではなく、もともとカウボーイという言葉は白人が黒人奴隷を卑下して呼んでいた「ボーイ(boy)」の名残であるということや、奴隷として家畜の世話にあてられていた黒人たちが南北戦争後も選択肢がなくカウボーイという職につくしかなかったという歴史をふまえてのものだと考えられる。
さらに、あえて「カーター」というジェイ・Zとの婚姻以後の苗字を使っていることに関しては、カントリーミュージック初期の1930年代に活躍した「カーター・ファミリー(The Carter Family)」も考慮していると考えられる。カーター・ファミリーは白人の一家であるが、その成功や後世への絶大な影響力の裏には、レスリー・リドル(Lesley Riddle)という名の黒人男性ミュージシャンの多大な貢献があることも知られている。


★ 2024.03.19 通常版カバーアート発表

『COWBOY CARTER』通常版カバーアート

リリース10日前の段階でカバーアートの全貌(※18)とビヨンセからのメッセージが公開された。

〈以下メッセージ全文〉
今日で「act ii」のリリースまで残り10日です。
『TEXAS HOLDʻEM』と『16 CARRIAGES』を
支持して聴いてくれている人たちに心から感謝しています。
ビルボードのカントリーソングチャートで第1位を獲得できた
初めての黒人女性となれたことを光栄に思います。
これは皆さん一人一人の温かい応援がなければ達成できなかったことです。
私の願いは、数年後の未来においては、
どんなジャンルの音楽をリリースする時でも、
そのアーティストの人種が問題とされることが無くなることです。(※19

このアルバムの制作には、5年もの歳月をかけてきました。
何年も前の、歓迎されているようには思えなかった、
いいえ、明らかに歓迎されなかった経験(※20)から
このアルバムは生まれています。
しかし、その経験のおかげで私は
カントリーミュージックの歴史をより深く知り、
私たちの豊かな音楽の歴史を学ぶことができました。
音楽が世界中のたくさんの人々を繋ぎ、
また同時に音楽の歴史を教えることにその人生を捧げてきた人々の声を
大きくしてきたことは、とても嬉しいことです。

このジャンルに初めて取り組んだ時に受けた非難によって、
私は自分に課されたこの制約を乗り越えることを決意しました。
「act ii」は私自身との闘いの成果であり、
このアルバムを生み出すために時間をかけて
さまざまなジャンルを問い直し、融合させた成果です。

アルバムにはいくつかのサプライズ(※21)を仕掛けてありますし、
私が深く尊敬する素晴らしいアーティストとのコラボもあります。
皆さんが私の心と魂を、
そして私が一つ一つの細部や一つ一つの音に注いだ愛と情熱のすべてを
聴いてくれることを願っています。

私はこのアルバムを『RENAISSANCE』の続きであることを
意識してきました。
この音楽が、あなたが目を閉じると同時に
まっさらなゼロからのスタートを切り、
決して止まることのない新たな旅のような経験になることを
願っています(※22)。

これはただのカントリーアルバムではありません。
これは“ビヨンセ”アルバム(※23)です。
これこそが『act ii COWBOY CARTER』なのです。
皆さんとこのアルバムを分かち合えることが嬉しくてたまりません!


※18
一つ前の『RENAISSANCE』同様に馬に乗った姿のビヨンセであるが、前作とは異なり馬は実際に生きている馬であり、それをまたぐのではなくスカートなどを着用した女性がするような乗り方をしている。
ちなみに、前作のジャケット等に登場したミラーボールが意識されたシルバーの馬は、アルバムタイトルと同じ「生まれ変わる」という意味をもったラテン語由来の女の子の名前「Reneigh」に馬のいななきを表す英語「neigh」をかけて「ルネイ(Reneigh)」と呼ばれ、今回の馬は、白ワイン用品種のブドウとして知られる「シャルドネ(Chardonnay)」+「neigh」で「シャルドネイ(Chardoneigh)」と呼ばれる。
星条旗やテキサス州旗に使用される3色赤・青・白のカウボーイスーツに身を包み、アルバムタイトルを刻んだたすきを肩にかけ、左手で大きな星条旗を掲げるその姿はロデオクイーンへのオマージュだと考えられる。
ロデオクイーンは、乗馬技術以外にも弁論や知識、容貌、人格までが認められて初めてなれるもので、ロデオの「顔」と言われる。

※19
この部分に関しては、今年の4月1日に行われた「iHeartRadio Music Awards」において、イノベーター賞を受賞し壇上に上がったビヨンセが、「すべてのレコード会社・ラジオ局・音楽アワードに向けて」という形で、自身の声でも同じメッセージを伝えている。

※20
先述した『Daddy Lessons』のリリースからCMAsでのパフォーマンスまでの出来事を指していると考えられる。

※21
ビートルズ(The Beatles)やドリー・パートン(Dolly Parton)の楽曲のカバーが収録されていることや、トラック数が史上最多の27であるというようなことを指していると思われるが、もはやビヨンセのやることでサプライズじゃないことはほぼ無いため真意は不明。

※22
昨年行われた「RENAISSANCE WORLD TOUR」内でも「私は目を閉じて、時空の領域を旅する。現実世界に私の気持ちは左右されない。」という類似したフレーズが見られる。
不平等で困難な現実に目をつむり、これまでの慣習に縛られない新しい世界を創造するという意味を「目を閉じる(close my eyes)」という行為に込めているのかもしれない。

※23
ビヨンセという一人の黒人女性としての感情の表現でもあり、圧倒的な才能をもってジャンルの垣根を飛び越えた新時代の音楽でもあり、決して楽ではなかった27年間のキャリアの末にこの大きすぎるコンセプトをその手腕で見事にまとめ上げたアルバムでもあり、というこれほどこのアルバムの形容詞として適切なものもないと感じるし、この一言にビヨンセが込めた意味や気持ちを考えると熱いものが込み上げてくる。

★ 2024.03.20 限定版カバーアート発表

『COWBOY CARTER』限定版カバーアート

公式ストア限定で予約販売されていた限定版のCD・Vinyl(※24)の特別カバーアートが公開。
ブレイズ&ビーズのヘアスタイルで「act ii BEYINCÉ(※25)」と書かれたたすき以外は何も身につけずに、右手に葉巻をもって立っているというもので、前日に公開されたものとの共通点は3色のたすきだけである。
ヴィーナスや自由の女神像を思わせるこのカバーは、カントリー文化というよりは、アメリカ合衆国における黒人文化を前面に出したようなカバーアートとなっている。

※24
予約販売時には「ボーナストラックを含む」と記されてあったにもかかわらず、3月29日のリリース以降、CDとレコード盤にはデジタルリリース版に比べてトラック数が少ないことが明らかになり、困惑したり非難するファンも少なくなかった。
(CDには『SPAGHETTII』『THE LINDA MARTELL SHOW』『YA YA』『OH LOISIANA』の4曲、Vinylにはこの4曲に加えて『FLAMENCO』が未収録)
しかし、ただ収録曲数が少なかっただけではなく、『RIIVERDANCE』『II HANDS II HEAVEN』『TYRANT』はより長いバージョンで収録されていたり、他にもいくつかのトラックで細かい違いが見られるものであった。
限定版のカバーアートが通常版のものよりもずいぶん前に撮られていたという情報があったり、限定版のたすきに刻まれた文字が「COWBOY CARTER」ではなかったことから、また、前作とは異なり現在販売されているフィジカル商品にはブックレットが同封されていないことからも、リリース時期が近くなってから大きく変更された部分が大きかったのだと思われる。

※25
この「Beyoncé」のつづり違いの「Beyincé」については、2020年のポッドキャスト番組内でビヨンセの母であるティナが詳しく話していた。
その話によると、そもそも「Beyoncé」という名前はティナの苗字・旧姓であり、母や兄弟姉妹も同じ苗字のはずであったが、ティナのものだけがつづりが異なっていたという。
そこでティナが母に尋ねたところ、故意かどうかはさておき出生証明書に誤ったつづりで書かれてしまい、訂正をお願いしたところで「黒人なんて出生証明が出るだけありがたいと思え」と相手にされなかったという経緯があったそう。
つまり、このたすきに書かれた「BEYINCÉ」は母ティナの本来の苗字であり、「Beyoncé」という名前はより個人的な差別の爪痕として今に残っているものだということがわかる。
母ティナ、そしてビヨンセ自身のルーツへ立ち返るという側面が大きい今作では、母の本来の苗字であり、ひとつの黒人一家が受けた差別の痕跡でもあるこの名前をタイトルにしようと考えていたとしてもうなずける。


★ 2024.03.27 トラックリスト発表

トラックリスト発表時に公開された
当時のチトリン・サーキット風ポスター

 1週間の沈黙を挟んで、リリース2日前になった段階でトラックリスト(※26)が公開された。名曲のタイトルがいくつか登場していたり、大御所アーティストの名前も見られたが、どれが実際の曲名にあたるのかや曲の順番、フューチャリングアーティスト、赤・青・白という色分けの意味など正確にはわからないことも多かった。
 ポスターの上部には、「ロデオ・チトリン・サーキット」(※27)という言葉があり、下部には「KNTRY・ラジオ・テキサスがお届けいたします」との文言(※28)が書いてある他、アコーディオンを持つビヨンセの姿などここでしか見られない写真の切り抜きも使用されていた。

※26
最新アルバムのトラック名には、「★」が使用されていることや「II」の並びが多用されているという特徴がある。
前者はアメリカーナやテキサスへのオマージュであり、後者は「act ii」を意識してのことだと考えられる。
また、今作に参加しているカントリー界のレジェンドアーティストや新人アーティストのほとんどが、それぞれ2つずつ楽曲制作に参加しているという共通点も見出せる。

※27
「チトリン・サーキット」は、20世紀前半に黒人のミュージシャン・エンターテイナーが白人からの差別をまぬがれて安心してパフォーマンスができる場所としてつくられていた会場の呼称。
トラックリストとして発表された画像も、当時のチトリン・サーキットで実際に作られていたポスターをオマージュしたものとなっている。
故ティナ・ターナー(Tina Turner)が「アイク&ティナ・ターナー」として活動を始めたキャリア初期に、小規模でアットホームなコンサートを同様の「チトリン・サーキット」と呼んでいたことでも知られる。
ちなみに、「チトリン(Chitlin’)」は、豚などの家畜の腸を煮たアフリカ系アメリカ人の伝統料理の一つである「チタリング(chitterlings)」が由来となっている。
当時奴隷として家畜の解体などを任されていた黒人たちが、白人の奴隷主が捨てていたものでも「食べられるものは余すことなく食べ切ろう」と考えて生まれた料理で、ここにも黒人の文化・歴史が反映されている。

※28
スーパーボウルの日に公開されたティーザー映像にも見られたように、今作では「ラジオ」が大きなモチーフとして用いられている。
アルバムは全体として、「KNTRY(=COUNTRY)・ラジオ・テキサス」という架空のラジオ局の放送という体で進行していく。
(前作『RENAISSANCE』では、「KNTY(=CUNTY) 4 NEWS」という架空のニュース番組がコンサートや公式インスタグラムなどに登場していた)
そのラジオ局の放送には、カントリーミュージックを代表する大御所ウィリー・ネルソン(Willie Nelson)&ドリー・パートンに加えて、黒人女性として初めてカントリー分野で商業的に成功したとされている(それでも過酷な業界の中、数年で引退している)リンダ・マーテル(Linda Martell)がそれぞれラジオ番組を担当しており、DJとして次にかかる曲の導入部分を担っている。
また、ラジオという媒体に注目してみると、カントリーミュージックが今日のような大きなジャンルへと発展していく過程においてラジオが果たした役割はとても大きく、また現在でもアメリカのラジオ放送におけるカントリージャンルの強さは衰えていない。
さらに、歴史的に差別を受けてきた黒人という点から見ても、黒人音楽が白人にも聴かれるようになったきっかけが、テレビ放送へと移行した白人たちが使用しなくなったラジオチャンネルで黒人が自分たちの音楽を放送し始めたことにあったという歴史も関連することとして挙げられる。
こうしてラジオを一つのテーマとして取り上げたアルバムであったが、その先行シングル『TEXAS HOLD ‘EM』のリクエストを受けたオクラホマ州のカントリー専門ラジオ局「KYKC」は、「ビヨンセはうちの局では流せない」と放送を拒否し、SNSを中心に大きな話題となった(のちにカントリースタイルの楽曲だとは知らないまま返答してしまったと弁明している)。

〈参考サイト〉


★ 2024.03.29 リリース当日

日本時間で26日にビヨンセの公式サイト等に秋田県の日本酒「雪の茅舎」シリーズの写真が載せられており、またリリース前日には、昨年の夏にオープンした銀座のナイトクラブ「Zouk Tokyo」で行われるアルマン・ド・ブリニャック(最上級シャンパン)のイベントにオーナー(=ジェイ・Z)ファミリーが参加する旨がクラブの公式アカウントで発表。
さらに同日、ジェイ・Zのプライベートジェットが和歌山県付近を飛行しているという情報に合わせて、ビヨンセも飛行機内で撮影したと思われる写真を投稿していた。その日の夜にジェイ・Zだけがそのクラブに登場した。

そしてリリース当日の29日(※29)の11時に、タワーレコード渋谷店(※30)の公式アカウントよりビヨンセが緊急来日中であることとサイン会が開催されることが発表された。
会場にはビヨンセだけでなく、ジェイ・Zにケリー・ローランド(Kelly Rowland)と3人の世界的スーパースターが集合していた。
さらに、整理券を獲得した150人ひとりひとりにサインを手渡しし、握手やハグ、会話までできたというように、しっかりとファンと二人だけの時間を設けるという宇宙的神対応も話題となった。

その後、日本国内での目撃情報などは特になかったが、4月後半にかけて公式サイト等で日本国内で撮影された写真が連日投稿された。

※29
世界各国の標準時基準での0時に各デジタルプラットフォームでの配信が開始されたため、日本でも29日になると同時に『COWBOY CARTER』を聴くことが可能であった。

※30
世界各地でアルバムプロモーションのポスターや広告が出ていた中、日本でおそらく唯一、新アルバム『COWBOY CARTER』の広告が出ていたソニービジョン渋谷がある建物「渋谷MODI」のすぐそばに「タワーレコード渋谷店」も位置している。


★ 2024.04.03 ALWAYS BEEN COUNTRY

beencountry.com の様子

公式サイトや公式アカウントに突如「ALWAYS BEENCOUNTRY(ずっと昔からカントリーだった)」というフレーズ(※31)がゆっくりと明滅する画像が掲載され、「beencountry.com」という特設サイトも公開された。
サイトは不定期に更新され続けており、テキサスやカウボーイ、カントリーミュージックに関連する写真や言葉などが掲載され、そのほとんどがこれまでのSNSや映像作品の中で使用された既出のものから選ばれている。

またほぼ同じ頃に、新アルバムの先行シングルの一つで
あった『TEXAS HOLDʻEM』の「PONY UP REMIX」というリミックストラックがリリースされた。(※32

※31
このフレーズは、2つのリードシングルのリリースを受けてアメリカの「TIME」誌に掲載された記事に同じ言葉が含まれており、後に販売が開始された公式グッズTシャツの一つにも使用されていたもので、ロサンゼルスでは同様のポスターも掲示された。
今回のアルバムに沿ったメッセージを込めた写真を掲載するためだけのサイトなのか、別のプロジェクトの始まりなのかは不明。

※32
前作『RENAISSANCE』でも1つ目のリミックスは先行シングルであった『BREAK MY SOUL』のものであった。

〈ビヨンセ公式特設サイト「BEEN COUNTRY」〉



WHAT IS A B9?

ビヨンセのソロキャリア9枚目のスタジオアルバムであり、3部作の最終幕となる『act iii ???』。第1幕のリリース直後からさまざまな推測が生まれていたが、3分の2を過ぎた今現在でわかっていることや考えられることをまとめ、来る完結の日に備えたい。


● いつリリースされるのか

これまでの2作品を振り返ると、『act i RENAISSANCE』のリリースが2022年の7月29日、『act ii COWBOY CARTER』のリリースが2024年の3月29日であった。
最新アルバムでは、新たなトラックの追加やプロダクションの変更などが見受けられたが、第1幕の時に公開されたメッセージの通りであれば、すでに3枚目のレコーディングも大部分は終わっているものとして考えられるだろう。
よって早いテンポで進めば、来年にかけて『COWBOY CARTER』を伴うワールドツアーが開催され、再来年の2026年には第3幕がリリースされる可能性が考えられる。(※33

※33
第1幕と第2幕のリリース日はちょうど4ヶ月の間が空いているため、1年が12ヶ月であることを考えれば、次は11月29日が思い浮かぶが、「金曜日にリリース」という大前提を守れば一番近い11月29日の金曜日は2030年になる。
それは少し遠過ぎると思われるので、29日の金曜日で縛れば2026年の5月29日か2027年の1月29日が該当する。


● どんな内容になるのか

第1幕と第2幕に共通するコンセプトとしては、白人がつくりあげた都合のいい歴史の中で、見過ごされていってしまった黒人たち(音楽という領域に限らず)の功績・貢献・文化・歴史を現代において今一度すくい上げ、光を当てるとともに祝福・感謝するという風にまとめられるだろう。
そういった観点で、ハウスミュージック・カントリーミュージックに並ぶ音楽ジャンルとしてSNSなどでよく挙げられるのは、ロックミュージック(※34)である。

ここで、多くの人に言及されている最新アルバム収録曲『YA YA』の歌詞の一部を取り上げたい。

 We gon’ bust it down from Texas to Gary.
All the way down to New York City.

 私たちは踊り続けるの、テキサスからゲーリー、
そしてずっと向こうのニューヨークまでね。

ここに登場する3つの都市が、3部作で取り上げている音楽ジャンルそれぞれのゆかりの地であるというのが大体の共通認識となっている。
そうするとテキサスは第2幕のカントリーミュージック、ニューヨークは第1幕のハウスミュージックとなり、残りはゲーリーである。
ゲーリーはインディアナ州の工業都市で、ビヨンセが敬愛するマイケル・ジャクソンらの出身地として知られる場所である。
安直ではあるが、マイケル・ジャクソンは「キング・オブ・ポップ」と呼ばれるアーティストであることから、3部作を締める次回作はロックンロールよりも、そこから派生したジャンルであるポップミュージック(※35)をテーマに据えるのではないかと思われる。
最新アルバムまでの数ヶ月を振り返ると、グラミー賞でのすぐに見つけられるような真っ白なカウボーイハットやスーパーボウル当日の非の打ちどころの無いウェスタンな格好など、ビヨンセは公の場に姿を現す時にはいつでもヒントを与えて来た。
次回作がポップミュージックだと仮定した途端にどんな服装になるのか想像がつかなくなったが、服装の変化に注意する意味は十分にあるだろう。

この3部作がどこまでつながりがあるものとして制作されているかはまだわからないが、連作というビヨンセ初めての試みでつくられた3枚が揃い、それを一度に聴けるその時の体験は、圧倒的で衝撃的な唯一無二なものになることは間違いない。

※34
第1幕のリリースを知らせる動画でもウェスタンとロックをミックスしたような服装をしていた。
また、『BREAK MY SOUL (THE QUEENS REMIX)』や先日の「iHeartRadio Music Awards」でのスピーチなどでビヨンセが名前を出しているロゼッタ・サープ(Rosetta Tharpe)(『SMOKE HOUR ★ WILLIE NELSON』の冒頭にも、楽曲『Down by the Riverside』の彼女が歌ったバージョンの一部が使用されている。)は、ロックンロールの先駆けとして知られる黒人女性であるということを指摘する人も多い。
ビヨンセのこれまでの楽曲でロック寄りのものとしては『Hip Hop Star』(『Dangerously In Love』)、『Haunted』(『BEYONCÉ』)、『6 Inch』(『Lemonade』)などが挙げられるようだが、やはりジャック・ホワイト(Jack White)を迎えた『Don’t Hurt Yourself』(『Lemonade』)のインパクトは強い。
『COWBOY CARTER』リリース直後に、ビヨンセが「今回のアルバム制作においても、あなたにとてもインスパイアされた」というメッセージと共に、ジャック・ホワイトへ花を贈ったことも明かされていた。

※35
ここでは単に大衆的で商業的性格の強い音楽という意味ではなく、ロックやカントリーを含む他ジャンルからの要素を取り入れて成立し発展してきた音楽ジャンルを指す。
そのポップミュージックというジャンル自体も黒人差別の問題を孕んでいると言われ、同じ楽曲でも白人が歌えばポップ、黒人が歌えばアーバンなどの違ったジャンルに分類され、楽曲のジャンルがその作品の売り込み方や扱われ方に直結するため、黒人アーティストの作品は現在に至るまで軽んじられる場合が多い。
戦時中から戦後にかけては、黒人アーティストに充てられる予算が大幅に削られた上、白人アーティストによる黒人音楽のカバーが「ポップ」というジャンルで人気を博していくという「文化盗用」が目立ったという。
このように「ポップ」は白人が自分たちに都合のいいジャンルとしてつくりあげていった音楽ジャンルであり、黒人の音楽・文化が貶められて来た証とさえ言えるものである。
そのような現在にまで続く「音楽ジャンルと人種」という問題は、最新アルバムに寄せたメッセージや授賞式でのスピーチなどからもわかる通り、この3部作の最大のテーマとも言える。
次回作においてビヨンセがどのジャンルを中心的に取り上げるにせよ、世界中の人々に学びを与え、歴史を変えるような作品になるのではないだろうか。

〈参考サイト〉


● ヴィジュアル作品について

3部作以前の作品が音楽作品やミュージシャンにとってのヴィジュアルの考え方を大きく変えるような革新的なものであったためか、第1幕がリリースされた直後から現在まで、ティーザー映像以外何一つMVの類がリリースされていないことに戸惑いを隠せないファンは多い。
第2幕のアルバムリリースまで完了した現段階で考えると、現在進行中のこの3部構成の大作は、音楽アルバムとしては3つに分かれていても、映像作品としては一本の作品となっている可能性が高いように思われる(※36)。

さらに次回作が、MVがその普及に大きく影響を与えたとされるポップミュージックとなれば、第3幕リリース後に待望のヴィジュアル作品が発表されるという流れは合理的に思える。

※36
第2幕は公式のリリックビデオなどにおいて、第1幕よりもヴィジュアル要素が豊富であった。
そして、スーパーボウルの日に公開されたティーザー映像内では、タクシーが山道をー走り抜けていくショットの中で、初めは「HOLD ‘EM」となっていたナンバープレートが、「TIQUE」(前作にあたるアルバム『RENAISSANCE』に同タイトルの楽曲が収録されている)に変化していることも確認されている。
その他にも、ワールドツアーなどで使用されたヴィジュアルなどとも共通点や関連が見られる。
今回も前作の時同様に、MVのティーザーが公開されるかもしれない。


— 終 —

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