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5/2ト書き

女は一人踊っている。ビルの8階にあるそのクラブは入り口で靴を脱いで上がる。照明を落とした店内はミラーボールがゆっくりと回転し、数人の男性客(おそらく常連と思われる)が揺れている。女はドリンクを頼むと隅の窓際にたばことライター、ジントニックの入ったプラカップ、スマートフォンを持っていき、静かに体を揺らす。知り合いもおらず居心地の悪さを誤魔化すかのように時々スマートフォンを手に取り特に通知のない画面を開いては閉じる。ハウス系はあまり好きではないが家の近所でエントランスフリーであるこの店には時々来ている。女は家に帰って溜まった洗濯をしなければならないし、早く帰って帰りに買ったカップラーメンを食べようかとも思ったが、今日も寄り道をしてなかなか帰ろうとはしない。こうやってこの文章を書いているのもこの場の気まずさをまぎらわすためだけである。なんの意味もないことを積み重ねるだけで日々やり過ごしている。あと8分したら帰ろうと女は思う。

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