ねこ

心配は堕ちる
俄然速度を増して
ただただ
堕ちる

その果てはない

わたしはねこをなくしたかもしれない
不安で胸が
カリカリ音をたてた

なぜこんなにも不安なのか
何もわからないからなのか
せめて
あの子が家出癖のある子なら
こんなに胸が騒いだりしなかったのかもしれない

あの子が帰ってこない
たったひとつわかることがこれだ

ルルルルルルルル、、、

電話のベルは永遠に鳴り続けそうな勢いだ

誰か
早く声が聞きたい
安心したい

ルルルルルルルル、、、

ねこだけじゃないの?
誰も彼も、
居なくなってしまったの?

心配は種をつけた
双葉になった心配は
わたしの胸で窮屈そうに折れている

お願い
早く帰ってきて

どこに行ってたのよって、怒ったりしないから

かつおぶしをあげる
あなたの喜ぶことの全てをしてあげよう

冒険を求めていたのなら
あなたに最高のファンタジーを語ろう

外は雪が降りはじめた
また、心配の種が、ひとつ

ルルルルルルルル

手のひらで電話のベルがけたたましく鳴り響いた

「はい、もしもし」

おばあちゃんだった

わたしはおばあちゃんと話すのが苦手だ
「あれ」とか「それ」とか
無意味な単語を積み重ねていくだけで、
話が前に進まない
受話器の向こうでおばあちゃんは
「ほぁ〜」という声を出していた

この声、この音階、
いつもわたしをイライラさせる
おばあちゃんの声

おばあちゃんは「荷物が」とか
「手紙が」とか、そんな単語を繰り返していた

そんなことより、ねこ、
ねこなの
わたしは無性にねこのことを話したかった
だけどどうせ会話にはならないだろう

わたしは電話を切った

しばらく、わたしの胸はいろんな音を立てていた

カリカリ、イライラ、ズキズキ、、、

いろんな事が急に嫌になった

猫が、たった1日帰ってこなかった
そんな事でこんなにも不安になってしまう自分が嫌になった
理不尽な理由でイライラしてしまう、自分が嫌になった

心配の種はいつか
ホウセンカみたいに弾けるんだろうか

壁が背中に、ひんやりと冷たかった

ビー、、、

空気を微かに振動させて、
インターホンが鳴った

大きな荷物が届いた

粉っぽい表面の段ボール
すぐにおばあちゃんからだとわかった

持ち上げると、その大きさに反して異様に軽い
ガムテープを剥がして蓋を開いた

箱いっぱいのかつおぶしだった

ひとつ、ふたつ、みっつ、、、
大きなかつおぶしの袋が10袋も入っていた

わたしはすぐに受話器を掴み
短縮1を鳴らした

ねこのことを話そう


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