「灼熱」魔法少年☆ワイルドバージン(公開まであと5日)

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こんにちは今田(赤貝)です。カッコ内は好きな寿司ネタです。

共同脚本の立場から『魔法少年☆ワイルドバージン』のさまざまな裏話を紹介したいという一念であれこれ記事を書きはじめましたが、作品後半のめちゃくちゃな展開は筆舌に尽くしがたく、やはりいきなり劇場で観てもらいたいと思います。ほかにもおもしろいシーンはいくらでもありますが、同様の理由でぐっとこらえなければならない。悔しいです。代わりと言ってはなんですが『シザーハンズ』のいちばんおもしろいシーンを紹介します。

混乱したエドワードがウォーターベッドを突き刺すシーンです。

とはいえ、ネタバレを避けすぎてなにも言わないのも申し訳ないので、共同脚本としての勝手な判断のもと、中盤のワンシーンの撮影裏話を紹介したいと思います。

どういうシーンかというと、ぼく(今田)が出ているシーンです。

撮影は真夏の真っ昼間に行われました。そのシーンでぼくは数人のこどもたちと鬼ごっこをすることになっていました。撮影時84歳を迎えたばかりで体力に不安はありましたが、かつては1万メートル走で新潟県代表にまでなりかけたぼくです。真剣に鬼役を演じつつ、しかしあっという間にシーンを終わらせてはいけない。「わかるぜ、宇賀那」とつぶやいて監督を見ましたが特に目は合いません。でも心は通じ合っている。助監督さんが叫び、リハーサルがはじまります。

「じゃあみんな、逃げて!」

逃げ出すこども。追いかけるぼく。
気温は40度。日本のいちばん暑い日。

「はーい、ありがとう!」と助監督さんが叫びます。リハーサルが終わりました。終わったはずでした。しかし不思議なことにこどもたちは逃げ続けます。ぼくは灼熱の中で震え上がりました。こいつらまじで鬼ごっこをやってる。その瞬間、ある映画監督が「カメラの外で起こっていることもカメラには映る」と言っていたのを思い出しました。ぼくはその言葉をカメラに映らないところまで美術を徹底したり、役を作り込んだりすることだろうなと思っていました。しかし、それは違いました。

鬼ごっこを撮りたいなら、鬼ごっこをし続けねばならない。

ぼくは必死でこどもたちを追いかけました。カメラが回っているかいないかもわからない。どこまでがリハでどこからが本番かもわからない。足どりは重くなり、かなりリアルな芝居に近づいてきている実感がある。こんなに疲れることってあるのか。少なくともかつての専門だった1万メートルはゆうに超えたな、と思ったころ、助監督がなにかを叫び、ぼくとこどもたちは強制的に移動させられました。

撮影場所のそばを何台もの大型トラックが通りすぎていく。なにかの拍子にこどもが飛び出すと危険なので、いったん退避させたようでした。しばしの休憩で深呼吸をするぼくに、ひとりのこどもが言いました。

「ドラマとか出てるの?」

逆転のチャンスだ。みじめな鬼でしかなかったぼくはまた深呼吸をし、息を整えました。しょせんはこども。詳しいことはわかるわけない。ぼくは数少ない芸能歴を100倍にして語ってやろうと思いました。まずは「この映画の脚本を書いているんだよ」でアップをかまそう、と思ったその瞬間でした。

「オレは◯◯出たよ!」

月9のタイトルでした。先輩でした。

「はーい、じゃあみんなもう一回ね!」

周囲の交通を確認した助監督が叫び、こどもたちが撮影位置まで全力で走っていきます。立ちつくすぼくに宇賀那さんが小走りで近づいてきます。

「今田さん、ちょっとダラダラした走りに見えますね」

がんばります。小さくつぶやいたぼくは、先輩たちのもとまで走りました。もはや1万メートルどころかフルマラソンに近い距離を走っていたと思います。気温は41度を超えたあたりでした。

大河ドラマ『いだてん』よろしくお願いします。

あと『魔法少年☆ワイルドバージン』もよろしくお願いします。

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『魔法少年☆ワイルドバージン』
12月6日より新宿バルト9、梅田ブルク7にて公開
http://wv-movie.com

ここだけの話、今田を金銭的にサポートできる仕組みができました。お気持ち(100万円)だけでもけっこうです。あなたが読者になっていただけるのなら、あとはもう、ほんの少しの8億円くらいで十分です。