「良夢」魔法少年☆ワイルドバージン(公開まであと3日)

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こんばんは。今田です。楽しみすぎて眠れません。

きっとみなさんも同じだと思います。『魔法少年☆ワイルドバージン』公開まであと3日となり、そこかしこから早く観せろ早く観せろと怒号の声が聞こえます。しかし、それを言うなら宇賀那監督を初めとする我々も同じ気持ちです。早く観せたい早く観せたいと怒号の声をあげています。怒号と怒号のぶつかりあいはやがて暴動寸前にまで至るでしょう。

「早く観せろ!」『早く観せたい!』
「早く魅せろ!」『早く観せたい!』

映画を観たい人々と映画を観せたい人々。気持ちは同じはずなのに、なぜ憎しみあわなくてはいけないのか。一度始まってしまった諍いは誰にも止めることができず、それは公開初日、ピークを迎えます。

「早く!」『早く!』「早く!」『早く!』
「早く!」『早く!』「早く!」『早く!』
「早く!」『早く!』「早く!」『早く!』

そのときです。

「静まれ!」

暴徒たちを一喝するひとりの老人。小柄な体から発されたその声はあまりにも大きく、新宿バルト9のスクリーンがびりびりと振動します。真空状態のような静寂に包まれる劇場。「誰ですか?」おそるおそる尋ねたぼくを「しっ」と制止すると、宇賀那監督は言いました。

「バルト9に住む、伝説の映写技師です……」

そのとたん「嘘だろ。あれ、サトルさんかよ」と星村役の前野朋哉さんがつぶやきます。相棒である月野役の芹澤興人さんもなぜか広島弁で「実在してたんか」と続く。ヒロイン秋山役の佐野ひなこさんがわっと泣き出すと、彩花役の田中真琴さんがもらい泣きを始める。関係者たちもまた同じく。行き交う会話を飲み込めないぼくに、今作で唯一の悪人・小池役を演じた濱津隆之さんが語りだします。

「バルト9ができる前、ここには新宿東映会館という大型の劇場がありました。サトルさんは1957年の開館時からそこで主任映写技師を務めていた伝説の人です。国内・海外を問わずたくさんの作品に携わってきた彼を、いつしか人は <ヒット作上映人> と呼ぶようになりました。つまりサトルさんが映写した作品は必ずヒットに恵まれると」

語り終えた濱津さんは静かに目をつぶると、一筋の涙を流しました。音楽制作とプロデューサーを務めた小野川浩幸さんが続けます。

「もちろんただのジンクスだよ。ひとりの映写技師の力でヒットが決まるほど映画は甘くない。それに、あの時代はたしかにたくさんの名作があったけど、どうにもならない作品も同じくらいあった。ただ……」

言葉に詰まる小野川さん。泣いているのだろうか。

「サトルさんが映写してくれることを、ぼくたちは喜んでいいと思う」

ぽつり、ぽつりと降り始めの雨のような拍手が、やがて大降りになって劇場を満たしました。観客もスタッフも全員が泣きながら笑っている。ぼくはただひとりうずくまって嗚咽するその人に声をかけました。

「宇賀那さん、おれたちの映画が始まるよ」

老人がゆっくりと右目の眼帯を外す。吸い込まれそうに深い黒をたたえたその瞳がまばゆく輝いたかと思うと、そこからひとすじの白い光がスクリーンに放たれました。後日その瞬間の感動を宇賀那さんがLINEで伝えたところ、斎藤工さんはこう答えたそうです。

「よかった。そんな気がしていました」

スクリーンで103分の夢がはじまります。

そこで目を覚ましました。

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『魔法少年☆ワイルドバージン』
12月6日より新宿バルト9、梅田ブルク7にて公開
http://wv-movie.com

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