花冷え

 伸ばした指の先、綻びかけのその一輪は、季節はずれの寒波にその身を凍らせ、今まさに枯れ落ちようとしていた。
 ため息が白く凍る。
 この春ようやく残った一輪だった。
 以前はあんなに咲いていた花も、今は数年かけて、たった一輪。
 屈み込み、薄く雪の積もった地面に触れる。

「まだ、怒っているのかい?」

 あの日、雪の上に無数に散った、赤い花を幻視する。
 僕は今でも覚えている。
 満開の花々を前に、それと見紛う君の笑顔が咲いたのを。

 あの日、君は僕に笑ってくれなかったけれど、その笑顔をこの手の中に見るまでは…
 僕は笑みつつ木を見上げる。
 ひび割れた薄い唇に、雪が一片、落ちて溶けた。

「…さぁ、また一年、もう一度」


@Tw300ss 第52回  お題「咲く」 ジャンル「オリジナル」