あわい

 鼻を摘まれても分からないような真っ暗闇の中、何処からともなく金木犀の香りがして、僕は顔を巡らせる。
 訳もわからず、長いこと、只ひたすらに歩いている。
 足元はずっと浅瀬の様で、歩く度にチャプチャプと音がする。

 突然誰かに手を握られ、ギョッとなって隣を見た。誰も居ない。只、温い手の感覚だけがある。
「また君かい?」
 苦笑まじりに溜息をつく。
 いつもほんの短い時間、誰かが手を引いてくれる。
 この手が無ければ、歩くのをとっくに止めていたかもしれない。

「やぁ、まだ寝てるの?」
 寝台の彼に声を掛け、枕元のコップに金木犀の小枝を差した。
 部屋に響く、規則正しい電子音。
 そっと冷たい手を握る。
「待ち草臥れるから、早く起きなよね」

@Tw300ss  第58回  お題「夢」 ジャンル「オリジナル」