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連載小説【夢幻世界へ】 2‐3 乳房にフォーク

【2‐3】


 オフィスビルを後にし、飛行場に向かうため歩道を歩いている。

 空は曇天、重苦しい水分を含んだ雲が垂れ下がっている。

 ビルに張り付いたデジタルサイネージが証券会社の株式情報をスクロールしている。

 企業広告、イベント情報、迷い犬の告知、市民が必要としない情報、個人の露悪的情報。世の中には必要としない情報が氾濫している。情報が人々の心の足元を引っ張って、スムーズに動くことを邪魔している。

 その広告の中に、知り合いの女官が現れ、こちらに向かって話しかける。


 そろそろ満ち潮になります!

 気をつけて!

 気持ちをしっかり持って!


 びっくりするより、不思議な気持ちになる。

 歩きながら彼女の伝えていることの意味を考える。葉層構造にある実態世界の強度が増し、スキャニングが効きにくくなっている。

 ここは、どこだ?

 世界を把握する関係性の密度が高まり、徐々に綻びが発生してきた。遠くのビルディングの壁がポロポロ崩れていく。歩行者の顔から細かい表情が薄れて能面になっていく。車のナンバープレートが見えにくくなる。交通標識から住所が断片化されていく。

「道●坂三丁目」

「歩●者専用●路」

「9時から●時まで進入●止」

「日本●済●聞無料お●し」

「フォークと裸体」

歩きながら、女性の乳房に銀色の光るフォークを使って撫でるイメージを思い浮かべる。突き刺すこともできるが決してそうはしないで、すべすべした、卵型をした乳房の上にフォークを走らせる。


しまった、意識の溶解が始まっている。さっきの女官はその警告であったか。「満ち潮」とは、世界構築力を支えている自意識が弱まり、精神の奥底にある、別のもの、別の次元の影響力が増すことを示すのだ。

 それが分かりつつあるなか、それに抗することができずに私の意識が変容していく。


 おろおろしている私の眼前に昔の彼女が現れた。

 にやっと笑って言った。

 「北海道には、行かせません」

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