見出し画像

連載小説【夢幻世界へ】 2−7 第二の奇跡

【2-7】

 四十七都道府県が存在したのは今から二十年以上前のことだ。国はいつの頃からか、右肩上がりの経済成長を陽炎のような儚い夢物語と捉えるようになっていき、得意の「過去を無かったことにする」という手法を幾千もの公文書と無意味な議会の公聴会によって「変化に対応する」という大義名分とともに現実に使用した。

 大阪は関西州となり、京都は関西州の文化観光首都となった。もちろん経済政治の首都は大阪で、神戸は貿易振興と医療首都だ。奈良と和歌山の一部は資源開拓地域(山間部を一万メートル掘り進んだことであるはずもなかったシェールガスが発見され、大阪ガスはその利権で社名を日本ガスにすることができた)、和歌山沿岸部は海洋資源開拓地域となった。

 兵庫・京都・福井の日本海側は同じく海洋資源開発地域と、国防第三エリア(朝鮮半島とその奥のロシアを仮想敵国としている)と位置付けられ、高浜原発の跡地に原子力空母と潜水艦の基地と大規模な自衛隊駐屯地が整備され、京都府北部の荒廃していた山林は一大ベットタウンと化していた。

 関東は首都圏が特別首都州とし、その周辺部の信越、関東、神奈川山梨エリアが州として括られ、中心部に人口が集中過多になるのをかろうじて押しとどめていた。北海道がデータ産業の興盛から地域独立運動をしたのをきっかけに、沖縄、東北が分離独立運動をし、日本は十数年混乱状態が続いた。それを止めたのが中部地区の自動車産業の家主であった。

 家主は国家連携を呼びかけ、グローバルニッチ産業で世界的に影響力のあった京都企業や、九州の新興情報産業が、新たな日本をつなぐ量子ネットワーク(誤り耐性のある量子コンピュータが鍵となった)を構築し、地域間情報格差を理論上ゼロにしたことで、議会政治がリアルからネットに移行していき、国民の意思統一が瞬時にできる政治環境を作り上げることに成功したのだった。

 地域間情報格差だけでなく、それは脳内情報の抽出・転送技術の超越的な進化とともに、ひとは脳に直接接続するコネクトを使ってニューラルネットワークに入ることで、全国民の意識と無意識(これも理論上は)と直に繋がることができるようになった。

 新しい次元のインフラの登場で、多くのトラブルと事故、いざこざというには規模が大きすぎる人的災害が導入時期に発生したものの、日本の人々はそれを徐々に受け入れ、その中で意識・無意識・言葉によって社会を制御することに少しづつ自信を持ち、ついには他国との外交もほとんどその機能を使って交渉することで、政治的・経済的・軍事的優位を勝ち取ることができるようになった。

 各エリアは緩やかな連携を結び、自主独立とエリア(圏域)間の交易を確立することで、地域の伝統や独自性を残しつつ、流動的な成長の種を内包したまま併存することに成功した。未だ自衛のための装備は残るものの、日本国憲法の本願でもある戦争放棄、永久平和の実現を本当に手に入れるところまで成熟した社会になっていく姿は、世界各国から第二次世界大戦からの復興と並べ、「日本の第二の奇跡」と呼ばれた。

 ところがこの仕組みは、そのまま外部挿入していくことが可能なものであることに、世界各国が気づき始め、自国の変化を望まない(これは既得権益を大幅に毀損する)国から相次いで危険視されることとなった。

 よって日本は真の平和国家になったのにも関わらず、多数の国から暗に攻撃を受ける立場となってしまったのだ。

よろしければサポートお願いいたします!更に質の高い内容をアップできるよう精進いたします!