花屋でも素振りは大事

装花は作る人によって完成度が変わります。
その差はセンスとか技量と思われがちですが
実は挿す順番によっても大きく左右されます。

同じ素材を使って同じ形を作ると
同じものが出来そうですが
実は挿す順番はかなり重用です。
仮に見本があっても変わります。

なぜそうなるのでしょうか?
それはアレンジを作る際に
重視にしているものに差があるからです。

カタチを重視

形や大きさの正確性を重視するものは
アウトライン(完成形の外側)から作ります。
この作り方は量産する時に最適な方法です。

素材一つ一つに個体差のある花を使って
同じものを作る場合
サイズや形の統一性は
非常に重用な要素となります。

具体的には頂点・左右・中心など
外郭の主要ヵ所を先に挿し
間を埋めていくことで形を作ります。
外側=見える部分 から作るので
情報の共有もし易く再現性が高い手法です。

またこの手法は教えやすく・教わりやすい為
80年代をピークに
制作技法として広く採用されました。
現在でもフラワー技能士検定など
検定する必要のある物や
卓上装花や葬儀スタンドなど
量産が必要な現場で採用されています。

挿す場所・長さ・角度が決められているフラワー技能士3級課題

素材を優先

一方で素材の持つ魅力を重要視する事で
イメージがより活きる様にデザインしていく方法があります。

例えばナチュラルで優しい雰囲気を作ろうとした場合
花をサイズや形に当てはめてしまうと
ナチュラルというイメージを演出できずに
消化不良になりやすいです。

そんな時は形や大きさの均一には拘らず
素材の魅力を優先させ制作します。

具体的にはデザインの主役となる
構成要素の多くを占める花材を先に配置し
その後、さらに魅力を引き出すように
他の花を挿していきます。

素材の魅力を重視した作風

この手法はイメージ重視の挿し方なので
抽象的な表現になる事が多く
理論は存在存在しますが
感覚に頼る表現も多くなり
情報共有がしにくい手法となります。

教える側も言語化し難い為
「こんな感じで~」と言われる事もある
初心者泣かせな手法ですが
魅力が伝わりやすい為
近年人気の表現となります。

埋めるグリーンと見せるグリーン

アレンジメントを作ると一言で言っても
大事にしているものによって
製作へのアプローチが違いますので
当然挿す順番も変わります。

判り易い一例として 
葉物=グリーン があります。

カタチを優先する場合
葉物はカタチを壊しやすく
またデザインを形成する素材にはなり難い為
製作の最後に目立たない様に挿します。
これを花屋では「埋める」と表現します。
「あとはグリーンで埋めといて」と。

一方で素材を優先する場合
葉物も素材の一つであり
主役にも引き立て役にもなります。
その為制作のかなり早い段階で
葉物を使用することが多いです。
当然「埋める」事はなく「魅せる」

お店ごとに制作しているものは違い
アレンジ制作に対するプロセスが違います。
その為どちらが優れているか?
という話はしませんが
少なくとも、挿す順番が変わると
素材に求められる役割が変わります。

どういう順番で挿したのだろうか?
こういう目線で他の人のアレンジを見れると
飛躍的に表現力は向上します。

手直しは最高の勉強の場

名のあるフローリストが制作したアレンジが
飾って数日経ち、花の痛みが見えてきて
何本か手直しが必要になったとしましょう。

あなたがその手直しをする場合
先ず傷んだ痛んだ花を抜くでしょう。
痛んだ花を一本抜いたその時
完成から一歩手前のアレンジを
見ることが出来ます。
これは製作者が完成前に見た
風景に近いものであり
最後の一本と他の花の関係性を目視できる
貴重な体験となります。

実際に手直しを任されることは
ほぼありませんが
手直しは他者の作風を体感する
絶好の機会です。

なかなか無いこの貴重な体験ですが
画像を基に頭の中で一本足りない状況を
シュミレーションすることで
手直しを疑似体験をすることが出来ます。

作り手の視界を再現して得られる体験

最後にどの花を挿したんだろうか?
仮にカスミソウを
最後に挿したと想定した場合
カスミソウがない状態を
想像してみてください。

カスミソウがないアレンジが
想像出来ましたか?

そのアレンジに
今からカスミソウを挿しますが
カスミソウが入る場所が見えるでしょうか?
見えなかったらそのアレンジと
元画像との差を確認してください。
見えたなら更に一つ前に何を挿したか?
想像してみてください。

作り手の思考を探り
頭の中で疑似体感することで
その作り手の思考を学ぶことが出来ます。
「こんなスカスカで次の花を挿してよかったのか」などと発見がある事でしょう。

素振りは大事

疑似体験とは言え
一度体験すればそうそう忘れません。
好きな作風や好きな装花の写真を見て
作る順番を逆からたどり
疑似体験を重ねてみてください。

これを私は「素振り」と呼んでます。

こうやって素振りを繰り返すことで
様々な挿す順番を自分のモノにすることが出来ます。
色々な方の作り方の疑似体験を増やして
いつか自分が作る時に備えてください。

店舗勤務だとお店の作風や
先輩の模倣以上の刺激は得難いですが
素振りはいつでも全世界を取り込めます。
是非チャレンジしてみてください。

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