臭みのない否

知らない誰かが泣き腫らした顔で「今年一番泣きました」とか言ったり、見知らぬカップルが親指立てて「○○最高〜!」とか言ったりするやつあるだろう。映画のCMで。ちっちゃい子供に「人生で一番よかった」って言われてびっくりしたりする時もある。なんの映画か忘れたけど。あと変則技ではスタンディングオベーションしてる客席だけをただ映す「永遠の0」も怖かった。

この手のCMは好き派か嫌い派かで言えば、個人的には「全員死ね」派だ。どっちかって言うとだけどね。「全員死ね」ハト派。まあただ一視聴者がどうこう言ったところでしょうがない。いまんとこ存在し続けてるってことはそれなりに効果を発揮してるんだろう。

それにしても今回の「渇き。」のCMはちょっと変わってた。なんせいつも通りの賞賛の声に紛れて「最低だった」みたいな感想を言ってる観客まで登場するのだ。さらに困ったことに、笑顔だ。呆れた笑いでもなく、「『渇き。』さいこ〜!」の時と同じ調子で。こうなるといよいよわけがわからない。

この映画関連の見出しに「賛否両論」の四文字が添えられてるのを何度か見た覚えがあるけど、つまりこれも賛否両論キャンペーンの一環なのか。まあ最初は事実、賛否両論の反響があったんだろう、きっと。ただそれを取り込んでCMにするとなると、「マジなトーンはさすがにやばくね?」が入って、結果生まれたのがこの「さいて〜w」っていうにやけヅラってことなのか。「毒にも薬にもならないような無難な映画じゃありませんよ」ってアピールしようと動く過程で「毒を抜こう」ってなって、結果なんか変なもんが生まれるっていうこじんまりとしたヒューマンドラマは、なんだか少しハートウォーミングな気もする。

ところで、いい機会だから「渇き。」観てきた。そして普通に面白かった。ただ、事前に「賛否両論」の暗示がかかってる状況で期待しちゃうのは「めっちゃくちゃ面白い」か「生理的嫌悪を感じるくらい苦手」(それはそれで面白い経験だ)かで、「普通に面白い」はなんだか少し損したみたいになる。面白かったのになあ。公開してすぐ観に行きゃよかった。やっぱ賛否両論はてめえで言う事じゃないんだろうな。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?