ねこのはなし



そとで猫が鳴いている。けんかだが発情だかわからないが、ぶみゃあぶみゃあとやたらと濁音のおおい声で鳴いている。

クローゼットで眠るまさむね(最近のおきにいりの寝どこである)を見ると、グリーンのひとみをまんまるに覗かせていた。そとに返事をするようにナー。と鳴く。なんだなんだと言うのである。

まさむねはクローゼットからぴょこんと降りて部屋のとびらへ向かう。途中でいちど立ち止まって、やはりこちらの窓でいいか、ええいでも。と逡巡したようすを見せたあと、

それでも行かなければというように、隙間だけ開けていたとびらに右手を差しこみ、すっと開けて出ていった。とんとんとんと四つ足で階段を降りていく、こぎみよい音が聞こえる。


一連のようすを、まるで人間みたいだな。と見ていた。



我が家には三匹のねこが来る。


一匹め、チビクロ。

成猫の黒猫をチビと呼ぶのは、前に大きいクロも存在していたのである。しかしデカクロはもう二年と姿を見ておらず、チビクロの方はその間すくすくと成長し、もはやデカクロと呼んで差し支えないようになった。このあたりは黒猫がおおいので、こうやって世代交代を続けているのかもしれないと、密かにわたしは踏んでいる。


二匹め、ぶち。

まだら模様のねこである。朝昼晩ときっちり三食食べにやってくる。その都度ベランダに寄りつく人間に対し、わたし今日、まだ、もらってませんが?というように小首をかしげ、貰えるまで一生にゃあにゃあ鳴いている。やかましいので毎度こちらが折れているだけだからな。がふがふと餌を貪る背中をつついてやりたい気分になる。


三匹め、トラ。

我が家のそとねこズのボス、茶トラのトラである。こいつに限ってはもう住み着いていると言ってよい。気性が荒く近寄るとひっかくので、よその家では餌にありつけていないという。同情で餌を放りなげていると、いつのまにか雨の日は軒下で雨やどりをするようになった。こうなるとかわいいもので、猫パンチをよけながら、餌をやるのもやぶさかではない。



さて冒頭の、ぶみゃあというまるで踏んづけられたような鳴き声であるが。

気になったのでまさむねを追いかけると、そとの室外機に座ったトラが鳴いていた。

ベランダの窓越しに、まさむねが窺うようにトラを見ている。


そのあとすぐにぱらぱらと雨が降りだした。不思議なことに、雨粒が落ちていくのを見たトラはようやくだまり、とぐろを巻いて寝てしまった。

それを見たまさむねも、納得したようにベランダを離れ、もう一度二階へのぼっていく。


ねこは雨が降るのがわかるという。トラ軍曹の指揮下にて、ねこたちは無事屋根のある場所へたどり着けただろうか。

部屋に戻ったまさむねは、窓のそとを一瞥してから、雨音に聴きいるように眠りについた。






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梅雨の話を書こうと思っていたのだが梅雨が明けそうなので代わりのはなしあげる。






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