心臓に消えない愛を
ママが死んだ。まだ四十にもならなかった。
ママはまるで魔物のように美しい人で、私はずっと、この美しい人が人間だなんて、私の母親だなんて思えなかった。この人は若く美しいまま生きていくのだと思っていた。私は、桐箱に納められたママの頬が、まだやわらかく、冷たくくぼむのを見てようやく、ああこの人も人間だったのか、と思ったんだ。
「おねえちゃん」
まだ小学生になったばかりの妹の都が私の喪服の袖をくいと引く。不安げな顔をしていた。膝を折り、良い子ね、と一等優しく頭を撫でてやる。もうこの子には私しかいないから。
「疲れちゃったね。あっちの椅子に座ってていいよ」
都はロビーの椅子と私の顔を交互に見てからトコトコと歩いていった。小さな姿がロビーの雑踏をかき分ける。言いようのない視線はまだ六歳のあの子にも絡みついているのだろう。この場で私たちを見る視線は複雑だ。私でさえそう感じるのだから、小さいあの子にのしかかるのはどれだけなんだろうか。
暗い式場に私だけになったのを待っていたかのように、一度閉じられたはずの扉が重々しく開く。
「野菊」
この人の声は氷のかけらのようだといつも思う。私はゆっくりと振り返って、その男に向き直る。
「確かに、妹には聞かせたくない話だね?」
男は悪魔のように笑った。
母の恋人だったと名乗る、明郷というこの男が。
金銭借用証明書という紙を携えて、私たちを訪れたのは、ママが死んですぐのことだった。呆気にとられる私たちを横目に、ママの遺産は全てこの男の口座に吸い込まれ、私たちの元には三人で慎ましく暮らしていた借家と少しの家具、そしてママが返すはずだった一億円の借金だけが残った。
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結末まで決まっているけど止まった状態のものが出てきたから供養 続きここに書いていくかも
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